私立青ヶ咲学園〜霊験灼か解明部の躍動〜

双柳369

美少女との出会いというか未知との遭遇

「桜の花が咲き始め、温かい日差しが降り注ぐようになりました。新入生の皆様、この度はご入学おめでとうございます」


生徒会長なのだろうか?

前髪を7:3で分け、黒縁の眼鏡をかけている。

何やら在校生代表として祝辞を述べているが、今の僕はどうしても聞く気になれなかった。

別に式典が嫌いだとかそういう話ではない。

まあ、それも少しはあるのだが、今回ばかりは違う。


ぶっちゃけると受験で失敗したのである。

失敗と言っても、こうして第二志望の高校に入れているのだから落ち込む事はないのだろうが、それでも行きたい高校に行けずに落ちたというのは辛かった。

なまじ、真面目に勉強をしていた分悲しみも大きかった。


第二志望のこの高校。

私立青ヶ咲あおがさき学園。

校舎も新しく、設備も充実している。食堂だってあるし校庭だって都内の高校の4倍以上はあるだろう。素晴らしい場所だ。


だが、ひとつ大きな問題があった。

それは青ヶ咲学園が山の中にあるという事だろう。

地方に住んでいた僕は東京に憧れ、都心の有名高校を目指した。

そして案の定、落ちた。


滑り止めとして併願推薦を取っていた青ヶ咲学園も都内の高校という触れ込みだったのだが、都内は都内でも校舎があるのは奥多摩の山の中だった。

中学の先生が見学に行っておけと言ったのはこう言う事だったのだろう。

入学式の最中、今頃僕は恩師の言っていた事が分かった。


そんなことを考えているうちに入学式は終わり、新入生達は体育館を出ていっていた。



###



今日の予定は入学式だけだったため新入生は早々に帰路についていた。


校門の前に貼られているクラス分けの紙。

その周りに多くの人がたむろしていた。


言い忘れていたが僕の入学した高校はマンモス校だ。

一学年600人。×3年生分に中学生まで合わせて総勢2400人在籍している。


そんな人数が入れる校舎があるのかとパンフレットを見た時に思ったが実物をみてしまえば納得するほかなかった。

言っちゃ悪いが校舎のデザインは学校というより収容所といった方が適切な気がした。


「教室…行ってみるか…」


ふとそんな事を思った。

明日から授業を受けるであるう場所。

そこを一目見てみたいと思ったのだ。


教室は7階の1年R組。

今いる空き教室の5つ上の階だ。

そう遠くはない。

「行ってみよう」そう言って歩を進めた。


余談だが、この学校の階段を偉く長い。

いかんせん校舎の高さが30mを超えるため一つのフロアを上るのに数百ある階段を登らなければならないのだ。


エレベーターがないのかって?


もちろんある。


けど使えない。


2000人以上の生徒がいる学校でエレベーターなんて使えるわけないだろう。


元々使われていたエレベーターは積載量2tは耐えられるほどの倉庫用エレベーターなのだが、数の力に勝てるわけなく....。


お察しの通りだ。


幸い怪我人は出なかったらしいが、その事件がキッカケでエレベーターは使用禁止になった。

だから階段を登る必要がある。


「はあ、はあ、はあ」


登り始めて数分ほどで階段を登り切る。

汗が背にたまりシャツと擦れることで嫌な感触を残した。

幸い目的の教室は階段のすぐ近くで這い寄っていくのに大した時間はかからなかった。


開けようと扉を引く。


ガシャン!


開く様子がない。

なるほど、横開きなのか。


ガシャン!


先ほどと同じ光景だ。開かない。


まさかここまで来たのに教室には入れないことになろうとは夢にも思わなかった。


しかし考えてみれば当然である。教室に鍵をかけるのは客観的にみても主観的に見ても当たり前のことだった。


しかし諦めるわけにはいかない。

せっかくここまで登ってきたのだ。


一縷の望みにかけて教室の後ろ側の扉へ向かう。

取手に手をかけ引く。


すると、なんとも呆気なく開いた。


開かれた教室の窓は全て開かれており風が吹き込んでいた。

カーテンは風に煽られパタパタと揺られている。

それ以外にも、何やら白色のハンカチか何かのようなものが飛んでいた。

誰かが落としたものかもしれないと軽く跳び、キャッチする。


後の僕から言わせれば、この時それを掴んでしまったのが運の尽きだと言わざるを得ない。


結論から言うと、掴んだソレは札であった。

事故物件とかによくある霊を封じる様な札。

宗教色の強い不気味な札である。


「えーと確か君は山田煌やまだこうくんだったかな?」


声がした。

教卓の方からだ。

すぐさま、そちらを見ると少女がいた。

僕と同い年くらいの黒髪の美少女。


少女は一拍おいて大々的に言った。


「様々な超常現象を私と一緒に解き明かそう!」


それが彼女、あたらいみさきと僕、山田煌の出会いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る