第1章 パラドックス Vol.3

 ベッドに横たわったまま、みちるは眉間に縦じわを作って、きつくまぶたに力を入れた。


(また、あの夢か……)


 夢を見ていたのは、佐野みちる。17歳の女の子だ。


 身体を起こし、背中の真ん中辺りまである乱れた長い髪の毛を、無造作にかきあげた。


「くそ! 前夜は満月だったんか。そういえば、皆既月食だとニュースで言ってたな」


 誰に言うでもなく、苛立った声で呟いた。


 この夢を見るようになって、もう三年が経つ。満月の夜には、必ずこの一連の夢を見るのだった。


 その映像を絶ち切るようにベッドを降り、みちるは部屋を出た。洗面所へ行くと、再び右手でゆっくりと、顔にかかったぼさぼさの長い髪をかきあげた。


 鏡の中で、潰してしまいたいほどおぞましい赤い色をした眼が、みちる自身を睨みつけていた。


 満月の夜にこれらの夢を見た翌朝、みちるの光彩は、普段より一層きれいな「ピジョン・ブラッド・ルビー」のように、真っ赤になっていた。


「負けてたまるか!」


 みちるは洗面台に置いたこぶしを強く握って唸った。みちるは顔を洗うと、眼を隠すために真っ黒いサングラスをかけた。


 それを夜も冬も外したことはなかった。


「もう、慣れた……」


 みちるはいつもそう呟いて、諦める努力をした。けれど何度呟いても、本当に諦めることはできなかった。


(どうして、あたしが……)


 みちるは唇を噛みしめ、天井を睨んだ。


(だからあたしは、戦いの世界で生きる阿修羅あしゅらになる)



**********


お読みいただきありがとうございました。


お時間がありましたら、同時公開している「SF小説」の方にも訪ねてみてください。よろしくお願いします。


https://kakuyomu.jp/works/16818093074758265076



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