第19話 王子という名のゴミの本性

「まさか逃げるわけないよなぁ?平民」


決闘を受けない、というのは貴族にとって名誉の失墜を意味し事実上の敗北宣言だ。

しかし僕は平民だ。

名誉なんてものを気にする必要はなく断ることもできる。

でもそんなことをしたところで何の解決にもならないだろうし何より僕はシャーロットを守るために力を磨いてきた。

断る理由なんて一つも無い。


「わかりました。やりましょう」


「っ!?アランくん……」


「クックックッ!そうこなくてはなぁ!」


「しかしいつやるんですか?このあとは入学式ですが……」


「安心しろ。入学式ではもともと騎士を呼んでの模擬戦が予定されていた。そのタイミングで決闘できるよう学園にかけあってやるよ」


模擬戦は確か魔法で全校中継する予定だったはず……

まさか決闘を中継するつもりなのか!?

もし負けたらお互いの名誉は完全に0になるハイリスクな戦いだがいちゃもんをつけられることはないということか……


「……わかりました。それでいいです」


「シャーロットもそれでいいな?」


「アランくんがいいならいいです。アランくんがあなたに負けるわけありませんから」


「随分お熱いじゃないか。精々最後の時まで二人でいるといいさ」


そう言ってジェームズ王子はロバートを引き連れて教室の一番後ろの席に移動していった。

心の中にモヤモヤが残る。

シャーロットは相変わらず渋い顔をしていた。


「大丈夫だよ。必ず勝つさ」


「アランくんの強さは知っていますのでそこは心配していませんよ。それよりも指輪をけなされたことが許せません」


僕はそんなシャーロットの姿を見て苦笑する。

こんなに信頼してくれてるんだ。

絶対に応えてみせようじゃないか。


「その分もきっちりお返ししとくよ」


◇◆◇


今、新入生代表として首席入学を果たしたシャーロットが挨拶を終えた。

通信越しではあるものの僕は惜しみない拍手を送る。

隣では王子もシャーロットの新入生代表挨拶を見ていた。

何が楽しくて一緒に見なければならないんだと言いたいところだが決闘場は入学式の場所から少し離れたところにあるため終わってから移動では間に合わないのだ。


「さて、入学式もそろそろ終わるな」


「そうですね」


「移動するぞ。ついてこい」


王子が立ち上がり移動し始めたので仕方なくついていく。

決闘場はだだっ広い野原のようなところだ。

障害物が少なく小細工がしにくいため実力差がはっきりと出る地形。

こんなところで戦うとは王子もそれだけ自信があるんだろうか。

歩き方とかは全然強そうじゃないけど。


「ほら、終わったみたいだぞ。すぐにこちらの映像が向こうに流れ始める」


そう言って王子は魔道具を持った兵士の方を向く。

兵士は黙って首を縦に振った。

どうやら放映が始まったらしい。


「ルールを確認するぞ。ルールは制限時間無しでどちらかが戦闘不能になるまで続けるものとする。負けた者はシャーロット=ローレンスに金輪際近づかない。それでいいな?」


「それで構いません」


「そうか、では始めるとしよう」


本来は契約書などを書く必要がある。

しかしこの話は大勢に放映されているため後から言い逃れは出来ない。

わざわざ書く必要も無いということで今回は割愛した。

王子が剣を抜いたことで僕も剣を抜く。


「それでは……はじめっ!」


兵士さんの合図で決闘が始まる。

しかし王子は剣を抜いたまま一向に攻撃を仕掛けてこない。

何を企んでいるんだろうか……


「おい」


「はっ!魔道具はすでに止めました!」


……は?魔道具の使用を……止めた?

兵士の言葉を聞いた王子が笑い出す。


「アッハッハ!おい!お前ら!」


「「「はっ!」」」


王子の呼びかけと共にさっきまで王子の護衛のためについてきた兵士たちがぞろぞろと入ってくる。

まさか……


決闘に参加させる」


「正気ですか?決闘で1対多数なんて」


「なぜだ?先ほどルールを確認した際一対一だなんて誰も言っていないだろう。貴様もそれで合意したではないか」


どんな屁理屈だ……

決闘は一対一が常識。

こんなことわざわざ確認する必要もないほど当たり前のことだった。

だから確認しなかったのだ。


「大体いくら放映を止めて多数で倒してもフェニックスを倒した僕を簡単に倒したとなると必ずいつかボロが出ますよ?」


「構わん。あの場にはシャーロットがお前にをかけた現場を見た目撃者がたくさんいる。お前はシャーロットの補助のお陰で勝てただけの無能ということにすれば自然とシャーロットの名声は上がりあいつを俺のものにできる。いいこと尽くめじゃないか」


