War Pretend ~白華学園銃撃譚~
巣瀬間
第1話 賽は投げられた
未来の戦争は変わった。
鉄の弾も火薬も使わない、星がもたらした新たなエネルギーが全てを作り上げる。
ただ変わらないのは戦いを始めるのは人だということ。それがどんな形であったとしても。
「まさかこんなことになるなんて……!」
「自陣側に回りこまれるなんて予想してないデス……!」
廃墟の中、私達四人──ううん、今は二人しか残っていない。
ほんの少しの油断か相手が上手だったかわからない。前衛の私達が奥へ誘い込まれると同時にすれ違うように左右から抜けて後衛の二人がやられたということ。
それでも交換するように相手を二体倒せた、数の上では同じ。まだわからない──!
「──っ! 砲撃来るよ!」
「マカセテクダサ~イ! シールドで受け止めマス!」
相手はAIに従って動く自動人形──
昨年度よりもバージョンアップしたみたいで流線形の無機質なボディで銃と腕が一体化したようなデザインに変更されている。それに以前より地上から少し浮いて滑るように動くのが滑らかになってる。
決められた命令で動く相手だけど、崩れた壁を盾にしながら器用に
セイラちゃんは全身を隠せる半透明のシールドを展開して豪雨のように激しい弾丸を受けながらジリジリと距離を詰めていく。シールドの耐久はまだ大丈夫、このまま右手に持っている
「セイラちゃんダメ!」
誘い込まれてる! 瓦礫の中に敵の姿が見えた! このまま進めば十字砲火の形!
助けに入ろうにも私の
「しまっ──」
シールドで止められるのは一面だけ、声を掛ける甲斐なく──
真横から迫る弾丸の雨あられが全身に直撃してしまって真っ白いスーツが黒く染まり、敗北の証が刻まれていく。それを横目に私はただ駆けるしかなかった──
「どうやら……ここまでのようデスネ……最後まで戦いたかったデス……」
「セイラちゃん!! そんな……折角残り二体まで行けたのに……でも!」
悔しいなんて気持ちは後回し! セイラちゃんの
この隙を突いて背後に回ることができた。陣形を整えられる前に……足に力を溜めて一気に放つ!
私の
「残り一体っ!!」
視界の端に写った最後の一体──射撃体勢が整ってる! まだ少し距離がある、後数歩足りない!
弾が射出される──直前にスライディング! 視界がスローモーションに感じられて弾が顔の上を通り抜けていく──ギリギリ回避に成功! そしてそのまますれ違い様に足を切断して、振り向くと同時に打ち抜く!
全身に穴と亀裂が出来上がって身体が崩れ落ちていく。これで──
「これで残り0、決まった……! ──勝ったよセイラちゃん……!」
「Oh……見ていましたよ……見事デシた……故郷のパパとママにユウカンに戦ったとお伝えくだサイ……」
「セイラちゃん……!」
目がゆっくりと閉じられて首を支える力が無くなる……セイラちゃん……もっと私が強かったらこんなことにはならなかったのに……悔しい……!
ビー! ビー! ビー!
「──はい。しゅ~りょ~──! ふぅ……毎度毎度飽きないわねアンタ達」
「いいじゃないデスか! ただやられるのも味気ないデスし! これもバトルの彩りというヤツデスヨ!」
「ご、ごめんなさい──もっと上手く狙えたらダウンしなかったのに」
「やられた私が言うのもアレだけど、向日葵のせいじゃないでしょ。盾持ちなのに前に出過ぎて囲まれちゃってるんだから」
「いやぁ~イけると思ったんデスがねぇ~最近のAIはレベルが高いデス」
あっけらかんと笑顔で言うセイラちゃん。
今年でワープリも三年目に突入で実力もメキメキと上がってくれてる期待株! それにこの笑顔と天真爛漫さに何度も助けてもらった。新年度でも変わらずいつも明るく部のムードメーカーでいてくれそう。
「春休み期間で色々ダウンロードしてみたけど、今回のはちょうど良かったんじゃない? 次はもう少し強いのを試してみようかしら?」
賢くていつも冷静で頼りになる幼馴染の
去年も頭を使うことで困ったことがあったらいつも助けてもらっちゃったから。今年もクラスが一緒になったから遠慮なく頼っちゃうつもり。今日も今日とてワープリの設定をしてもらって助かる!
