第二十九話 成敗蜂?

監視を続けていると、意外にダンジョン内盗賊って多い。

一日中監視している訳にいかないので、どうしても犠牲者が出てしまう。

毎回襲撃されたパーティーを連れてギルドに報告って、なにか不自然で怪しまれるよね?

それに毎回殺すってのはどうしても心にくるんだ。

ガザ侯爵の手先には心が痛まない。だって、僕の大好きな人達を殺しまくったんだよ。

ああ、僕も心に闇を抱えている……


何か良い方法はないかな。

それで大蜂をチュートリアルで詳しく調べてみた。

毒針LV5以上は毒の強さを自在に調節できるらしい。

だったら死なない程度に毒を打ち込めるんじゃないか?

そうしたら僕達が相手をしなくても、襲撃されたパーティーがギルドに届ければ良い。

死んでないならダンジョンにも取り込まれない。


問題は監視をどうするかだ。

大蜂は知性150以上なら状況を判断して行動に移せる、というのを見つけた。

じゃあ、知性を上げた大蜂を監視、兼攻撃に使えるんじゃ?

さらに知性200以上なら連携能力が格段に上がるという。


瓢箪から駒だ。大蜂って使えるじゃないか!

早速今の大蜂達の知性の値を250にした。

大蜂達はその群れの一匹をクイーンにしてその指示に従うんだという。

僕は一匹を知性300にして、彼女をクイーンにするよう指示した。

あ、実はモンスターに性別はない。

クイーンは別に卵を産むわけじゃない。ただ他の個体への絶対的な支配力を持つだけだ。

何で彼女と思ったのかな?


