バニシング転生、テストパイロットだった俺は異世界で人型機動兵器の有用性を分からせる!

ながやん

第1話「――消失、それは旅立ち」

 今、地球全土が燃えていた。

 比喩ひゆではなく、本当に燃えたぎっていた。

 戦火という名の消えない炎は、侵略者たちの悪の手だ。

 だから、彼は走る。

 そして歌う。

 名は、寺田テラダアスミ。

 滅亡寸前の人類を守るために戦う、元自衛官の地球軍少尉だ。


「今だ走れ、明日へ未来へとぉぉぉぉ♪(バババン、バンバンバン)」


 絶体絶命のピンチだった。

 すでにこの基地は敵に襲われ、防戦むなしく壊滅しようとしている。

 敵の名は、と呼称されている。

 ある日突然、宇宙から現れ人間社会への虐殺を開始した。

 しかも、人型の巨大機動兵器、ロボットにる大軍でである。

 終焉しゅうえんへと転がり落ちるこの惑星で、それでもアスミは凱歌がいかを歌っていた。


「地球の危機を救え、救えっ♪ レッツ・ゴォォォォォォ!」


 大好きなアニメソングを歌って、怯えも恐怖も脱ぎ捨て走る。

 すぐに視界が開けて、地下の秘密格納庫へと到着した。

 遠くで爆発音がして、パラパラと天井からちりほこりが舞い降りる。それさえもアスミには、初陣ういじんを祝福するライスシャワーに見えた。

 そう、始めての実戦である。

 そして、アスミは地球軍のテストパイロットだった。


「待たせたな、相棒……地球を救うぞ、!」


 そこには、鋼鉄の守護神ガーディアンが沈黙していた。

 堂々たる巨体でケイジに固定されている、それは全長100mを超える超弩級人型兵器ちょうどきゅうひとがたへいきだった。アスミはこの巨神を、テラセイヴァーと呼んでいた。

 すぐにコクピットへと飛び込み、幾つかの起動手順をスッ飛ばす。

 通信が入り乱れる中で、恋人の声が飛び込んできたのはそんな時だった。


『寺田少尉、どこにいるんです! 総員退去、退却ですよ!』

「決まっているだろう、秘密格納庫だ! テラセイヴァーで、出るっ!」

『ちょ、まっ……なに言ってるんですか! 一度も起動したことがないんですよ! あと』


 脳裏の片隅に、小さくてお節介で、歳上なのに童顔な恋人の面影おもかげが過ぎった。

 だが、彼女との甘い思い出を今は、深く深く胸の奥へと沈める。

 今、アスミは戦士……この星の明日を賭けて戦える、唯一の存在なのだ。


『あと、いい加減に覚えてくださいっ! その子はテラセイヴァーなんて名前じゃなくて、試製00式決戦兵器しせいフタマルしきけっせんへいき! 正式名称未定です!』

「フッ、わかっているさ……なあ、ルリナ」

『なっ、なによ』

「今から俺がテラセイヴァーで出る、時間を稼ぐ。その隙にお前たちは逃げるんだ。お前だけは……逃げ延びてほしいんだ」

『アスミ……ア、アンタねえ! アタシを置いてまさか』

「あと、なんだ……00フタマルって、つなげたらむげんだいっぽくて、いかにも主役ロボっぽくないか?」

『うっさいバカ! 死ね! ……嘘だよ、嘘。生きて帰ってきて。90秒後にオートでハッチが開くから、そこから先は地獄よ。敵は500m級が100体以上なんだから!』

「任せろって、ルリナ。こういう時、アニメじゃお約束だぜ? 今度こそコイツは目覚める……テラセイヴァー、起動の第一話ってやつだぜ!」


 大昔からアスミは、ロボットアニメが大好きだった。

 そして、知っている。

 鋼の魂を持つ男……否、おとことして感じている。

 ピンチの中にチャンスあり!

 こういう時こそ、物言わぬ鋼鉄の相棒が、愛と勇気に応えてくれるのだ。

 その意気込みを胸に、起動用のキィをひねる。

 たちまち巨大な機体は全身を震わせ始めた。


『……起動確認、テラドライブ出力上昇、臨界……う、嘘、本当に動いてる!?』

「だろ? 見てろよ、ルリナ。――地球合体テラセイヴァー、はっ! しん!」

『だから、合体機構なんてないってば! ……ま、待って! 臨界突破、さらに出力が……もしかして、暴走!?』

「なにぃ!」


 暴走、それはロボットアニメの王道にしてお約束。

 時にロボットというものは、暴走して限界を超えた力を発揮するものである。

 だが、それは今じゃない。

 だからついつい、そのままアスミは日頃の口癖を叫んだ。


「耐えろテラセイヴァー、安定するんだ! お前はいつか暴走するだろうし、戦いに傷つき二号ロボに乗り換えられるだろう。ヒロインが……多分、後半クールで乗るだろう」


 アスミの全ては、ロボットアニメでできていた。

 そうでないものも全て、ロボットコンテンツで得て育ったのである。

 そして今、本当に地球を守る最後のパイロットになってしまったのだ。


「だがっ! 今じゃない! 俺と戦ってくれ、テラセイヴァー!」


 ――

 常にそう言って、全てのネガティブ要素を排除してきた。持ち前の努力と根性で、たった一人のテストパイロットとして軍に入ったのである。

 既にもう、この星に国家、国境はない。

 一丸となった地球人類は、地球軍は今も戦っている。

 守るべき民と星のために。

 だから、再度声に出して叫ぶ。


「今じゃない、今じゃないんだ! 俺たちのゴール、最後の瞬間は……今じゃないんだあああああ!」


 その時だった。

 高鳴る動力炉の光が溢れ出た。

 なにもかもが真っ白に塗り潰されてゆく。

 テラセイヴァーこと試製00式決戦兵器は、制式採用名も持たぬまま光になった。

 テラドライブと呼ばれる未知のエンジンが、今回は起動こそしたものの暴走したのだ。その爆発が幸運にも、迫りくる敵を纏めて消滅せしめたのをアスミは知らない。

 僅か一瞬で蒸発する中、アスミは声を聴いた。

 死の瞬間に、女の声を確かに感じたのだった。

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