第36話 頼もしき仲間たち Ⅱ
翌日。
アーヴァデルチェブリッジ。
普段通りになった俺は、座っている席から、皆に話しかける。
「リッペンにはどのくらいで着くのかな。皆の予想はどう?」
「大佐、おそらくは2日はかかるかと思います」
「私の予想もそんな感じかと」
ウーゴとイネスがほぼ同時に予想を答えた。
がしかし、二人の予想とは違う答えを持つ者が一人。
「大佐、許可してくれれば全力運航してもいいですかであります。今現在、アーヴァデルチェは真っ直ぐ飛んでいるので楽なのであります」
元気よくこちらを向いて敬礼するリリーガ。
相変わらずさ、操縦してると君、元気だよね。
そっか、エンジンを適切にしたから自由に操舵できてるってことか。
「ん!?それは、もっと速く着くってことでいいのかな?」
「大佐、そうなのであります。もっともっと速く着くであります」
後の俺はここで安易に答えてしまったのを後悔した。
「リリーガ、いいよ。やってみてよ。……それじゃあ、イネス、他の艦にはあとから、ゆっくりリッペンに来てって、連絡しておいて」
イネスは他の艦に連絡をして、リリーガはウキウキで準備を進める。
その手際の良さは、両者引けを取らない。
「ありがとうございますなのであります。艦を全速全開にするであります」
リリーガは全ての動きに無駄がなく、テキパキとなにやら行動を起こしている。
そして、最後にレバーを引いた瞬間。
艦内の物が揺れ始める。
ガタガタガタガタ。
ドンッ
大きな音と共に小物が宙を舞った。
コップやペンなどが、艦の後ろへと飛んでいく。
おいおい、おいおい。重力装置は効いてるよね。
全部物が後ろに引っ張られるんだけど。
というかこれ座ってないと耐えられないんじゃ。
「だ、大丈夫か、皆。あ・・・」
ここで全員のことが心配になったが、ふと思った。
慌てて後ろを振り向く。
そうこのブリッジの中で唯一立っている人物。
カタリナが心配になったのだ。
「カタリナ!」
「きゃーーーー」
カタリナが悲鳴を上げて、後ろに転がっていった。
まずいぞ。彼女に座ってもらわなきゃ。
俺は凄い事になった艦内で、俺が椅子から降りた瞬間。
カタリナのいる壁の方向へと自然に体が引っ張られていった。
そこに向おうとしなくても体が勝手に行く感覚だ。
「か、カタリナ、俺の手を握ってくれ。君をあそこまで・・・」
「え!? あ、はい」
しおらしく返事をしたカタリナは、俺の手を掴む。
上手く動けない彼女の腰を優しく手で支えて、俺の席までエスコートしていく。
尋常じゃない重力を横に感じながら、必死に歩く。
「た、大佐ぁ。ご無理なさらなずに。今の私重いですよ」
「ぜ、全然、軽いよ。……大丈夫だよ。心配しないで」
嘘をついた。
めちゃくちゃ重い。
これどうなったら横に重力がかかるの。
速いからじゃないよね。
何かの機能でこんなことになってるんだよな。
俺はなんとか彼女を艦長席に座らせた。
「よ、よし。これでカタリナは大丈夫だな。え、これは大丈夫なのかな!? カタリナ、カタリナ」
「ふえぇ・・・・大佐の手が私の手に・・・カッコイイ・・・」
俺は、カタリナの頬をちょんちょんと叩いた。
彼女は、エヘエヘと言い続けている。
なんだか様子がおかしくなっていた。
だけどこれを気にする余裕はなかった。
「ん~……いや、それよりも、この艦が速すぎじゃないのか……皆。体は大丈夫か?」
「ア、アル大佐~。これきついよ。それにこれじゃあ、手が使えないから、まともに通信できないよぉ」
イネスが不満を漏らす。
だよね。これはきついよね。
「た、た、大佐。でもこの速度なら、1日未満で着くのでは?」
「ほんとにウーゴ。でも体がきつすぎる。それにこれ艦が持つのか!? ブリッジ以外の皆は耐えられるのか?」
「ふふーん。ふんふーん」
皆で一緒になって焦っている中でリリーガだけが余裕で操舵していた。
ちょっとなんで、リリーガだけ平気なんだ。
なんで鼻歌を余裕で歌えるんだよ。
「大佐楽しいのであります。私は満足であります」
いやいや、だからなんでリリーガだけ余裕なんだよ
どんな体してるんだよ。
ここで艦内に緊張放送が聞こえてきた。
声の主は激怒していた。
「リリーガ。おいてめえ、こいつをやるのはリリーガしかいねえ。この野郎。ぶっ飛ばしすぎなんだよ。この速度じゃ、いずれエンジンがいかれちまう。限界を超えすぎて速度だしてんだよ、バカ。おい。いい加減に速度落とせ。フルスロットル以上に設定してるだろ、おい。お~い。バカ。誰か、そこにいるはずの馬鹿を止めてくれ。……あ、そこにアルの旦那がいるんだろ。頼むぜ・・・だん・・・お・・・・・」
