罪と罰/2(にぶんのつみとばつ)
秋犬
『兄弟』
日が沈む橋の下で、僕は兄ちゃんを待ちながら今日の稼ぎを眺めていた。ようやく2人分のパンが買えるかどうか。兄ちゃんの稼ぎがどのくらいかわからないけど、つくづく自分がダメな奴だって思ってしまう。
ぼんやり流れていく川を見ていると、兄ちゃんが走ってきた。
「見ろよニコ、大量だぜ」
兄ちゃんは靴磨きの箱と一緒に金のぎっしり入った財布を持っていた。僕は目を丸くする。
「すげえ、どこにあったの!?」
「レイブンウッド通りに落ちてた。多分これは宝石ババアのモンだ」
僕はこの辺りでは有名な宝石ババアの顔を思い浮かべる。家族に先立たれてからいかれちまってるって噂で、貧乏のくせに宝石を買い漁ってるかわいそうなババアだ。
「あいつ金本当に持ってたんだなあ」
兄ちゃんは金を抜き取ると、財布を川に投げ捨てる。
「でも兄ちゃん、泥棒にならない?」
「何言ってんだ、見つけた人が持ち主さ」
それもそうか。これだけあれば、腹一杯しばらく食べられそうだ。兄ちゃんはやっぱりすごいや。
***
僕と兄ちゃんがこの街に流れ着いて半年くらいが経っていた。売春婦の母さんが言ってたことには、兄ちゃんと僕の父親は違う人らしい。でもそんなの関係ない。兄ちゃんは兄ちゃんだ。僕は4つ年上の兄ちゃんのことが好きだった。
僕が8歳のとき、母さんが病気で死んで行き場所のない僕らは孤児院に送られた。でもそこは満員で、僕らはひどく惨めな思いをした。食事が毎食出ないのは当たり前だし、寝る場所もなくて僕らは用具室の隅に追いやられていた。おまけに朝から晩まで掃除や洗濯でこき使われて、おまけに院長の内職まで手伝わされた。逆らうと鞭でぶたれるか少ない食事が抜かれるので、みんな怯えていた。そんな中でも兄ちゃんはいつも僕を庇って、食事をもらったりいじめっ子から守ってくれたりした。
孤児院に押し込まれてから1年くらい経ったある日、僕が寝ているとき兄ちゃんが急に「ここから逃げよう」と言ってくれた。それからすぐに僕らは着の身着のまま孤児院を抜け出した。元から財産なんて持ってなかったから、すごく身軽だった。僕は兄ちゃんと一緒にいられれば何でもよかった。
恵んでもらったり盗んできたりで何とか生きてきた僕らは、辿り着いたこの街で古びた靴磨きの道具を手に入れた。それで兄ちゃんは朝から晩まで靴を磨いてお金を貯めていた。最初は僕も兄ちゃんと一緒にいたけど、僕も何かの役に立ちたくて兄ちゃんと別行動をすることにしていた。
『母が病気です。薬代の寄付をお願いします』
僕は兄ちゃんが頑張って字を書いた紙を首からぶら下げて、朝からいろんなところに立ったり座ったりしている。なるべく通行人を見ながら涙を浮かべるような顔をすると、たまにお金が貰える。靴磨きより収入は断然少なかったけれど、グズで頭も良くない僕が役に立つのはこのくらいだった。
『お前は何も心配するな。俺が守ってやるからな』
それが兄ちゃんの口癖だった。そして何もできない自分が無力で僕は大嫌いだった。
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