「は、はい。それでいいと思います……」
私より背はは大きいけど年下で引っ込み思案の
力持ちで重い
今年で中等部二年、去年と比べると落ち着いた様子も増えてきたし今年は期待できるかも!
「何としてもレベルアップして今年こそ
そして私、ワープリ部部長の
「大言壮語に終わらないといいけどね、まずは部員を集めないと話は始まらないわよ。忘れてないと思うけど公式戦参加人数は五人、最低でも後一人見つけないと人数不利でまず勝てないわ」
「うぐ……!? まだ時間はあるから何とかできるって! きっと興味がある子はいるはずだよ! きっと隠れているだけだよ!」
「イエ~ス! やれば楽しいことがわかるのデス! 勧誘しまくるのが一番デ~ス!」
そう、ワープリは楽しい! 銃を使って撃ち合う乱暴なイメージがあるけど剣もあるしただ撃ち合うだけのゲームじゃない、陣形や戦略も凄く重要でルールもちゃんと出来上がってるスポーツだし、ケガの心配は他のスポーツと比べても低い。
何より白華のスーツは白いジャケットとパンツでシンプルだけどカッコいいデザインだから気分も上がる!
そして、白華はワープリ名門と呼ばれていた学校。設備は立派! 初心者が入りやすい土壌が出来上がってるやれば夢中になれるぐらい楽しい──
のに、どうしてか新入部員が入らない。
でも、くよくよなんてしてられない!
「それにに私の動きも大分上手くなってきたと思うんだけどどうかな? この調子なら白華の閃光って呼ばれるのもそう遠くないんじゃないかな!? この動きを見て入りたくならないかな?」
「実力にしても誰かを魅了するにしてもまだまだ遠いでしょ。本当に好きよね」
「そうだよ! 私がワープリを始めるきっかけになった凄い
「はいはい、何度も聞いてるわ」
何度話したっていいぐらい白華のワープリ最強伝説は凄い!
それはもう本当にお祭り騒ぎになるぐらいで駅前通りにも暖簾や横断幕が掲げられるぐらいの黄金時代! 全盛期は全国大会で三年連続で優勝するぐらいの強さを誇ってて、その立役者とも言われるのが白華の閃光って二つ名が付く位凄い大先輩。
私の
呼吸をするのを忘れるぐらい夢中になったなぁ……今でもその人が出ていた大会動画は見ている。総再生回数も100万は超えてるぐらい皆が認めてるんだよなぁ。
「蘭香、確か今日先生に呼ばれてるんじゃなかった?」
「あっ、そうだった! 急いで行ってくる! 今日はもう解散でいいから!」
「あたしはここで待っとくわ」
「ありがと!」
思い出に浸り過ぎてた!
時計は四時五十分、五時頃に来るように言ってたから……急いで着替えて向かわないと!