でも便利だ。彼女にどういう事をしたい、と伝えると他の大蜂達にすぐ伝える。ちゃんと細部の行動も踏まえて。すごい有能な副官という感じがする。

しかも念話が通じる。


賊は割と浅い階層にしか出没しない。実力があれば深い階層の採取で稼げる。

それができない。だから格下のパーティーを襲うんだ。

大蜂たちは十階層までに配置した。

始めに襲撃した方を賊と判断し、無力化する。そんなルールで良いか。


効果はすぐ出始めた。

狙い通り、最初の襲撃者を無力化すると、襲われたパーティーはギルドに届け出る。

ギルドの調査隊が倒れている賊達を回収。何らかの処罰を下す。

僕とカティはすぐ監視の手を緩めた。

ずっと監視しているのは疲れるからね。


蜂と言えば蜂蜜。

そしてこの大蜂達は皇花蜂と言われ、極上の蜂蜜を集めるんだそうな。

早速クイーンに頼んで蜂蜜を分けて貰った。もちろん、こころよく。

全員で試食会。もう感動の嵐だった。特に女性陣。顔とろとろ。

この世界、砂糖は貴族階級くらいしか出回っていない。蜂蜜も高級品だ。

日常の甘味というと果物くらい。


しかしこの蜂蜜、ただ舐めるだけじゃ能がない。

ケーキとかホットケーキにたっぷりかけて食べたいな。

う~ん、できるかな。小麦粉はあるけど。牛乳、バター、卵、重曹が手に入らない。

重曹の代わりにパンに使ってる天然酵母が利用できないか。

絶対必要なのは卵だ。よし、鳥を手に入れよう。


ファミリアの伝で、外国から卵を産む鳥が手に入ると分かった。水鳥だそうだ。

何でも良い。卵さえ産んでくれれば。

一ヶ月以上掛かるそうだが注文した。

到着まで蜂蜜は舐め舐め生活だな。


しばらくして、また襲撃事件があった。

当然、蜂たちの働きで無力化。ギルドが回収する。

一回目は偶然だと思われた。

しかし、二回目も蜂たちが襲撃者だけを襲ったとなると、ただの偶然ではない。

本当に蜂が襲撃者と判断しているのか、と議論になった。

ダンジョンのモンスターに知性がある?だとすると前代未聞だ。


これが三回も続くと、本当に蜂が襲撃者と判断している、と認めざるを得なかった。

大体、十四階層以外に蜂のモンスターは確認されていない。

しかも十四階層の皇花蜂とは違う種らしく、体が小さい。そしてもの凄く早い。

ただ毒性が弱く、致命傷にはならないと判断された。

おそらく、ごく最近発生した新種だろうという結論になった。


オルトのお客さんが来た時、その話が出た。商業系ファミリアの人だ。

「盗賊団しか狙わない蜂がダンジョンに出たそうですね」

「もうその話が出回ってますか」

「ええ、有名な話で。名前も付いたそうです。“成敗蜂”と言うそうで」

思わず吹き出してしまった。なんだ、その名前。


「不思議な事もあるものですね」

「もしかして、冒険者の誰かに助けられて、その恩返しをしてるんじゃないかと」

「蜂の恩返しですか。だとしたら良い話ですねえ」

おーい。違うぞ。オルトもとぼけ上手になったもんだ。

しかし悪い流れじゃないな。これで僕と蜂たちを結びつけて考える者は居ないだろう。


――おーい、クイーン。お前達“成敗蜂”って呼ばれてるらしいぞ。くっくっく。

――笑わないで下さいな。元はと言えばマスターのご命令じゃないですか。

その後も“成敗蜂”の活躍は続く。うぷっ。


そうこうするうち、卵を産む水鳥がやってきた。

早速、ブートキャンプの沼周りに柵を立て、その中で飼う。

スライムは消去した。

沼は広げて、水鳥たちが十分食べられる魚が生息できるようにする。

卵はでかい。鶏の卵の二倍以上ある。


早速、ホットケーキの製作に掛かる。

メレンゲ作るのに四苦八苦。【スワール】の魔法を覚えて何とかこなす。

さて、蜂蜜の分量が分からん。色々変えて焼いてみた。

発酵の時間と量も手探り。パンとは違うしっとり感が欲しい。

何度か試作を繰り返すうち、ダインの方がうまくなってきた。

料理スキルが育ってきてる。これで十歳だから末恐ろしい。


前世の記憶に近いホットケーキ。上からたっぷり蜂蜜をかける。

これだこれ。バターが無いのがちょっと残念だけど、許せる範囲。

「ん~~ん~~」一口食べて、ミルカが足をばたばたさせる。

他の皆は口に頬張ったまま、目を見開いて固まっている。

あれ?お気に召さない?


「こんなのは初めてよ。なんて美味しいの」そう言いながらアリーシェはぱくつく。

「貴族になった気がする。贅沢だなあ」オルトがため息。

他の皆はひたすら食べ続けている。まあ、気に入ってもらったようで。

皇花蜂の蜜だぞ。旨くないはずは無い。

ダインとぱんっとハイタッチ。


「これ、メニューに加えよう。ただし昼食と夕食の間だけだ」オルトが言い出した。

「あー、その時間って客足がまばらになってるわよね。良いかも」とアリーシェ。

「えー、僕保つかなあ。今でも一杯一杯だよ」ダイン泣きっ面。

まあ、十歳児を働かせているからね。前世なら事案だ。


「人は増やすよ。グレンデル・ファミリアから調理人の訓練の話があってね。ここの厨房で教える事になった。ダインは指示するだけで良い」

「えー、皆大人でしょ」ダイン、びびる。

「ふふ、ダインの凄さが分からない奴は調理人失格よ。私がたたき出す」

アリーシェの鼻息が荒い。


そういう事になった。なってしまった。

そしてアースブリーズのホットケーキはアンザックを席巻する。


何ヶ月かすると、ダンジョン盗賊団はいなくなってしまった。

アンザックの“成敗蜂”に恐れをなしたらしい。

その話、どうやら世界中に広まったみたいで。


まあ、良い事なんじゃないの?

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