第7話
車に乗っている時、私はレイ様に尋ねられた。
「ここに来る前まで、お前はどこで何をしていたんだ?」
一番困る質問だ。
交通事故にあって転生してしまった今日この頃だが、美澄玲奈の記憶はあるものの現在の「ティア」の身の記憶は一切ない。
そして、「転生」という事実がこの世界でどのように受け止められるのかもわからない。
なんとなく「私が転生して来た」という秘密は黙っておいた方が良い気がしたのではぐらかしておいた。
「私の過去など、レイ様には関係ございません。」
そう言ってレイ様と目を合わせた。
「…。なんだよ。そんなに俺が嫌いか?」
いや。そういうわけではないのだが…。またレイ様は拗ねてしまった。
すぐ拗ねるし、すぐ怒るし、お前は赤ちゃんかよ!?と思うのだが、実際のレイ様は17歳だと聞いた。
身長や顔立ちはたしかにそれくらいに見えるが、精神年齢が幼すぎるだろう。
現在の私、「ティア」もおそらく17歳くらいだ。身長は160センチくらいで前世よりは低いものの、鏡に映るキリッとした目つきや前世では恵まれなかった立体的な胸は気に入った。
かわいい系というより整ったクール系の顔立ちは正直自分でも好感を抱いた。
前世と正反対のルックスを利用して、現世ではハーレムでも築きたい…といけないことを考えながら私は窓の外を眺めた。
「さあ、到着いたしましたよ。」
40分くらい車に揺られ、私たちは王都に到着した。ブラインは「午後3時にこちらに迎えに来ます」と言い残しどこかへ行ってしまった。
もうすぐ10時ということは5時間もこいつの警護をするのか?日当5000万円の意味が分かった気がした。
私は周囲を警戒しながら、レイ様の後ろを歩くことにした。
辺りをキョロキョロと見渡してみるが文明は現在の日本と変わらない様子だ。
私たちは大きなショッピングモールに到着し、洋服屋に案内されるのであった。
「あ、これでいいよ。」
私はセール中シールが貼ってある黒いパンツスーツを指さした。これなら動き安そうだしかっこいい。
「じゃあ、決まりな。」
レイ様はすぐにズボンをかごに入れた。
「これとかどうだ?」
レイ様は赤いロングワンピースを指さす。
美澄玲奈なら間違いなく却下だが、ティアなら似合うかもしれない。というか、あんな感じのおしゃれなワンピースは着たことがないので、正直着てみたいかも。
それ以外にも青いワンピースや黒いミニスカートなど、レイ様はどんどん買い物カゴに洋服を詰めていった。
これはきっととんでもない額になる…。
「あの、レイ様…。お恥ずかしながらそんなにたくさんお支払いできません。」
10日後には億万長者だが、現在の私の所持金はほんの数万円しかない。
「俺が払うから平気だ。あと、二人きりの時はレイと呼べ。」
レイ様はそう言って私の唇にそっと指で触れてきた。
…!なんでこんなにドキドキしてしまうの?
勝手に顔が赤くなっていくのがわかったし、心臓の音もうるさくなる。
私は照れて何も言えなくなって思わず俯いた。
「ほら、試着室にでも行ってこい。」
レイ様に促され、私は試着室に入った。
落ち着け私…!あんなクソ男にちょっと女の子扱いされたからといって、調子に乗るなよ!
私はレイに勧められた赤いワンピースに着替え、鏡を眺めた。
ヤバい。結構似合っているかも。
「どうかな。似合ってる?」
そう言って試着室のカーテンを開けると。
レイはいなくなっていた。
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