第21話 町中での仕事

先日、ジュンタとハルドは休みを取り修行を行った。体力トレーニングやその後の格闘や武器での組手によってかなり消耗した2人は結局体を休められず、もう1日休んでしまった。今度こそ体調を整え回復した2人は、修行した日から2日経った今、活動を再開する。2人は今日も挨拶をし、朝食をとる。


ジュンタ「一昨日は軽くやるつもりが、すっかり疲れちゃったね。」


ハルド「バカ野郎。アレのどこが軽くだよ。」


ジュンタ「でも、俺たちにとってはあれくらいしないとね。修行で自分を追い込むのは当たり前。自分の目的に合った追い込み方をして初めて修行になるんだ。」


ハルド「そうだな。」


2人は、活動を再開するにあたり、今日のやることを話し合う。


ジュンタ「今日からまた、バリバリ仕事だね。今日はどういうのにする?」


ハルド「そうだな…今日は方向性を変えて、町の中でやるクエストを受けるぞ。」


ジュンタ「町の中で…」


ハルド「おう。クエストの中にはな、魔物やアイテム目的のやつだけじゃなくて、時々町の中で手伝いを求めるクエストもあるんだ。お前も1度経験してみるといい。」


ジュンタ「言われてみればやったこと無いかも。」


ハルド「手伝いだからといって甘く見ちゃあいけねぇぜ。手ぇ抜いたり、ミスが続いたりすると、町の人たちからの信用が減っちまう。『コイツは適当にやる奴だ』って思われちまうと仕事を受けづらくなるからな。」


ジュンタ「確かに、お金を貰う以上プロとして動く。手を抜く理由なんてどこにもないよね。」


ハルド「その通りだ。…ってか、俺らはプロって言えんのかよ?」


ジュンタ「プロだよ。報酬を貰ってる以上はね。」


ハルド「なるほどねぇ。じゃ、行くか。」


ジュンタ「うん。」


自宅の戸締りをし、ギルドへクエストを受けに行った。クエストの系統や条件を絞って受けるクエストを選択していく。


ハルド「今日やるのはこれだな。」


クエストリストの中から町中での仕事を1つ選択した。


内容:臨時バイト

時間:本日9:00~15:00

場所:定食屋「エブリシャス」

報酬:時給50ℳ

受注資格:Eランク以上、3名以内

※注意事項

6時間労働でお願いします。業務内容は皿洗いや接客などです。詳細は店頭でお伝え致します。


ジュンタ「なるほどね。飲食の臨時バイトか。」


ハルド「飲食店の店番はよく頼まれる内容だ。」


ジュンタ「…そうなんだ。行ってみよう。」


2人は自宅で支度をし、依頼元である飲食店、「エブリシャス」へ向かった。見た目は前世にもよくありそうな、ローカルな見た目の小さい店だった。開店前の店に裏口から入ると、店長が出迎えてくれた。


店長「貴方たちが今回のバイトさんですか。私、『エブリシャス』の店長でございます。」


そう言うと店長は2人に名刺を手渡した。


ジュンタ「ありがとうございます。本日はどうぞよろしくお願い致します。」


ハルド「よろしくな、店長。」


店長「ええ、こちらこそ。」


ここで1つ、ジュンタは店長に疑問をぶつける。


ジュンタ「ところで店長、1つよろしいでしょうか?」


店長「はい。何でしょう?」


ジュンタ「なぜ、我々冒険者を日雇いするのでしょうか?人手が欲しい“だけ”なら一般の方と労働契約を結ぶのがセオリーです。差し支えなければ目的等をお聞きしてもよろしいですか?」


店長「そうですよね…貴方のような鋭い方にはよく言及されます。」


質問に対し、店長がおもむろに口を開く。


店長「まあ、よくある話です。うちは最近、経営難なんですよね。オープンの時にギルドから借入れた借金もまだ少し残ってるんですよ。だから、これ以上売上が良くならなかったら店を畳んだ金で借金を返そうかと思うんです。」


