第73話 圧倒的格上

 翌朝、第1試会で男子バスケ部のウィンターカップ本戦2回戦目が行われた。 接戦の結果俺達は1点差でなんとか勝つことが出来た。

 相手センターだが早めに4ファールで萎縮させた他、柚木が怪我をするというアクシデントはありながらも退場させる事ができ逆転しての勝利だった。


 ジャンプボールを俺が競り勝ちキャプテンがまずフックシュートで先制した。 その返しに相手チームが速攻をかけて来たのだけど、相手センターが突っ込んで来たため俺が動かず倒れる事でファールを誘う事が出来た。 1回戦目の二番煎じだが研究してなかったのかそのまま通用してくれた。

 その後は相手が優勢で進み、ミドルレンジで俺とキャプテンがシュートをしてなんとか食いついていた。

 そんな時、連続で相手センターがゴール下の競り合い中に築地と望月をプッシングしたとしてファールを受けていた。 その後はフックショットに入るため切り込んだキャプテンを押してしまいファールをして第2クォーター終盤で4ファールとなっていた。

 その後は退場を恐れて守備に精細をかいた相手センターは、交代していた柚木と渡辺に高さで負けるようになった。 そのため俺や田宮に監督から外から打てと指示が飛んだ。

 俺と田宮には厳しいマークが続いていたので決定率は低かったけど、味方がリバウンドを拾ってくれていたので外れる事を恐れず打てた。

 第3クォーター中盤に守備が広がりキャプテンのフックショットが面白いように連続で入る時間帯があり、相手センターが守備の競り合い中に柚木を押し倒した。 審判がフエを吹き相手センターは退場となった。 柚木は倒れる前にセンターの肘が鼻に当たっていたらしく、大量に出血し大事を取って救護室に運ばれた。


 その後は中の圧力が減ったため格段に動きやすくなり、5点差を追いかけていた状況からなんとか追い付く事が出来た。

 その後は一進一退を繰り返しながら推移したけれど、疲労により一時交代してていた田宮がスリーポイントシュートを連続して決め、俺達攻撃の番で残り1分で3点差、有利な状況で最終盤となった。

 俺達の作戦は時間稼ぎだった。 仲間内でボールを回して時間ギリギリにシュートを打つ。 相手のシュートチャンスは1回だけなので普通のシュートでは逆転は不可能。

 しかし相手が執念のスティールから速攻を決めてを見せ、残り38秒で1点差に追い付いた。

 俺達また時間稼ぎをして、キャプテンがギリギリにフックシュートを打った、入れば確実に勝ちだったが残念ながら外れ、でも残り3秒で時計が止まっていて逆転はほぼ無理。

 相手の攻撃ではすぐに速攻をかけて苦し紛れのロングシュートを打ってきたけどそんなものが早々入る事はない、ボールはボードには当たったけれどゴールリングからは外れて床に落ち、俺達の勝利が決まった。


 柚木が鼻から出血して負傷退場という痛手はあったけど、とりあえずまだ試合は続けられる事になった。


---


 その後は次の俺達の対戦相手の試合を見てからホテルに戻った。


 柚木は倒れた時に後頭部をぶつけている可能性があるとの事で、監督が付き添いながら病院に向かった。


 次の対戦相手は優勝候補のインターハイ優勝校。 レギュラーの3年生も引退せずそのまま出場しているという盤石ぶりの陣容だった。

 その学校は全国からスポーツ特待生を積極的に取っていて、バスケットだけでなく野球やサッカーやバレーボールや卓球など様々なスポーツ選手を集めていた。

 テレビに出るような有名なスポーツ選手の多くが、この高校出身者だった。


 その高校の対戦相手より明らかに格上で、第2クォーターからベンチメンバーと入れ替わっていき、最後は全員ベンチメンバーという状態になってしまった。 それでも相手チームを圧倒していたので相当選手層が厚い学校という事が分かった。


