【サモン♡デーモンキング】  〜最強居候魔王使い召喚士の弟子になりましたが、彼と一緒にダンジョン攻略をするのは簡単ではありません〜

倉村 観

スライムの逆襲

プロローグ

非常に住みやすく、複数の観光名所、リゾートとしても有名な街【流凪町リュウナキチョウ】には、古くより【アルデスの囚者シュウシャ】という教団が根をおろしていた。


その宗教は、かなり異質で、正式に認められた団員以外は、内部構造が一切明かされず、宗派、教義や信仰対象、進行方法、果ては入信方法までも謎に包まれていた。


そのため、この街の人々の一部はこの教団を怪しげな新興宗教団体だと思っていたようだが、この教団は街に対して、度々ボランティア活動や、多額の資金提供などを長い間行っていたため、大抵の住人はその入団条件の厳しさから、信者になることはなかったものの、かなり馴染み深く、親しみのある存在としてとらえられていた。


2070年の4月のことだ、そんな【流凪町】の東地区にある、アルデスの囚者が所有する小さな教会に一人の幼い少女が訪れた。


少女はかなり衰弱しているらしく、服と体の隙間からは痛々しい打撲の跡が見え隠れしていた。


少女は体を震わせながら、ホコリ被った席の一つに腰掛け、疲れ果てた様子で頭をおろした。


「やぁ…お嬢さん。ほんとにこんなところに来るなんてよっぽど切羽詰まってるじゃないか…。」


「ヒャッ!?」


しかし突如隣の椅子に現れた老人の男の声により、少女は思わず飛び上がって驚いた。


「ごっ…ごめんなさい。 神父様。私この街に来てまだ二年で…。この街の宗教の祈る方法がわからなくて……。」


「あぁ…わかってる構わんよ。祈ってくれるだけいいさ。最近では内に懐疑的な連中な連中が、多くてね。この街に度々起こる怪奇現象をうちのせいにしたりするんだ。まっ!それに関しては私は何も言わないけどねぇ……。」


そういうと老人は少女の顎を軽くつまみ、顔をあげさせて、その殴られて腫れ上がり、また痩せこけていた、その顔を覗き見た。

 

 「なんてこったい…。 1年前は子役として活躍していた顔とは思えんな。随分と落ちぶれたもんだ。」


「え? どうしてそれを…。」少女は震え上がるばかりで、声が出なかった。



「あぁ…なんでも知ってるよ、北座カオリ。ソレよりも君はここに望み

をかけて来たんじゃないのか?」


そう言って老人は自分の頭を指して見せた。すると少女もそのジェスチャーを理解したようでハッとした表情を浮かべた。


「私…悩みが…。友達に…ここにくれば解決するって言われて。」


「復讐だろ?」


「そんな!!違っ!」



そう叫び少女は慌てて否定した。


老人はそんな彼女の様子を見ると口角を上げた。


「違うくない。 君はわかっているはずだ…。 自らをこんな目に合わせた奴らを…。そいつらの天罰を願ってここに来たんだろう?」



「ッ!!」



それを聞いた瞬間、少女は大きな目に涙をためはじめた。


今すぐにでも泣き出してしまいたい衝動に駆られたが、少女は堪えた。



「そう……。私はそいつらを天罰で殺して欲しいんです…。私…どうかしてた…。なんて祈りを…。」


「いや……。何が悪いと言うだ?」


「え?でも…神父様。神様は起こるんじゃ…。だってこんな復讐を神様にやってくれだなんて…。神様は許してくれない。」


「君は…2つ間違えている。」


「2つ?」


カオリは聞き返した。


その答えに老人はニヤリと笑った。その直後、老人の背中から、バキバキと骨や筋肉の動く音が響き渡り、徐々に彼の背中から黒い翼が現れた。


「一つ…。私は神父ではない…。私はこの教会が進行する神の一つだ。」


「え?!」


カオリは驚愕して。腰を抜かした。

そんな彼女を気にもとめず、翼をはためかせながら老人は話を続ける。


「もう一つ…。私はそんな事では怒ったりはしない。」

カオリは老人のその発言に、少し安堵した。


「だが…君の言うことにも、一理ある。私が君のためにわざわざ天罰を下すのは、確かに神としてはおかしな話だ。」


老人はカオリに手を差し伸べた。

カオリはその手を恐る恐る掴み、立ち上がった。


「だから…復讐は君自身がするんだ。」

「でも…どうやって…。わたし…」


カオリは戸惑いと悲しみで涙を浮かべていた。

その涙を老人は拭きながら、彼女に語り続けた。

 