ジュンタ「そんな…ですが店長、売上の方はやり方次第でどうとでもなると思います。でも本当に深刻なのはもう1つの方なんじゃないですか?」


店長「…」


ジュンタ「お体に、複数の痣がありますね?チラッと見えたんです。それにこのお店には店長と店員さん1人。何者かに暴力を受けているのでは無いのでしょうか?だから被害を抑えるため我々を呼んだと。」


店長「全てお見通しでしたか…そうです。貴方たちに、店に降りかかる火の粉を払って頂きたくお呼びしました。」


ハルド「そうか。で、その相手は誰なんだよ?」


店長「実行犯は近くの酒場の店員です。恐らく黒幕はそこのオーナー。お酒が売りの酒場に対し、私は料理の味で勝負している。奴はそれに気づいているんです。なので、客を取られまいと店員を蛮族に変装させ、私たちを徹底的に妨害しました。度重なる暴力のせいでもともと3人いた店員のうち2人辞めてしまいました。当然お客さんの印象も最悪で、この有様です。」


ジュンタ「酷い…」


ハルド「だったらよ、ここは圧倒的に他地域より金がねえ。時給50ℳでも、ちとキツイんじゃねぇか?多少減らしても構わねえぜ?」


店長「いいえ、そういう訳にはいきません。お約束した給料は必ず差し上げます。」


ジュンタ「店長。俺たちにできる事は少ないですが、今日一日だけでも、被害を無くせるように頑張ります。」


店長「ええ。よろしくお願いします。」


そうこうしているうちに、開店時間が迫っている。


2人は、店長から借りたエプロンを使用した。そして、準備が整った店長と従業員1人、ジュンタとハルドは開店と同時に客を迎え入れる。


店長・従業員「いらっしゃいませ。」


ジュンタ「いらっしゃいませ!」


ハルド「いらっしゃい!」


店内には、開店から10数分後に客が1人2人と入ってくる。数は少ないが、この店が提供する定食を気に入っている常連が居るようだ。


ジュンタ「ハルド、俺が接客するからキッチンお願い。」


ハルド「おう、任しとけ!」


店長「ハルドさん、定食セットAを1番テーブルにお願いします。」


本日は冒険者を日雇いし、安全を確保しているため、味を評価している客、朝食を済ませてない客などが来店した。また、メルン町の酒場は昼から営業するという特性を利用したので、午前中は何とか乗り切った。


店長「じゃあ少し早いですが、お2人はお昼の休憩を取ってください。」


ジュンタ「分かりました。休憩入ります。」


ハルド「1時間後に戻って来るぜ。」


ジュンタとハルドは休憩室に入って、店長からの賄いを口にしながら喋る。


ジュンタ「飲食のバイトは初めてだけど、思ったより忙しいんだね。」


ハルド「まあ、冒険者を日雇いする時はいつもこんな感じだからな。」


ジュンタ「そうなんだ。それにしても、店長の料理美味しいよね。酒場で食べたものよりもこだわって作られた感じがする。」


開店前、店長が先述した通り、定食屋『エブリシャス』は酒を提供しない代わりに、料理の味を高クオリティでかつ安く提供することを売りにしている。『エブリシャス』は夕食の時間帯まで営業している。


