カミサマの娘
はむばね
第1話 少女とトモダチ①
それは、カミサマがたった一人の少女のために創ったセカイ。
◆ ◆ ◆
セカイは、見渡す限りのサバクだった。
前後左右、どこを見ても砂砂砂。
ソラは青く青く、砂で構成されたチヘイセンの向こうまで広がっている。
そんな砂だらけのセカイに、一箇所だけ例外があった。
ポツンと佇む一軒の家。
八十坪庭付き二階建てのその家は、いつかのどこかで『日本家屋』と呼ばれた様式である。
その縁側で、一人の少女が眠っていた。
一〇〇センチにも満たない小さな体躯だ。
ショートに切り揃えられた黒髪が一房、ふっくらとした頬にかかっている。
何処かの国では、『園児服』などと呼ばれた衣服。
それに皺が付くことなど気にする風もなく、少女は気持ちよさそうに寝息を立てていた。
セカイに、他に動くものは何もない。
穏やかに上下する少女の胸だけが、このセカイが静止していない事を示す唯一の証左だった。
と、規則正しかった寝息に変化が生じる。
「んに……」
少女の瞼が、ピクリと動いた。
「んぅ……」
口をモゴモゴさせながら、ゆっくりとその目を開いていく。
「くぁ……」
大きなあくびと共に、少女が身を起こした。
もっとも、未だその目は半分も開いていないが。
そんな少女の目を、無理矢理に醒ますかのように。
──タンタラタンタンタンタラタラタラタンタラタンタンタンタラタン!
セカイに、凄まじく騒がしい音楽が鳴り響いた。
周りには見渡す限りのサバクしかないはずなのに、家を取り囲むように四方から音楽が流れてくる。
それは『テーマパーク』と呼ばれる施設が存在する世界で、『パレード』という催しを行う際に流す音楽に近い。
その音を聞くに至り、少女のその大きな目がようやくハッキリと開いた。
同時に、笑顔が咲く。
「カミサマ!」
少女の呼びかけに応えるように、それは現れた。
「はーっはっはっはっ!」
けたたましい音楽にも負けない音量で、上空から降り注ぐ笑い声。
見上げた少女が、眩しさに目を細める。
タイヨウを背にしたそれは、ピカピカと輝いていた。
光を反射する素材によって構成された、原色に近い衣装。
頭の上には、同じ素材で作られた帽子が載っている。
それもまた『パレード』の演者を模した格好だったが、少女がそれを知る由はなかった。
ズン! と大きな音を立て、『カミサマ』と呼ばれた存在が地上に降り立つ。
「お目覚めかね、人の子よ!」
直立の姿勢のまま着地したカミサマが、少女の方に向けて両手を広げた。
「うん、おめざめー!」
満面の笑みと共に、少女がカミサマに向かって駆け出す。
寝起き直後とは思えない、文句なしの全力疾走だった。
「はーっはっはっはっ!」
少女を迎えるべく、カミサマは笑い声と共に両手を広げたまま片膝を付く。
「カミサマ~!」
その小さな体躯が生み出しているとは思えないような速度で駆ける少女。
走りながら、肩に掛けた黄色い園児カバンを器用にまさぐる。
そうして、少女とカミサマの距離が一メートル程にまで縮まった頃。
「しねー!」
カバンから取り出した無骨なサバイバルナイフを握った少女が、笑みを欠片も崩さないままカミサマの胸へとその切っ先を突き立てた。
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本作を読んでいただきまして、誠にありがとうございます。
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本日中に、第4話まで投稿致します。
よろしくお付き合いいただけますと幸いです。
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