「何の要件なんでしょう?」
「顧問の先生が産休に入るから代わりの人を用意するとかじゃないの?」
「Oh! もうそんな時期デスか! メデタイデスね~でも少し寂しくなりマスね」
「でも……新入部員が入りませんでしたから……それについて何か言われるかもしれませんね」
「確かに……そっちの可能性もゼロじゃないわ。結局今日誰も入部届けを持ってくる子はおろか見学に来た子もいないしね……なにより、あの先生コーチ的なこと何もしてなかったからワープリに愛着なかったから最悪後任を探してないまであるかもむしろそっちの方が高い気さえする」
「さっきと言ってること真逆デスね……けど、ワタシとしてもその可能性高そうデス。今日まで一切何にも言いませんでしたから不安デス」
ドア越しでも皆の不安そうな声が聞こえてくる。聞けば聞くほど何だかこっちも不安になってきた。否定できない私もいるんだから尚更そう思っちゃう。
今はもう全盛期の欠片すら残っていない、白華のワープリ部と近隣の人に聞いても良いイメージを想わせる言葉は出てこないと思う。
緊張を振り払えないまま職員室に向かったらここでまさかの予想外に襲われてしまった。顧問の先生がいる席に近づいたらその隣に座っていた先生に場所の変更を教えてもらうことになって、そこは思わず耳を疑う場所だった。
でも、どうしてここに呼ばれることになったんだろう? 中等部の頃から入ることはなかったこの部屋に──。
『学園長室』
仰々しい黒塗りのプレートに白い文字が特別な場所だと示しているみたい。部活動のこれからについて話すだけなら職員室だけ済むかと思ったのに学園長室に移動することになるなんて……断ることなんて当然できないから行くしかないけど、ノックしてドアを開けるだけでも凄い緊張する。
──そんな訳でコンコンコン──っとノックは丁寧に三回。
「失礼します」
ゆっくりとドアを開けて一礼。学園長室に満ちている重い空気が肌を撫でてきてそれだけで身体がちょっと震えて寒気が出てくる。ドア一枚隔てただけで別世界に来たかと思うぐらい緊張してきた。
年季の入ったご立派な机に椅子、その背後の棚には白くて花の模様があしらわれた鞘に収まっている刀が飾られている。
椅子に座っていた学園長が立ち上がり、ソファーの前に立つ。いつもは檀上の上で遠くから見る機会しかなかったのにこんなに近くで顔を合わせることになるなんて……スーツ姿がバッチリと決まっていて胸元の花のコサージュが似合っている美人な人だけど目つきが凄く鋭い。見つめられたらまるで刃みたいに身体の中に入ってくるみたいで恐怖が内側から広がってくる……。
「おかけになってください」
「は、はい! 失礼します」
ギクシャクしているけど何とか先に座っている身重の撫子先生の隣に座る──わ、すごい柔らかい……! こんなソファー初めて座る──っていけないいけない! 気が抜けちゃうところだった。
どう考えてもこの状況はおかしい。何か嫌な予感が──
「時間が勿体ないので早速本題に入りましょう。今月をもってワープリ部を廃部することに決定しました──」
「…………? ──廃部!? 今廃部って言いました!?」
いきなりすぎて心臓が口から飛び出るかと思った! これは本当のことなの? 聞き間違いだと願いたいぐらい身体と心がこの情報を拒否している。緊張しすぎて気絶して夢の中にいる方がまだ現実味がある唐突な言葉。
だけど、手の甲をつねるとちゃんと痛みがある。これは現実なんだ……だとしたら、だとしたら!? なんでこうなってるの!?
「蘭香さん、落ち着いて」
「お、落ち着けませんよ!? いきなりどうしてですか!? 納得できません! 説明を願います!!」
落ち着きたいけど落ち着けない! ワープリ部は私達の夢の場所、失っちゃいけない場所!
