第13話
秋の夕暮れだというのに、家には鍵がかかってなく、部屋中の電気もついていなかった。あれからずっと電気がついていなかったのだろうか? リビングでは、妻が椅子に腰を掛けていた。おういっと声をかけたが、まったく反応がない。キッチンには洗い残された食器が何枚か積まれていた。たぶん、料理は作っているのだろう。僕はおそるおそる二階の子供部屋に向かった。チビの息子は床に座っていて、ぼそぼそと人形と遊んでいた。例のロボットは部屋の端っこのほうに横たわっていた。長女は勉強机で静かに本を読んでいた。よかった、みな生きていた。
僕はリュックのなかから水色の玉をえらび、長女の口に放り込むと、すっぽりと入った。息子には青色を、妻には赤色を放り込んだ。いずれもすっぽり入った。しばらく、家のなかを散策した。おそらく掃除はしているのだろう、床にほこりひとつなかった。トイレも綺麗で、整理された靴が玄関に並べられていた。布団からは太陽の匂いがした。僕の寝室も綺麗に整理整頓され、僕が喰われた形跡は全くなかった。僕はターコイズ色の玉をじいーっとくわえていた。
しばらくして、三人の口を確認すると、どうやら玉は半透明になっていた。しかし、みんな、以前の活力に戻っていない。話しかけてもちゃんとした返事はなく、うううう・・・とか、ああああ・・・といううめき声がでるくらい。何かを話そうとしていることはわかる。思考が完全に戻ったのであれば、会話できるだろうに。目を見ても、視線が合わない。僕を見ていない。僕のずうっとうしろをみている感じがした。
妻とはよくケンカをした。家事の分担から、子供の勉強方針。僕の小遣いのことや、酒癖。その他、つまらないことでもすぐケンカになった。でもいつも、しばらくすれば、何もなかったかのようにカラッと仲直りしていた。でも今回は、いままで味わったことのない距離感だ。全く噛み合わない。妻とも、子供たちとも。
ツナギに電話をし、玉を使ったが家族が元に戻らないと伝えた。さよか、戻ってくるんか? とツナギはいい、「どうしたらいいかわからない」と僕がいうと、「わかるで」とツナギは返した。もう他に方法がなかった。
バイクをとばしてアジトに戻ると、ヒドイ顔やな、とツナギが抱きしめてくれた。俺もそうなんや。家族全員、可能性に喰われたんや。やから、おれはココの仲間になって可能性に仕返しがしたかった。いまは、蒸気機関車を工場にぶち込んでやりたい。俺と一緒にやらへんか?
わかった。やろう。
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