柿食えば腹が鳴るなり法隆寺

水曜

第1話

普段私は腹が鳴ることなど滅多にないのです。

ただ、何故か腹が鳴って欲しくない場面に限りやたらと腹が鳴ることが多かったりしました。


大切な場面で腹が鳴ることは、誰もが(?)一度は経験したことがあるでしょう。それは緊張感が高まる状況で特によく起こるものなのかもしれません。私自身もそのような経験を何度もしてきました。その一つを思い出してみましょう。


ある日、とある入試が近づいていました。私は一生懸命勉強をしていましたが、どうしても集中できず、不安と緊張が募るばかりでした。そんな中、試験当日に腹が鳴るという最悪の事態が訪れました。


もちろん朝食をしっかりと摂り、十分な睡眠を取るように心掛けたのです。ところが、試験開始と同時におなかがグーグーと鳴り始めました。それはまさに大切な瞬間で、静かな試験室に響き渡るような音でした。


まさに爆音。

皆が真剣に集中している場で、これは大変恥ずかしい。


私は内心で慌てましたが、他の受験生が気付いているかどうか不安になりました。多分、いや絶対に多くの人に聞かれていたはずです。ただ、皆当たり前のように何の反応もないのです。


逆にそれが辛い。


周囲の静寂が羞恥心をますます際立たせるように感じられました。その場面で、自分のおなかが鳴ることに対する緊張と、周囲への配慮との間で葛藤が生じました。


試験中、私はなんとか問題に取り組みましたが、おなかの音が私の頭から離れませんでした。それはまるで、自分自身を裏切るような感覚でした。


そして、また最後に事件は起こりました。試験終了のチャイムが鳴るとほぼ同時、また私の腹は爆音を奏でたのです。周りは当然のごとく無反応でしたが、こいつはどれだけ腹を空かしているんだと思われたことでしょう。


結果的に、私の試験自体は無事に終了しましたが、その日の出来事は私の記憶に残りました。もし私の腹の音を聞いて誰かが集中力を乱してしまっていたら申し訳ないなあと、時に思い出すのです。

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柿食えば腹が鳴るなり法隆寺 水曜 @MARUDOKA

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