第12挑☆ヘーアンフェスティバル開催! 蕾と藤花の再会 後

 近くにあったベンチに座って、蕾の様子を見守っていると、カイソンが藤花といっしょに現れた。


「蕾ちゃん……」


 藤花の声に反応して、蕾が顔をあげた。


「来ないでっ」


 蕾に突き放されて、藤花は足を止め、悲しそうにうつむいた。


「なんだよ、お前、藤花と友達なんだろ? そんな言い方するなよ」


 俺がたしなめると、蕾は、


「友達なんかじゃないっ。藤花は私と違うもん。全然、違うから、顔も見たくない……っ」


「蕾!」


 俺は蕾の両肩を掴んで、蕾を見据えた。やっぱり泣いてやがった。せっかくのメイクが台無しじゃねえか。こんなつらそうな顔しやがってよ。


「違うだろ」


「……え……?」


「お前が言いたいことは、そんなことじゃねえだろ。お前は全然違うって言うけどよ、藤花はお前と同じ地面に立って、ここに歩いてきたじゃねえか。藤花はお前と話したいみたいだぞ」


 俺は蕾の身体を抱き上げた。


「ちょっ、何すんのっ……」


 それから、藤花の正面におろした。蕾は、今にも泣きだしそうな表情をしている藤花と目を合わせた。


「あ……」


「蕾ちゃん、あのね……」


 藤花が思い切ったように話し出した、そのときだった。

 一体のバタフライが、蕾と藤花の間を切り裂くように飛び抜けた!

 ハチのように黄色い身体のバタフライだ。モコより少し大きいくらいか。


「なんだ!?」


 バタフライは茶色いジャケットを着たおっさんの頭上に浮かんだ。なんだ、このおっさんは。


「藤花ちゃん、勝手にいなくなられたら困っちんぐ~」


 おっさんは腰をくねらせて両手を突き出し、親指を立てている。なんだ? このキモいおっさんは!


黄羽きばさん……」


 藤花に黄羽と呼ばれたおっさんは、俺とカイソンを見てにやりと笑った。


「君たちぃ、大事な大統領のお嬢様兼カンダの超人気モデル藤花ちゃんに、何しちゃってるのかな~?」


「何もしてねえよ! なんだよてめえは」


「僕は藤花ちゃんのジャーマネ兼ボディガードだよ~。しくよろ☆」


「いちいちピースキメてんじゃねえ! 今大事な話してる最中なんだ、邪魔しねえでくれねえか」


「大事な話~? 君たちみたいなボロボロ初心者プレーヤーと幼虫と……ん」


 黄羽が蕾に目を留めた。


「ふう~ん?」


 黄羽が蕾に近づき、全身を舐めまわすように見ている。いちいち手でカメラを象ったポーズキメてるし。なんなんだ、こいつは。


「うん、君かわうぃ~ね!」


 蕾を指差すな!


「でも、藤花ちゃんのレベルには届かないかな~。庶民のアイドルって感じ」


「はあ!? 蕾だって充分モデルになれるだろ! よく見ろよ!」


「んん? 君、モデルになりたいの?」


 俺のセリフに反応して、黄羽が蕾の顔をまじまじと見た。蕾は黄羽から目をそらせないらしく、おびえた目で黄羽を見返している。

 黄羽はにやっと笑って、言った。


「無理」


 ……は?


「ちょっと、黄羽さんっ」


 藤花が慌てて黄羽に声をかける。


「さ、藤花ちゃん、お父様のところに戻ろうね~」


 黄羽が藤花の手を引っ張っていく。それを、俺がみすみす見逃すと思うか。


「待てよ!!」


 俺が怒鳴りつけると、黄羽が面倒くさそうに振り向いた。


「なに~?」


「てめえ、訂正しろ」


「何を?」


「無理、って言ったことを、だ!」


「なんで。本当のことを言っただけじゃな~い」


「うるせえ! なんでてめえが決めつけられるんだよ」


「だって、僕、芸能プロのジャーマネだよ? モデルの卵なんて腐るほど見てきてんの。その子のレベルは中の中、仮にモデルとして売り出しても成功する確率は5パーセントってとこ。芸能界って厳しいんだよ、舐めてもらっちゃ困るね~」


「はあ? やってみねえとわかんねえだろ!」


「もういいよ!!」


 蕾が叫んだ。


「もういいよ、チョー。もう、やめて」


 蕾が目に涙をいっぱいに貯めて、言った。


「でもよ……」


 こんな、言われっぱなしで許せるかよ。

 黄羽が嫌な笑い方をして、藤花を連れて行こうとしたときだった。

 俺は何も気づけなかった。蕾にばかり気を取られていたせいかもしれない。

 それにしたって、いきなり、黄羽の頭が飛ぶなんて。

 藤花の白い顔に、黄羽の鮮血が飛ぶ。

 黄羽の首は嫌な笑顔を張り付けたまま地面に転がった。


「ひっ」


 藤花が悲鳴を上げそうになったとき、その小さな口を塞ぐ男がいた。黒いシャツに迷彩柄のズボンを履いた、いかつい男。緑色の髪は短く刈り込んでいる。


「なんだ!?」


 俺とカイソンは、突如現れた男に向かって走り出したが、男のほうが速い! 藤花を抱えて、校舎の二階の渡り廊下に飛び上がりやがった! なんつー跳躍力だ。

 藤花は男の脇に抱えられて、ぐったりしている。まさか、さっき、何か嗅がされたか!?

 男はこちらを一瞥したあと、校舎の中に消えた。


「そんな、藤花……」


 蕾が呆然とした様子でつぶやいた。くそっ、蕾もこのままにしておけねえけど、藤花も放っておけねえ!


「カイソン、蕾は任せた! 俺はあいつを追いかけるっ」


「チョーさん!?」


 俺の脚力、舐めんなよ!

 俺は思い切り助走をつけて飛び上がり、校舎の壁を蹴った。その勢いで渡り廊下の手すりに手をかけ、一気に身体を持ち上げる。

 あの男が何者なのかわかんねえけど、藤花を助けねえと! 俺は廊下を走って、男の後を追った。



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