第3話 許せるはずがない

「なんだって!?シャーロットが……さらわれた……?」


剣の素振りを終えて帰ってきた僕に母さんが告げた一言は衝撃的なものだった。

一瞬その言葉の意味を理解できずに頭が真っ白になる。

どうやら銀髪の女の子がさらわれていく瞬間をたまたま目撃していた子供がいたらしい。

この街で銀髪といったらシャーロットしかいない。


「僕、探しに行ってくる!」


「あ!ちょっと!アラン!」


お母さんは止めようとしているみたいだけどそんなの無視だ。

友達がピンチなんだから助けに行かないと!

僕は手に持っていた木剣を掴んだまま家を飛び出した。


「一体何が起きたんだ……シャーロットがさらわれるなんて……!」


とにかく情報を集めようと人が多い広場へと走った。

片っ端から声をかけまくる。

しかし、子供がさらわれたらしいという情報しか得られない。


(くそ……!憲兵団も動いてるみたいだけど……僕なんかに情報を教えてくれるわけないよね……)


僕は打開案が無いか必死に頭を動かした。

そして一つの仮説に思い当たる。

もしかして僕が見逃してるだけでラノベにもそういうシーンがあったんじゃ……

そう思い改めて流れ込んできた別世界の記憶を思い返し始める。


「あった……」


確かにそういうシーンがあったのだ。

シャーロットは7歳のとき人攫いの類に誘拐された。

そして売られてしまう寸前、憲兵団に話を聞いたお忍び中の王子がシャーロットを救い出すのだ。

本編ではなく外伝、というものに書かれていたらしく完全に見落としていた。


「人攫いのアジトの場所は大体分かった。今すぐ助けに行かないと!」


物語の通りならシャーロットは王子によって無事救い出されるだろう。

だからといって物語通りになるとは限らないし放置していい理由にはならない。

僕はシャーロットを守るために強くなろうとしたんだから。

確かに最初は自分の命欲しさだった。

でも今はシャーロットを守れるならば自分の命なんていらないとすら思える。

力を振るうべき時は今だ。


「記憶通りそこにいてよ……!」


この記憶が正しいことを祈り、全力で走る。

もう既に同い年とは比べ物にならないくらいの体力はあった。

とにかく急ぐために必死に足を回す。


「はぁ……はぁ……ここだよね?」


ついた場所は街から少し離れた森にある小屋。

神隠しの噂があって誰も寄り付かない場所だった。

僕は木の後ろに隠れ様子を伺う。


(見張りは一人か……)


見張りがいるということはどうやらビンゴのようだ。

まさかこんなところをアジトにしているなんて思いもよらなかった。

中の様子は全く見えないので他に何人いるかわからない。

まずは中にバレずに見張りを排除する必要があった。

かと言って持ち物は木剣しかないので木に隠れながら接近して不意打ちするしかない。


「よし……今だ……!」


ギリギリまで近づき見張りの意識がそれた瞬間を狙い一気に走り出す。

しかしあと2mといったところで気づかれてしまう。

相手は急いで剣を抜いたけど僕の木剣が一瞬だけ早く見張りの首を強打した。

いくら子供の力といえど僕は鍛えているほうだしそこそこ重量のあるものが首を直撃すれば意識を刈り取ることができた。


「危なかった……」


ホッと胸をなでおろし窓からこっそり中を覗き込む。

すると中には二人の男がいて、シャーロットちゃんは猿ぐつわをされ縛られて寝転がっていた。

暴力は振るわれていないみたいだし意識もあるようで少し安心した。

そのまま男たちに目を向けた。


(武器は二人とも持ってる……でも長くて屋内じゃ振りにくそう……)


男たちが持っていた武器は長めの軍刀サーベルだった。

もしかしたら軍人崩れなのかもしれない。

だが屋内なら短い木剣を持っている僕のほうが間合い的には有利だ。


「というかこの嬢ちゃんの髪色は不気味だけどよぉ。顔は結構良くないか?」


「そうだよな。どうせならここでこっそりヤッちまわねえか?」


「でも商品に手を出すのは……」


「なーにバレやしないって」


ヤる?ヤるってなにをするんだろう?

でも男たちのシャーロットを見る目はどう考えても好意的なものじゃない。

明らかに何かしらの危害を与えようとしている。

そう判断した瞬間、僕は扉を蹴破り突進した。

冷静に剣を振ったけどかすっただけだった。


「な!?なんでここにガキがいるんだよ!」


「見張りはどうした!?」


「見張りは倒しました。シャーロットを返してくれないですか?」


言葉が通じるとは思えないけどとりあえず聞いてみる。

もしかしたら見た目に反していいおじさんたちかもしれないしね。


「そいつは無理な相談だなぁ!」


「ここで死ねやガキ!」


見た目通り悪いおじさんたちだったみたい。

剣は振りにくいと分かっているのか、それとも相手が子供だと油断しているのか二人とも素手で殴りかかってきた。

リーチがないならいける!


「シャーロットを返してくれないなら覚悟してね?」


「ぐっ!?」


僕は遅すぎる拳を躱し手首に一撃を叩き込んだ。

実戦は初めてのはずなのに恐怖はない。

あるのは強い怒りのみ。

シャーロットをさらったこいつらを許すわけにはいかない。

僕は手首を押さえている男に向かって連撃を叩き込み失神させた。


「お、おい!お前どうしたんだよ!ガキなんかにやられるお前じゃないだろ!?」


「呼びかけても無駄だよ?だってもうこのおじさん意識無いし」


「ヒッ!?お、お前一体なんなんだよ……」


もう一人の男は怯えたように後退りする。

戦う度胸が無いくせにこんなことをするなんて情けない。


「じゃあおじさんも気絶しててね?」


「ゆ、許してくれ!そんなことになったらボスに殺される!な、何でもするから!」


許せ、だって?

シャーロットはもっと怖い思いをしたんだ。

許せるわけない!


「ダメ。ここでバイバイだね」


「うっ……」


考えるまでもなく脳天に一撃を叩き込んだ。

もちろん死んでるわけではなく気絶しただけだ。

もう周りに敵は残っていないことを確認し僕は急いでシャーロットに駆け寄った。


「シャーロット!大丈夫?」


「ぷはぁ……アランくん!?こんなの、危ないのに……来てくれたの?」


「待たせちゃってごめん。シャーロットが無事で良かった」


「アランくんが危険なことするなんて……私望んでなかったのに」


「昔約束したでしょ?シャーロットのことは僕が守るって」


「アランくん……ふえぇぇん!!!来てくれてありがとぉ!!怖かったよぉ……」


相当怖かったらしい。

僕に抱きついてきた体は震えていて止まらない涙は僕の服を濡らした。

僕はシャーロットの小さく震える体を抱きしめ返し優しく背中をさすり続けた──


時間にして三分ほど。

一刻も早くこの場所から離れるためにシャーロットをなだめ説明した。

僕たちは扉を開け手を繋いで歩き出す。

初めての実戦はどっと疲れて体が重かったが安堵と喜びに包まれている。

そのときだった──


「おいガキ。その嬢ちゃんをどこに連れてくつもりだよ」


「「!?」」


急いで後ろを振り返ると眼帯をした厳ついおじさんが立っていた。

さっきまでの人たちとは比べ物にならない威圧感を放っている。

僕はシャーロットを後ろに庇い剣を構えた。


「あいつらはこんなガキにやられたってのか。チッ!情けねぇ……」


どうやらまだ戦いは終わっていないようだった。

僕の額を一筋の冷や汗が伝った。


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