「心配するな…力を与えてやろう。」


老人はそう言って懐から一本の注射器をカオリに見せた。

カオリはその注射器を不思議そうに見つめた。


その注射器には、何か液体のようなものが入っていたが、それが何かまではわからなかったのだ。

すると老人はその針をカオリの腕にゆっくりと刺した。


「ぅ…!?」


カオリは突然に襲ってきた痛みと恐怖で目を見開いた。 


「さぁ……これで君はもう普通の生活には戻れない。」


老人は注射器をカオリの体から抜き取ると、彼女の耳元で囁いた。


「だが……君の望みが叶えられる日は近いぞ……。」


「あ……」


カオリはその注射針が刺さっていた部分から、徐々に熱と痛みが広がっていくのを感じた。そして同時にその痛みは、まるで自分の中に別の何かが入ってくるような感覚であった。


次の瞬間、カオリは自分の心臓に異常な違和感を抱いた。


そして彼女の体から突然、赤い電のようなものが、際限なく放電されあたり一面を明るく照らした。


「ギャアアァアァッ!!イヤァアアアア!!」


カオリは悲鳴をあげ、その場に倒れこんだ。それでもその得体のしれないエネルギーは彼女から、溢れ出ていた。


「おぉ百人に一人くらいか…。この性質と、分泌量。ようやくあたりを引けたな…。」


老人はその様子を見てそう呟くと、倒れ伏したカオリに近づき彼女の前にしゃがみこんだ。その頃にはようやく放電は治まり、光も収まっていた。


「ぅ…うう」


カオリは涙を流しながら、ゆっくりと起き上がろうと、椅子に手をかけたその時だった。 


彼女が自らの体を支えるために握った椅子の取っ手が、教会中に響くほどの鈍い轟音を立てて、粉々に砕けた。


「!!」


カオリは自らの握力に驚愕した。


「これは……!?やっ?!」


老人はカオリのその異常な力に驚いたが、すぐにニヤリと笑い少女の服を引っ張り、胸元を覗いた。


「いや…やめてください。困ります。」


カオリは、赤面しながら抵抗しようとしたが、老人はソレを咎めた。


「黙っていろ。重要なことだ」


老人はそう言って、その少女の胸元に刻まれた蒼く輝く十字の紋章のようなものを確認して顎に手を当てて考え込んだ。


「ふむ…この分泌量で【隻宿セキシュク】か…ならば。」


老人は懐から一本の中の物体によって蒼く染まった瓶を取り出して、指でトントンと瓶を叩いた。


すると瓶に、魔法陣のような紋章が浮かび上がった。



「なにを…やっ?!…グッ…苦し…。」


カオリは胸を抑えながら悶えた。


「窮屈だろ?これは…【スライム】と言ってな…今はもう君の体の一部だ…だからこの瓶から出せば、その苦しみから開放される。ただしコントロールが必要だ…。集中しろよ。」


老人は自身の翼をはためかせながら、瓶の蓋をゆっくりと開けた。


するとその瓶の中から、何かが勢いよく飛び出し一瞬にしてカオリを飲み込み扉を突き破って教会の外へ姿を消した。


「行ってしまったか…。素晴らしい。」


老人は去っていったカオリを見て、口角を上げた。


そして彼は割れたガラスや、荒らされた教会を見回した後で、溜息を吐いた。


「はぁ……後始末が大変だ……」

「そうだよ…お前どうすんだよ」


老人が、ため息をつくと背後から、老人と同じ服装の若い男性が縹緲とその姿を表した。


「なんだ…着てたのか…いつからいた?」

「お前が神を騙って女の子をを誑かすところは見ていたさ…。良かったなうちは実態がよそに漏れない【無神教】で」


その言葉に老人は口をへの字に曲げて、顎に手を当てた。そして暫く考え込んだ後再び口を開いた。


「それで…ようがあって来たんだろう?」


「あぁ…【海膿の章鍵】。いつまで張るんだ?あれ…。十年以上も立っている…そろそろ始めるんだろう?」  


その言葉に老人は口を釣り上げ、笑い声をあげて応えた。


「問題がある。」


「問題?頭を抱えることか?」


「そうさ…。確かにアイツは非力だ…。だがなかなり厄介だ…。竹中千次よりもな…。」

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