第15話 少女とセカイ②

「何でもない」


 一瞬で笑みを消してから、少女はおざなりに電子タバコをピコピコと動かす。


「本当はそこそこ気に入ってるよ、これ」


「ふむ」


 カミサマが、どこか含みのある声で頷いた。


「はーはっはっはっ!」


 しかし、すぐにいつもの高笑いを上げる。


「ならば良い!」


 カミサマが指を鳴らすと、ミツリンの中で光っていた銀色が飛び出してきた。


「では、今日のお相手を紹介しよう!」


 飛び出してきたものまた、カミサマであった。


 より、正確に記すならば。

 カミサマの姿にそっくりな、しかしその身体のサイズが半分程度にまで縮まった何かだ。


「ハーハッハッハッ!」


 それが、カミサマよりも幾分高い音程で笑い声を上げながら飛んでくる。


 だけではない。


「ハーハッハッハッ!」


「ハーハッハッハッ!」


「ハーハッハッハッ!」


「ハーハッハッハッ!」


「ハーハッハッハッ!」


 同じものが更に五体、ミツリンのあちらこちらから飛び出してきた。


「これぞ、二分の一スケールカミサマである!」


 元祖カミサマの横に、計六体のミニカミサマが並ぶ。


「サイズだけではなく、能力もカミサマの二分の一だ! しかし、それが複数……さぁ人の子よ、こやつらを倒せるかな!?」


 両手でミニカミサマたちを指し示し、カミサマが少女を煽った。


 しかし少女は完全に無視を決め込み、既に火薬を調合する作業に戻っている。


「はーはっはっはっ! いつまでその態度を貫けるかな!」


 高笑いと共に、再びカミサマが指を鳴らした。


『ハーハッハッハッ!』


 六体のミニカミサマが一斉に、元祖より甲高い高笑いと共に少女の方へ殺到する。


『ハーハッハッハッ!』


 そして、少女を囲んで等間隔で回り始めた。


『ハーハッハッハッ!』


 全方向ステレオで高笑いを響かせる。


『ハーハッハッハッ!』


 少女は、引き続き無視して黙々と作業を続けていた。


『ハーハッハッハッ!』


 調合し終わった火薬を、金属製の器に移す。


『ハーハッハッハッ!』


 続いて、信管の取り付け。

 少し手が震えているのは、果たして緊張のためなのか。


『ハーハッハッハッ!』


 ピンをセットする。

 慎重な手付きではあるが、震えは先程より少し大きくなっていた。


『ハーハッハッハッ!』


 溶接。

 その頃には、少女の震えは全身にまで広がっている。


『ハーハッハッハッ!』


「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 完成した手榴弾をスカートのポケットに放り込みながら、少女は叫んで立ち上がった。


「上等だ、表に出ろてめぇら!」


『ハーハッハッハッ!』


 プッとタバコを吹き捨てると共に勢い良く飛び出した少女を、六体のミニカミサマが追いかける。


 少女とミニカミサマたちの姿がミツリンの奥へと消えた後、すぐに金属のぶつかり合う音や爆発音が聞こえ始めた。


「……こんなんで、良いのか?」


 トモダチが、疑惑の声と視線を上げる。


「はーはっはっはっ! 若い頃の不満は、運動で発散するに限る!」


「そんな単純なもんじゃねぇだろ。つーか結局、誤魔化しただけじゃねぇか」


 カミサマのテンションに付き合うことなく、静かに言葉を重ねた。


「無論、その通りだ」


 カミサマの声から抑揚が無くなる。


「もうそろそろ、教えてやってもいいんじゃないのか?」


「他者から聞いて、はいそうですかと簡単に納得出来る話でもあるまい」


「カミサマからの話でもか?」


「カミサマからの話だからこそ、だ」


 その真っ赤な目はミツリンの中、少女が消えていった方へと向けられていた。


「……だから、行かせたってのか?」


 トモダチも、カミサマと同じ方向へと目を向ける。


 先程見た、少女の表情。

 激昂しているように見せかけて、酷く冷静な光を宿していた彼女の瞳を思い出しながら。


「……オレからすれば、随分と迂遠なように思えるが」


「別段、回り道が悪いというわけでもあるまい」


 カミサマが、おどけるように肩をすくめる。


「いずれにせよ、終わりが訪れることはもう決っているが」


 その仕草が、無機質な声と全くマッチしていなかった。


「それでも、終幕にはまだ少々早いのだ」


 トモダチに語りかけながらも、その目はミツリンの方へと向けられたままだ。


「だろう?」


 同意を求めるカミサマの言葉に、トモダチは答える言葉を持たない。


 所詮トモダチは、カミサマに創り出された存在。

 一部の記憶を共有してはいても、カミサマの意図を全て正確に読み取ることなど出来ないのだ。


「……フン」


 何を言っても負け惜しみにしかならないような気がして、トモダチはただ鼻を鳴らすだけに留めた。

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