ジュンタとハルドが休憩を終え、ちょうど昼食の時間帯になったとき、扉を激しく開く音が聞こえた。件の暴漢が2人やって来たようだ。


暴漢1「邪魔するぜ?」


店長「ひぃっ!あ、あなたたちは…」


暴漢2「てめぇまだこの店続けてんのか。しぶとい奴だなぁ?」


明らかに客ではない者が来て、店長は悲鳴を上げ、客席は騒然としている。そこに、ジュンタとハルドが戻ってくる。


ジュンタ「店長、休憩終わりま…だ、誰ですかその人!」


ハルド「棒切れなんか持ちやがって、物騒な奴らだ。」


店長は、震える声でジュンタたちに助けを求めた。


店長「君たち、助けてくれ…この人たちだ!」


ジュンタ「ハルド、店長たちを。」


ハルド「分かった。」


暴漢1「ちっ、なんだよ、今日は護衛いんのかよ。」


暴漢2「関係ねぇ、全員丸腰だ!やっちまえ!」


2人の暴漢は棒切れを持ってジュンタに殴り掛かる。しかしジュンタは丸腰とか関係なく冷静に2人を制圧する。


ジュンタ「暴れるな。食事が台無しだ。」


暴漢1「ぐっ、なんなんだコイツは…」


暴漢2「一旦逃げるしかねぇ!」


返り討ちにあった暴漢たちはそそくさと店を後にする。


店長「ありがとうございます!なんとお礼をしたら…」


ジュンタ「いえいえ、こういう時のための俺たちですよ。」


ハルド「お礼もなにも仕事だからな。あと、俺は何もしてねぇ。」


ジュンタ「それより、怪我は無いですか?」


店長「ええ。私もスタッフも特に問題はありません。」


ジュンタ「なら良かったです。お客様方もお騒がせしました。」


客「いやいや、さっきのはカッコよかったぞ、若い兄ちゃん!」


客2「そうよ。見惚れるくらい綺麗な動きだったわ。」


ジュンタ「あはは…それはどうも(汗)。」


ハルド「まあ、流石は相棒といったとこだな。」


店長「皆さん、大変お騒がせしました。改めて、ごゆっくり食事をしてください。」


トラブルが片付き、ジュンタとハルドは、最後まで臨時バイトに勤しんだ。


店長「今日は、ありがとうございます。こちらがお2人への報酬です。」


店長はそれぞれに時給50ℳ、5時間働いたので250ℳずつもらった。


ジュンタ「ありがとうございます。でも、大丈夫なんですか?」


店長「お金についてはご心配なく。自分の腕と信頼が何よりも大事なので。貴方たち冒険者だってそうでしょう?」


ハルド「そうだな…わかった。気をつけろよ。」


店長「はい。いつか、お客さんとして来てくれたら嬉しいです。」


ジュンタ「ええ、是非。」


仕事を終えた2人は店長と別れ、ギルドに臨時バイトの報告をした。


定食屋『エブリシャス』の営業終了後、すっかり暗くなり、片付けを終えた店舗の前に、何者かがやって来た。


暴漢1「昼間はアイツらがいて上手くいかなかったが、今がチャンスだ!この依頼をこなして報酬はたんまりもらうと…」


ジュンタ「やっぱりね。」


暴漢1「!?」


突然、何故か1人の男の背後にジュンタが現れた。


ジュンタ「潰したいと思ってる割には、やけにあっさり引くと思ったよ。」


暴漢1「ちっ!…だが、昼の件でてめぇを警戒しといて正解だったぜ。」


男は手笛を吹き、増援を呼ぼうとした。…がしかし、いつまで経っても仲間が来ることは無かった。


暴漢1「は!?な、なんで誰も来ねぇんだよ!」


ジュンタ「俺さっき、3人の人に会ったんだ。君と同じく棒切れを持ってたよ。」


暴漢1「なっ!?てめぇがやったのか…」


ジュンタ「だってしょうがないじゃん。いきなり来るんだもん。」


暴漢1「クソッ!」


男はやけになって、ジュンタに襲いかかる。しかし、あっさり《体落としたいおとし》で背中を地面に叩きつけられる。


体落としたいおとし

→柔道の技相手を前方に崩し、体を左に開き、右足を相手の右足前に踏み出し、引き落として投げる。


ジュンタ「《背負い投げせおいなげ》じゃないだけ有難く思え。」


背負い投げせおいなげ

→相手を前方に崩し、右肘を相手の右わきに入れ、右肩越しに背負って投げる。


投げた男にジュンタが選択肢を与える。


ジュンタ「選べ。今すぐ消えるか、ギルドに通報するか。」


暴漢1「チクショウ!覚えてやがれ!」


そう言って男は体を起こして全速力で逃げた。


ジュンタ「ありきたりな捨て台詞だな。」


こうして、ジュンタとハルドは臨時バイトを終え、その後のトラブルもジュンタが未然に防いだ事により、店も無事で一日を終える事ができた。初めての町内のクエストは成功に終わり、ジュンタは帰宅し、眠りにつく。


To be continued

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