第3章 追跡者
「天帝の兎が動くわ」
善見城を囲む庭園の一つ、
ポニー・テイルがこめかみの皮膚を引き上げ、眼が吊り上がっていた
少女でありながらその姿は、少年の姿をした
彼女には、「透視能力」があった。
「かぐや姫を探すつもりだね」
分厚い苔が蒸した大岩の上に座った
「やっと動く気になったか。でも簡単には見つからないと思うよ。だってこの半年、俺たちは恵利の透視を使ってかぐや姫を探したのに、見つからなかったんだから」
苔が幹まで這い上がっている、歓喜苑の中でも一段と大きな
それだけで枝が折れて、ばさりと音を立てて落ちてきた。
「
玲司は弱々しく自分の胸をさすった。
「天帝ったら、兎を放っておいたんだって」
トレードマークのポニー・テイルを小気味好くゆらして、恵利は清四郎を見た。
「兎?」
生まれつき命令する側の人間の顔をした清四郎は、冷たい視線を恵利に向けた。
「うん。天人を探し出せる兎だって」
清四郎の高飛車な表情に無関心な恵利は、ポニー・テイルで吊り上がり気味の眼を、さらに吊り上げて意地悪な光を放ったが、息が上がり苦しそうに顔をゆがめた。
「へえ。そんなことしてたんか。じゃあ、天帝に放たれた兎が入りこんでる人間を見つけよう。そいつらのあとをつけてれば、かぐや姫にたどり着ける可能性がある」
清四郎はみぞおちの下に痛みを感じ、手できつく抑えつつもにっと笑った。
「まさか、かぐや姫が逃げ出してたなんて、思いもしなかったもんね」
玲司が細い指を神経質に組み合わせて、大きな溜息をついた。
「全くよ。どこへ行っちゃったのかしら? とにかくここに連れてこなければいけないのよね。ここって、かぐや姫でないと役に立たないんだから」
恵利は呼吸を整えながら、呆れたかのようなイントネーションで呟いた。
「だから、天帝も必死なのさ」
清四郎が好戦的な口調で言った。
「帰るよ、玲司。天帝の兎より先に人間界へ戻って、奴が来るのを待とうじゃないか。恵利。監視できるな」
「さぁ? 玲司に言ってよ。玲司がここと人間界をつないでおいてくれれば、透視してられるわ」
恵利は肩を少し上げて、無責任な言い方をした。
「玲司?」
清四郎は彼を見た。
「いいよ。でもそんなに長くはできない。けっこう力がいるんだ」
少女のように華奢な玲司はゆっくりと立ち上がり、雑草や土を神経質に払い落としてから、疲れた声で呟いた。
「二人とも、その間身体は持つかい?」
高飛車な物言いをしていた清四郎だったが、心配そうに二人を交互に見た。
「大丈夫よ。ねぇ、玲司。さぁ、兎が善見城を出るわよ」
恵利が
「ということは、そろそろ飛ぶな。玲司。帰るぞ」
玲司の眼が一瞬光を放った。同時に三人の姿が歓喜苑から消えた。
**********
お読みいただきありがとうございました。
お時間がありましたら、同時公開している「SF小説」の方にも訪ねてみてください。よろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16818093074758265076
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます