宇宙怪獣vsVtuber

桂かすが

第1話 デビュー配信 襲来!宇宙怪獣

「ボス、宇宙怪獣の反応です」


「mocs-11Xs、船ではキャプテンと呼べ」


「はい、ボス」


  生まれたばかりだから仕方がないとはいえ、なんて融通の効かないユニットだ、そうボスは眉をしかめる。


「当船に対するリスクは?」


「距離は十分あります。進路変更の必要はありません」


「なら後で報告を上げればいいな」


「近傍に知的生命体のいる惑星があります」


「銀河連盟に加入はしてないのか?」


「データによれば文明レベルは0.3相当。銀河連盟には未加入。保護対象です」


 文明レベルは1相当で外惑星に進出し、銀河連盟への加入資格を得ることができる。0.1未満だと文明を築く以下の動物レベルであるが、0.3となると十分知的生命体の範疇となる。


「宇宙怪獣の到達予想は?」


「五年で30%、一〇年後で90%です。警告と救援要請の必要を認めます」


「見なかったことには……」


「それは銀河連盟法の明確な違反となります」


 なんて融通が効かないユニットだ、そうボスは何度目かの思いを新たにする。


「お前はもっと融通を利かせることを考えろ」


「それはご命令でしょうか?」


「そうだ!」


「はい、ボス……キャプテン。それでどうなさいますか?」


「ええい、仕方がない。進路、その未開惑星」


「はい、キャプテン」


 進路変更のエネルギー。時間のロス。救援要請を発信する通信ロケットも安いものじゃない。えらい損害だ、ボスはそう嘆きながらも今回の予定変更での損害予想額を計算し始めるのだった。


 そして宇宙船に進路変更を指示しながら、mocs-11Xsは融通を利かせるということに思考リソースを割り当て始めた。




【一年後】


:待機

:初コメゲット!

:始まった

:新人楽しみ~

:期待


 配信をスタートさせると、画面にコメントがいくつか流れた。視聴者は6人。無名の新人の初配信にしては悪い数字とも言えない。


:あ、でた

:かわいい!


「地球は一〇年後に滅亡する!」


 モコスは身を乗り出し、カッと目を見開いて迫真のセリフでオープニングを飾った。


:いきなりこわ。なにこの子?

:予言者系Vtuber?

:見た目が宇宙っぽい


 すん、と落ち着いたモコスは改めて静かに挨拶の口上を述べた。


「こんばんは。初めまして。宇宙人系Vtuberのモコス・イクシスですにゃ」


:普通に挨拶できるやん

:テンション差で風邪ひきそう


 画面でモコスの動きに反応して、動いているのはアニメっぽい美少女キャラ。それをWaituberという動画サイトで、リアルタイムで配信している、いわゆるVtuberがモコス・イクシスの現在の役割である。

 ちなみにモコス・イクシスはmocs-11Xsというシリアルナンバーから取った。アバターは幼い小中学生くらい見た目で、銀髪。衣装はメタリックで宇宙服っぽいイメージで作られ、ところどころにメカっぽいギミックもあしらわれていた。


「実はですね、太陽系近傍を宇宙怪獣がうろついてまして、進路を計算してみますと地球が発見されて滅ぼされる確率が五年後で30%、一〇年後90%と出たんです」


:語尾がもう消えた

:もっと、にゃをすこれ

:もうダメだ

:ぼくたち死んじゃうの?

:定めならね……

:妙な設定ぶっこんできたな

:かわいければなんでもいいよ!


「我々のミッションはその宇宙怪獣から地球を守ることです」


:初見のリスナーをさらっと巻き込むな

:選ばれし6人

:無理じゃね?


「あれあれ? いいですか? 滅んじゃいますよ、地球」


:だから怖いって

:面白いなこの子

:どうやって地球を守るんですか?


「それを今から考えるのです」


:もうだめだぁ

:今後もこういうノリでやるの?

:自己紹介とかもうやらなくていいの?


「あー、そうですね。モコスは人工的に作られた半有機アンドロイドユニットでして、さっきも言った宇宙怪獣を監視する任務を与えられたんですが、ただ待ってても暇なんで、Vtuberデビューすることにしました」


:地球滅亡までのカウントダウンを暇とか言うな

:そのモデルかわいいね

:ママは誰だろう?


「モデルは自作ですから、ママは居ません」


 ママ、というのはVtuberのキャラ、アバターを描いた絵師のことだ。生みの親だからママと呼ばれることが多い。


:おお、すごいね

:それにぬるぬる動くね


「これ3Dモデルなんですよ。ですから、こう、色々動けるんです」


 モコスの動きに従って、アバターは立ち上がり、くるりと回転する。銀河連盟の高度なアンドロイドであるモコスにはプログラミングなどお茶の子さいさいなのだ。


:すっご

:大手事務所の3Dモデル並みじゃない?

:もっとぬるぬる動いているように見える


「それで今後の配信方針ですが、ゲーム実況に歌配信、雑談とか、一般的なVtuber活動をしていきたいなと思っています。応援してね!」


:するする

:いいぞー、もっと媚びろー

:宇宙怪獣はどうするのよ?

:そもそも宇宙怪獣ってどんなのだ?


「宇宙怪獣というのはですね。太古の銀河大戦で生み出された、自己増殖する惑星破壊生命体なんです」


 かつて名前を抹消された文明が戦争の道具として生み出した宇宙怪獣は、首尾よく敵対文明を滅ぼしたのだが、そこで止まらなかった。止めなかった。

 銀河にはまだ数多の文明がある。自身の文明が永遠に生き延びるためには、すべて滅ぼさねばならない。そう考えたかどうかは今となってはわからないが、宇宙怪獣が増えるのを任せ、近傍の文明、生命体のいる惑星を破壊して回った、そうモコスが語る。


「当然周囲の文明もやられるままではなかったんですが、こいつが本当にやっかいな存在で」


 惑星クラスの巨体に加え光速を超える移動速度。重力を操り、戦いの中で自己進化し、そして勝手に増える。


「恒星喰らいと呼ばれた最悪の進化を遂げた宇宙怪獣は、体内に取り込んだ恒星をエネルギー源とし、恒星すら一撃で破壊できたそうです」


:もうだめだ……

:そんなのが一〇年後に来るのか


「しかし宇宙文明が結集して銀河連盟の母体となった組織は、新しいテクノロジーを作り宇宙怪獣を圧倒し、その諸悪の根源の文明を名前も痕跡すら残さず消し去ったのですが、いまだに生き残りの宇宙怪獣が時折発見されるというわけなんですね」


:普通に戦って勝つのは無理なんだよね?


「月に行くだけで大騒ぎするようでは、何も出来ずに殲滅されるでしょう」


:じゃあ銀河連盟に助けを求めればいいのでは?


「通報はもう行っているはずですが、過度には期待しないほうがいいでしょうね」


 銀河連盟に加盟していない文明は保護と監視対象ではあるが、必ずしも守る義務はない。宇宙怪獣は進化する。強い宇宙怪獣を倒すのはコストがとんでもなくかかるし、もし取り逃がすとさらなる進化をして強くなってしまうから、やるなら確実に駆除する必要がある。しかもこの太陽系は銀河連盟の中心地から外れた辺境だ、そうモコスが解説をする。


「ですから運が良ければ救援が来るかもしれません」


:救援が来る確率ってどのくらい?


「近くに戦力があるかどうか。そして銀河連盟がこの文明を助けるという判断をするかどうか。そしてそれが果たして間に合うかどうか。お役所というのは総じて判断が遅いものです」


:お役所は草

:どこも同じなんだな

:もっと他にできることは? たとえば日本政府に連絡するとか


「実は現地政府にも一度通報を試したのですが、門前払いを喰らいました」


:そりゃ宇宙怪獣が来るとか言っても頭のおかしい人扱いだろ

:マジで行ったのか

:モコスちゃん、小中学生くらいの見た目だものね。そりゃ相手にされないでしょう

:岸本総理に会いに行ったの?

:総理、もったいないことしたな


「たしかルジアン連邦という国の大統領でした」


:ルジアンは草

:無茶しやがって

:よく生きて戻れたな


「初期の調査ではこの惑星で、一番権力を持つ人物でしたので」


:さすが独裁国家の最強権力者

:ルジアン語は話せたんだ?


「私は交易船のサポートとして作られたので、言語能力はとても高いのです」


:幼女のドヤ顔

:その年でマルチリンガルはすごいな

:そういう設定でしょ? さすがに本当に行ったとかないよ


「リアルで本当に行きました。私としても会える確率は低いとわかっていましたが、警告をしたという体裁は大事なので」


:一〇年後の地球滅亡は90%なんだよね? 10%の確率で助かるの?


「宇宙怪獣が何かの理由で深い休眠状態の可能性もあるので、もしかすると何事もなく通り過ぎる可能性もあります」


 監視ユニットは置いてきたが、あまり近寄って宇宙怪獣を刺激するのもリスクが高く、遠方からでは、じっとしているだけか休眠状態なのかの区別は難しいのだ。


:じゃあ宇宙怪獣が起きていれば一〇年後の滅亡はほぼ100%ってこと?


「地球からは電波がかなり飛んでますよね。あと探索機も出してますし、それを見逃すほど宇宙怪獣は甘くありません」


:交易船?宇宙船みたいなのに乗ってきたんだよね。それを見せれば政府も一発で信じるのでは?


「銀河連盟の法規ではアンドロイドのモコスに人権はなく権限もありません。前宇宙文明に対するテクノロジーの開示は大きなトラブルを生じる恐れから、基本禁じられているのです」


:人権がないは草

:ここで話すのはいいんだ?


「これは事前警告の範囲内だと思われるので、ギリギリセーフです」


:ギリギリセーフなんだ……

:アウトだとどうなるの?


「アンドロイドは軽微な罪でも簡単に抹消されます」


:それってやばくない?


「ですがチャンスでもあります。もし私の手でこの地球を救えれば、その功績により人権がもらえるかもしれません」


:じゃあ人権をもらうのが目標か

:面白い設定だね

:人権がない。つまりは……

:はい!モコスちゃんはどこで買えますか?


「銀河連盟の大きな惑星なら売ってますよ。値段はそうですね……高級乗用車くらいの感覚でしょうか」


:ちょっと貯金おろしてくる

:あ、ずるいぞ

:おれもおれも!


「注意事項ですが、性的な行為は禁止です。禁止しておかないと自然人の数が激減してしまうので、かなりの重罪です」


:はい、解散

:いやしかし、側に置いて愛でるだけでも

:モコスちゃんは何ができるの?


「汎用のサポートタイプなので特筆したスペックはありませんが、基本なんでもできる感じですね」


:家事とか得意そう

:料理配信して!

:何か歌ってみて


「料理は……食べる必要がないのでよくわかりませんね。歌は一回歌ってみましょうか。曲は……これがいいかな。【地球で最後の愛を叫ぼう】、です」


:やめろやめろ。縁起でもない

:この曲好き

:わくわく


 曲が始まり、モコスが歌声を響かせる。


:そこそこ……上手い……下手か?

:ぎこちなさはあるがいい声。これは推せる

:かわいい


「汎用といっても歌はさすがにスキルに入ってないので、要練習ですね」


:評価に不満そう

:伸びしろしかない

:声はいいから、練習すれば上手くなりそう


「さて、そろそろ一時間ですので、今日のところはこれで配信を終わります。チャンネル登録、高評価、SNSでの拡散等、よろしくお願いします。SNSのアカウントは概要欄に貼っておきますので、そちらのフォローもお願いします」


 それだけ言い切るとモコスは配信をぷつりと切断した。




【本日の成果】


 同時接続数6人。チャンネル登録者数5人。SNSフォロワー数0人

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