通信が途中で切れた。
艦内の全員が目を瞑っても、ララーナのキレている様子が目に浮かんだ。
まずいぞ、ララーナがブチぎれている。
これは止めねば。
「リリーガ、今すぐ中止だ。通常運航にしてくれ」
「いやなのであります。今が一番楽しいのであります」
「バカ言うな。この艦が壊れてしまうぞ。止まれリリーガ……今、俺の言うことを聞かないと今後一切お前に操舵させんぞ」
それを聞いたリリーガはしょぼくれながらも、速度を緩めた。
「それは嫌なのであります。残念ですけどここまでなのであります」
「よし。よくわかってくれた・・・はぁ~・・・」
俺はおでこにかいた冷や汗を右手で拭う。
と、とにかくだ。この人は、やばい人なんだよ。
ほんとにさ。何かと操舵になると他に目もくれないのかこいつは。
航行速度が落ちて、元に戻ると。
後ろに飛んでいた物が下に落ちて、重力が通常のモノに変わった。
艦内を容易に歩くことが出来るようになった。
すると数分後。
『ダッダッダッ、ダッダッ』
足音で怒りが分かる。
『プシューー』
扉が開いた。
「あ。やばい顔してるわ」
俺の率直な感想の呟きである。
「おいリリーガ。てめえぇ。何してくれてるんだよ。エンジンがオーバーヒート寸前だぞ。こらぁ~。てめえぇ」
ララーナが胸ぐらを掴んで、リリーガの体をぶん回している。
そのままグルグル回されて、壁まで投げ込みそうだったので。
俺がその場から声を掛ける。
「待て待て、ララーナ。待ってくれ。何もそこまでしなくても・・・」
「いんや。旦那は黙ってな、こいつにはしっかり説教せねばな。ちょっとここから、連れて行くぜ。ウーゴ。自動運転モードにしてくれ」
「は、はい」
凄い剣幕のララーナに、ウーゴはビビりながら返事をした。
ウーゴは自動運転モードにするため動き出し、ララーナはリリーガの首根っこを捕まえてブリッジを出ようとした。
「た、大佐、おたすけを~ であります」
手をバタバタして連れて行かれるリリーガに、すまぬと俺は心の中で謝った。
ま、でもララーナにさ。殺されるわけじゃないからさ。
別にいいよね
俺は失敗を前向きにとらえて、イネスに指示を出す。
「イネス。艦の被害状況を調べておいてくれないか?」
「了解です。アル大佐」
この出来事で疲れた俺はここである事実にようやく気づいた。
「た、た、大佐。あの~」
未だに顔を真っ赤にしているカタリナ。
この一連の出来事の最中、俺はずっと彼女の手を握っていた。
左手を、彼女の右手に合わせて、握り合っていたのだ。
私の顔から火が出てますけども。
彼女の顔からも火が出てますよ。
あれ、もしかしてこれは俺とは違い。
怒っているのでしょうか?
どうしましょうか!?
「カタリナ君。ご、ごめんね」
「え、いえ・・ぜ、全然、わ、私は、こ、このままでも構いません」
彼女の声が小さすぎて、俺の耳には途切れ途切れに聞こえた。
え、どうしよう。この沈黙どうしよう。
何も話してくれないのって、やっぱり怒ってるのかな。
どうなんでしょう。誰か教えてください。
この状況はどうしたら正解なんでしょうか?
いっそ「変態」と言って、ビンタしてほしいっす。
「おいアル。今の何だったんだよ。艦内の物がしっちゃかめっちゃかだぞ」
タイミングがいいのか悪いのか、オリヴァーがブリッジに入って来た。
顔が赤い俺たちを見ても、そのまま話を続ける。
「今、一通り艦内を見てきたけどよ、どうすんだよ。艦隊員に結構ダメージがあるぞ」
「ごめんよ。まさかこんなに速く動けるなんて思わなくてさ。この艦にこんな隠された力があるとは思わなかったんだよぉ」
「仕方ないな。じゃあ、怪我をした奴をフレンに診てもらうしかないな。イネス。フレンのとこに回線を繋げて、連絡してくれ。それにウーゴ、あとどのくらいで着きそうか」
オリヴァーはイネスとウーゴに聞いた。
「少佐。了解です」
イネスが敬礼し、仕事をする。
「22時間くらいですね」
ウーゴは端的に答える。
「よし、その間にフレンに怪我した全員を診てもらおう。イネス。フレンに診察をしろと言っておいてくれ、俺は艦内の被害を確認してくる」
オリヴァーは指示を出して、仕事に向かう。
マジでか、そんなに短縮できたのか。
俺は驚きと同時に、無茶をし過ぎたと後悔した。
これからはリリーガの行動には注意しなければと固く誓った。
軽はずみに許可はしてはならない。
簡単にリリーガを信じてはならないと。
今後、これを教訓に生きていこう!
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