好きでした

ホタル

第1話 短編

好きだった。

静かそうな印象だけど笑う時は豪快に笑うところとか、冷たそうだけどいつだって優しいところとか、全部全部好きだった。

 彼が大好きで彼に見合うために努力をした。

髪の手入れ、スキンケア、メイク、ダイエット

最初は慣れなくてくじけそうになった、でも彼の隣に立ちたくて毎日毎日頑張った。

 最初は彼が友達と楽しそうにしているところを見ているだけで幸せだった。

でもいつの間にか、彼に名前を呼ばれたい、

一緒にいたい、恋人になりたいと思うようになった。

 彼の隣に女友達がいるとドロドロした気持ちになるし、彼が笑うと胸が締め付けられる。

どれも初めての感情で戸惑う時もあるけど、

毎日が輝いて見えた。

でもそれと等しいくらい苦しかった。

 彼の視線の先はいつだってあの子だったから。

あの子と一緒にいる時はいつもより柔らかい笑顔だったり、目で追っているのを気づいてしまった。

彼のことが好きだからこそ気づいてしまった。

 どうして?どうしてあの子なの?私は努力をしているのに、なにもしていないあの子をどうして好きになるの?

 汚い感情が押し寄せてくる。

 本当に最初は彼が幸せならそれでいいと思っていたのに今ではこんなに自分が汚く感じる。

 恋って楽しいものだと思ってた、もっとキラキラしたものだと思っていた。

なのに実際はこんなに苦しくて醜い。

子供の頃見た、好きな人と両思いになって幸せになる夢、そういうものに憧れていた。

 でも現実はそんなに甘くなくて、どんなに好きでいても、どんなに思っていても届かなくて私は彼の一番になれないんだって思うと、苦しくて苦しくて息ができなくなる。

わかってたんだこの恋が叶わないってこと。

 あの子と彼が、手を繋いで帰っていたところでもうわかっていたんだ

でも諦めきれなくて、あの子と幸せにならないでなんてこと思っている自分に嫌気がさして、下唇を強く噛む。

 次の日、彼とあの子がお互い顔を真っ赤にしてクラスメイトたちに祝福されていた。

 涙が止まらなかった。

クラスを飛び出してトイレの個室で大泣きした。

 好きだったどんなに頑張っても届かなくて、それどころか彼はどんどん前に進んでいって、いつしか本当に届かないところまでいってしまった。

 苦しい悔しい憎い。

あの子が憎くてたまらない。

 でもそれと同時に自分に呆れる。

こんなに醜い自分に彼が振り向くはずがないって。

 だってあの子はは私と違って優しくて美人でキラキラしてて、こんなに根暗で性格もあまり良くない私より、あの子を好きになるのも納得できる。

結果は分かりきっていたのかもしれない。

それでも彼が好きだった。


落ち着いてきた頃にはもう一時間目は終わっていて、教室に戻ると彼がこちらにやってきて、目が真っ赤になっていることを心配してくれた。

大丈夫というと彼はほっとした表情をした戻っていった。

優しい彼が好きだったでも今はその優しさが苦しくてまらない。

 でも泣いたからか少しすっきりした気持ちになった。

諦められる気はしないけど、嫌いにはなれないけど、

「好きでした。」

そう小声で彼に向かって言った。

私は笑えているだろか?





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好きでした ホタル @kagehinatani

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