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「笑っちゃうぐらい格上っすね」

「弱気は禁物だが同感だな」

「監督からのメモによると、立花と田宮のスリー以外は全部俺達より上らしい。 でもあの感じだとスリーも立花や田宮と遜色ない選手がいるな」


 第1クォーターに出ていた6番を付けたシューターがスポスポとスリーポイントシュートを決めていた。 体格は田宮より少し良い程度、けれどマークがついても高確率でシートを決めていた。

 監督が何を持って俺や田宮の方が上と判断したのか分からないぐらいすごいシューターだった。


「作戦どうします?」

「当たって砕けろ?」

「胸を借りるつもりで?」

「怪我に注意?」

「メリークリスマス?」

「彼女ほしい!」

「帰ったらジェーンちゃんに告白するんだ」

「また撃沈するのか?」

「懲りないな」


 段々話題はズレていき作戦どころじゃなくなった。 監督の作戦指示にもよるけれど、部員たちだけでは、いつものように全力で当たろうぐらいしか決められなかった。


---


 3回戦目から決勝まで1日1試合づつやって勝ち進む事になる。 またベスト16となる4回戦目からはサブ会場が使われなくなり全試合メイン会場で行われるようになる。

 翌朝からミーティングという訳にもいかないため、ホテルで昼食を食べた後に行われる事になった。


「作戦などない、胸を借りるつもりで試合しろ」


 相手の試合の映像を見たあと監督はそう言った。つまりそれぐらい差があるといっている訳だ。

 俺達が何も言えず黙っていると、監督はもう一言だけ俺達に言った。


「敗北を楽しめ!」

「「「はい!」」」


 監督が去ったあと、俺達はどう楽しむか話し合った。


「取り敢えず明日は全員出場させる、そこでパスを回すから自分のやり方で攻めてみくれ」

「自分のやり方?」

「キャプテンはどうするんだ?」

「誰か俺の代わりにポイントガードやらないか?」

「キャプテン元々スモールフォワードでしたもんね」


 3年生が引退するまでキャプテンはスモールフォワードだった。 キャプテンのフックシュートという武器を活かすなら、ポイントガードよりスモールフォワードの方が適している。


「実は立花の方がポイントガードは向いてると思ってるんだよ」

「俺?」

「あぁ、足が早くてボールキープ力があって隙があったら自らシュート出来るだろ、それにスタミナがあって視野が広い」

「ただの助っ人の俺にゲームメイクさせて良いのか?」

「明日は楽しむんだから良いんだよ」

「目茶苦茶になっても知らないぞ?」

「監督からお手上げ宣言食らってるんだし構わねぇよ」

「了解、でも俺は水泳部だし毎回は無理だからな?」

「知ってるよ」


 という訳で、俺が明日の試合のポイントガードをする事が決まった。

 俺が今までやっていたシューティングガードを田宮に譲り、田宮がしていたスモールフォワードにキャプテンにして貰う感じだ。


「明日はゴール下からのシュートを捨ててみないか?」

「どういう事だ?」

「あの感じだと簡単にゴール下を譲って貰えないだろ?」

「だな・・・」

「だからロングとミドルの位置からシュートを打っていくようにして相手の守備をバラけさせてみるんだよ、俺はフリーになってる奴にパスを回していく、受け取ったらすぐシュートって感じだ」

「レイアップに比べてシュートの成功率は低くなるぞ?」

「だから誰かがシュート打ったらすぐ自陣に戻って守備するんだよ、相手も俺達のゴール下に入れにくくするんだ」

「なるほど」

「相手の6番のマークは俺が着くよ、あれは俺と相性が良い」

「あぁ、お前に前に張り付かれたらスリーなんて打てないだろうな」

「守備に入った時の指揮は今まで通りキャプテンにお願いする」

「攻守で指揮を分けるのか・・・どうせお試しだしやってみるかっ!」


 そんな感じで明日の作戦が決まった。 駄目元のぶっつけ本番だが、大差で負ける前提だし良いだろう。

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