2.オカ・ロウという男
村に辿りついたオカ・ロウは大きく深呼吸をして、周りに広がる大自然に目を向けた。
360度見渡しても視界には緑豊かな山々が広がっており、時折吹く強風でゴウゴウと木が揺れていた。
「いいところだな。数日は滞在したい村だ。19人の住民がいる小さな村、いいねぇ。自然豊かだし、移住でもしようかな……とは言っても、少しばかし不便だな」
首都、都市、町、村から遠く離れた山間部に位置するゲッツ村の人口は20人。建物の数は少なく、公共機関は存在しない。一番近い村へも徒歩で数日は有するにも関わらず、馬車も存在しない。
地図にも存在しない小さな集落、ゲッツ村、そこがオカが現在いる場所だった。
「うーん。まあ、少し腹減ったから、飯食ってから……いや、飯はこの村ではやめとくか。うーん、それにしてもいい天気だ」
大きく伸びをしたオカは、舗装されていない道を歩き始める。
都会や街などでは、コンクリート製の道が採用されているが、ゲッツ村は未だに土の道を使用している。だが、この土を踏む感触がオカは好きだった。
「旅の方かな?」
しばらく自然を眺めながら歩いていると、声を掛けられた。声の主は道の横にある畑を耕していたご老人だった。麦わら帽子に白シャツ、首にタオルを巻いたいで立ちをしている。
「いえ、人狼キラーのオカ・ロウと申します。村長さんから依頼を受けてきました」
オカは練習した営業スマイルを浮かべ頭を下げる。
「そうかそうか。あんたがリーガッドの言ってた人狼キラーか。そうかそうか。儂はミダと言う者だ。そうかそうか、あんたが」
ミダと名乗った老人は額に浮かんだ汗を拭いながら、何度も頷く。オカは笑みを崩さぬまま村長の家の場所を尋ねた。
「ああ、村長の家ならこの道を真っすぐ進むと見える二階建ての家だ」
ミダはそう言ってオカの遥か前方を指さした。
オカは目を凝らし、ミダが指し示す方角を見た。しかし、二階建て住宅など見えない。村長宅まで、まだかなりの距離があるということだろう。
「それじゃあ私はこれで」
「ちょっと待ってくれ」
オカは村長宅に向かって歩き出そうとしたが、ミダに呼び止められ、足を止めた。
「どうしました?」
そう尋ねると、ミダが顔を耳元に近づけてくる。
「今回の犠牲者のタキちゃんとは昔馴染みでな。あんな殺し方をした人狼を絶対に許せねぇんだ。絶望を与えてから殺してくれ」
「絶望を……ですか?」
「ああ。俺たちの村は人口が少ない。20人しかいないんだ。だからだろうな。全員が家族のような絆でつながってる……19人の思いは一緒だ。タキちゃんの仇をとる。それが村の総意だ」
ミダはそう言って力強くオカの手を握った。
「任せてください。村人達を食い殺した人狼は私が必ず仕留めてみせます」
ミダの手を握り返してそう答えた。だが、オカの予想に反して、ミダは何かに気づいたように顔色が悪くなっていく。それを見たオカは自分の失態に気づいた。
こういうところがまだまだだな俺は……。
苛立ったように頭を掻き毟ったオカだったが、すぐに先ほどと同じ笑みを浮かべてミダを見た。
ミダは怯えた顔で鍬を構えている。
「まあ、任せてください。俺が必ず、人狼を退治してみせますよ」
怯えるミダに、オカは大きく口を開けて笑った。
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