自分でも息が荒くなっているのがわかる。でも、学園長は凄く冷静で私を見つめている。この反応を完全に予想していたみたいに。
「焦らずとも一つ一つ説明致します。よろしいですか?」
慈悲なんて感じな氷のような言葉だ。
ゆっくりと呼吸を整えて話を聞けるようにする。学園長は聞ける心構えになるまで待ってくれた。
「……はい」
「よろしい。まずワープリ部はここ数年目立った結果を出せていません、公式大会でも一回戦負けも多く月光祭においても地区予選敗退。つまり、予算に見合う成果を挙げられていません」
「うぐ……! でも、私が言うのもおかしいですけど学生の部活動にそんな損得勘定が入るのはおかしいんじゃないですか!?」
「続き、単純に部員の人数がバトルの参加人数五人を下回ったからです。新入部員が入る人数も毎年一人か二人、加えて高等部から編入してくださった生徒が入部した話は聞いていません。ということは新入生及び外部入学者に白華のワープリ部に惹かれるモノが無くなったということです」
「うぐぐ……!?」
反論も無視されてるしこの言葉は何よりも重い──! 認めたくなかった、目を背けていた現実を指摘されると辛い……。
「そして、撫子先生の産休により顧問の不在。指導員もいないことから貴方達生徒だけの活動となります。しかし、UCIエネルギーを用いた競技ということもあり子供だけに任せるというのは過ぎた代物。これらによって廃部と判断致しました」
「で、でも急じゃないですか! それに白華はワープリ最高峰の学校でした! その栄光を閉じるということじゃありませんか?」
「残念ながら急ではありませんよ。前々から議題に上がっていました。眩すぎる栄光は同じように暗き悪意を生む、衰退を辿るきっかけはそこから生まれ、多くの者は輝きに群がっていただけで灯りが消えた瞬間に離れていきました。再び火が灯っても小さな火を成長させることはなく今日まで停滞──貴方達も現状維持で満足しているでしょうが白華の生徒として腐りに行くような真似は見過ごせません、他の事を始め己を磨き上げる方が有意義でしょう」
「そんなわけ──」
無いなんて言い切れない──胸の奥の感情を感情を覗かれた気がしてゾクリと寒気がする。
目指している理想と現実のギャップ。自分じゃどうにもできない壁、それに立ち向かっている自分に酔っていた気さえする。
八年前に起きたその問題は知ってる。でも──ワープリが好きで、憧れの選手がここの卒業生だと知って、必死に勉強して入学することを決めたその気持ちは本物で嘘じゃない。
先輩達もワープリが好きで過去の栄光を知っている人達ばっかりだった。皆理想を叶えられると思って努力をしていた──でも、足りなかった。
設備は立派だけど活かしきれてなかった。ネットで拾った良さそうな訓練を真似るしかしてなかった。撫子先生は顧問だけど全く詳しくなくてお地蔵さん。
先輩達の時からコーチの募集をしていたけど、あの時の事件が尾を引いているのか全員に断られた、話を聞いてくれる人がいてもお高い報酬を要求されて撫子先生に相談してみたけど許可は下りなかった。
「仕方ない」を飲み込んでただ練習することしかできなくて……でも……だからって──!
「ですが──納得なんてできないでしょう?」
「当然です……!」
私の言葉を先取りされたみたいだけど、とにかくまだ白華のワープリをできてない!
誰かに終わらされるのは絶対に納得できるわけがない! 握りこぶしは作れるぐらいに諦めたくない私もいる!
「なので、納得できる
「ほ、本当ですか!?」
余りにも冷静に淡々とチャンスをくれるからちょっと驚く。希望に見せた罠じゃないかと思うぐらお魅力的な提案。
有無を言わさずに廃部にしてくるかと思ったけど、そこまで横暴じゃないと考えていいのかな? デモでも何でも本気でぶつかり合う覚悟もできていたから少し安心した。
「事実です。そしてこれが最後のチャンス。お互いに納得いく結果になることを願っていますよ」
「後から反故にするようなのは無しですよ!」
「白華の学園長として生徒の規範になる者にその言葉は愚問ですよ」
「わかりました。失礼します──」
何だか手の平の上で踊らされている気もするけど、ゴールデンウイーク最終日の練習試合の結果次第でワープリ部の命運が決定する。
全部に納得できたわけじゃないけど、事実な部分もあるのも確かでこれ以上を求めることはできないのも確か。
とにかくまずは皆と相談しないと! 私一人じゃこんなのどうしようもない!
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