第51話 顔が赤いのはドレスのせい?③
「エメリーの顔が赤く見えるのは、ドレスが赤いせいだろうか……」
「そうよ。赤色が顔に反射しているからでしょう。でも、せっかくドレスコードの赤を着て来たのに、少しも意味が分からないまま終わってしまったわね」
「また同じ舞台に行こうか?」
「ふふっ、そうね。次こそはちゃんと観ましょう。でも……、今日はいいものを見られたから、来て良かったわ」
「寝ていただけなのに?」
「うん。最初はちゃんと起きていたもの」
レオナールの寝顔を見て、何とも言えない幸福感を抱いたとは、恥ずかしくて伝えられない。
だけど、彼が私の横で安心しきった姿を見せていたことに、嘘や偽りはないはずだ。
そうなればきっと、今のレオナールが本当の姿なんだと思う。
私の記憶が戻ったと知っても、彼の態度はきっと変わらないはずだ。
それに、心配してくれる両親に、このまま嘘をつき続けるのは、そろそろ限界を感じるし、頭に花の咲いた両親ではあるけれど、そろそろ記憶が戻ったと伝えてあげたい。
そんな風に考えていると、次の顔合わせについて、彼が提案してきた。
「次は、俺の屋敷に来ないか?」
「ラングラン公爵家の屋敷へ?」
「以前伝えただろう。俺には妹がいるんだが、その妹がエメリーに会いたがっているんだ」
「そうなの?」
妹のアリアは、私とレオナールの婚約が偽装であると勘ぐっていたはずだけど、どうしてかしらと首を傾げる。
「実は、エメリーの両親が一度我が家に来て、事故のせいで記憶がないことを、うちの両親に報告していたんだ」
「全然知らなかったわ」
「エメリーの記憶喪失のことを、俺は全く気にしないと伝えていたんだが、後から俺の両親が結婚に反対するのではないかと、心配したみたいだ。もちろん、俺の家族もそんなことは気にしていないけどね」
「それでどうして、妹の……」
口ごもる私は、妹の名前について、分からないふりをした。
「アリアだ。エメリーに過去の記憶がないなら、いろいろ不便だろうと、アリアが心配しているみたいなんだ」
婚約発表のパーティーで、レオナールがいないタイミングを見計らい、文句をつけに来たアリアが、そんな発想に至るだろうか?
彼女に限って私を心配するはずはないだろうと感じたが、それを言うわけにもいかない。
過去の記憶がない以上、今の私はアリアの顔さえ知らない設定で、このまま話を貫かなくてはならない。
そうだとしても、私の記憶は、ラングラン公爵家の屋敷を見たタイミングで蘇る計画だし、アリアに会うときには、かつての自分に戻ってよいのだから問題はない。
この計画で「ボロはでないな」と考え、にっこりと笑う。
「そんなことを言ってくれるなんて嬉しいわ。私もアリア様にお会いしたいから、ぜひうかがうわ」
「それでは一週間後、エメリーの家まで迎えに行くから」
「レオナールの屋敷へ行くなんて、緊張するわね」
「なんの心配もいらないさ。アリアは優しいし、エメリーの横には、ずっと俺もいるんだから、普段どおりで構わないから」
穏やかに微笑む彼が言うものだから、胸がきゅんとする。
そんな自分に動揺してしまい、彼から顔を背け馬車の窓を見ると、ガラスに映る私の顔が赤い。
やだ。私ってばずっとこんな顔をしていたのかしら。
まるで彼を意識していると思われるじゃない。
そう思うとますます恥ずかしくなって、そのまま横を向き続け、屋敷へと戻った。
◇◇◇
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