なんて野郎だ……

ありえないほど人として終わっている……


「こんな人が次期国王なんてこの国の将来が心配になってきました」


「なんとでもいえ。あの女は俺のものだ。いけ!」


「「「はっ!」」」


30人ほど来た王子の加勢のうち10人ほどが同時に襲いかかってくる。

僕は腰を深く落とし受けの体勢に入る。

突っ込んで倒したところでどうせ後ろから増援が来るのだ。

ならば少しずつ後退しながら人数を減らしていくほうが得策というものだ。


「賞金は俺のもんだ!」


「いや!俺が!」


僕の打倒に賞金をかけているのか……

こいつらはこんなことに手を貸す時点でろくな兵士じゃない。

チームワークも全く無いしまるで荒くれ者だ。


「悪いけどシャーロットと勝つって約束してるんだ。殺しはしないけどしばらく眠っていてもらうよ」


僕は襲ってきた一番先頭の三人を一閃で斬り伏せ次の敵と対峙する。

相手は自分のことしか考えていない脳筋バカ

全員直線で突っ込んできており獣よりも頭が悪い。

直線的な攻撃をかわしながら流れるような動きで全員を斬った。


「ほう、流石は不死鳥狩りだな。では次といこうか」


またしても10人ほどが襲いかかってくる。

なぜ戦力を分散させるのだろうか。

敵ながら不思議に思えてくる。


「「「炎の矢ファイヤーアロー」」」


「魔法!?」


後ろに残った全員が同時に魔法を放ってきて僕の周りに炎でできた矢が降り注ぐ。

なんとかけたもののすぐさま突撃してきた10人が迫る。

耐えろ……!

カウンターは諦め防御に専念しなんとか攻撃を防ぎ切る。


「まさか魔法部隊を連れてきていたなんて……!」


「お前への敬意だと思え。最大限の戦力を持って叩き潰してやる!」


そこからは死闘だった。

相手の攻撃をかわしながら少しずつ地道に敵を減らし続ける。

必死に戦い続け気づけば敵が10人にまで減っていた。


「はぁ……はぁ……」


「流石だな。化け物め。だがもうここまで何じゃないか?残ったこいつらは全員近衛隊。数的不利で勝てるはず無いさ」


確かに残った全員が強い。

ヘイマンさんほどじゃないけど一人ひとりが手の折れる手練れ。

なかなかに厳しい状態だった。


「一つ聞かせてもらおうか」


「……?」


「シャーロットとはもうヤッたのか?」


いきなりかなり切り込んだ話題を振ってくる。

僕はその言葉に目を細める。


「答える義理はありませんよ。あなたに何か問題でも?」


「無いな。むしろ俺は望んでいる」


「……!?!?」


王子から飛び出た言葉は衝撃的なものだった。

あれほどシャーロットに固執していたのは勇者に成るのが目的じゃなかったのか!?


「……ではなぜシャーロットにこだわるのですか?」


「簡単な話だ。あの体だよ。俺は別にシャーロットを恋人にしたいわけじゃなくてあの体を俺のものにしたいだけだ」


王子はその整った顔に下卑た笑みを浮かべる。


「お前が既に勇者に成っているのであれば俺はシャーロットを手籠めにしたときに旅に出なくてすむ。安全な後方であの女を抱き放題だ」


「ぎゃはは!王子殿下鬼畜!」


「あっはっは!なんとでも言え。飽きたらお前らにも回してやるから楽しみにしてろよ」


王子と取り巻きは気色の悪い笑い声で笑う。


「抱き心地はどうだったか?後でじっくり俺が楽しんでやるよ」


その瞬間──プチッと切れてはいけない何かが切れた音がした。

湧き上がるのは激しい怒り。

目の前の敵をすぐにでも葬り去りたい暴力的なまでの怒りだった。


「……いい」


「……あ?なんて言った」


「もういいと言ったんだ……あんたには……ここで消えてもらおう」


僕は剣をさやに収め腰を落とす。

やった試しはない。

できる保証もない。

でも、激しい怒りが僕の体を突き動かした。

一つ息を吐き、呟く。


瞬雷斬しゅんらいざん


その刹那──激しい光と轟く雷鳴の音と共に僕は5


「残り……6匹」


─────────────────────────

本来なら今日☆2000感謝SSを出す予定でした。

でも流石にこの流れをぶった切っちゃいかんだろうということで一段落するまで延期します。


制作裏話


技名が瞬雷斬に決まるまで30分くらいかかった……



王子によって溜まったストレスは↓コメント欄にて受け付けます。

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