第二十五話 ファミリアお披露目会

そして、アルシオの奴、最後に爆弾落とした。

「三ヶ月後にファミリアのお披露目会があるんだ。君たちには出て貰わなきゃならん」

いや、待て待て待て!僕達はついこないだまで浮浪児だったんだぞ。

一応アリーシェには色々教えて貰っている。でも礼儀作法なんてまだまだだし、どんな失礼をかますかもしれない。


「一応、後ろ盾の私から君たちを紹介する。まあ、心配するな。明日から教師を派遣するから、みっちり勉強してくれ」

そう言ってアルシオは帰ってしまった。


それから怒濤の日々が始まった。

翌日朝早く中年紳士淑女二人が訪れた。

アリーシャの勉強時間をお二人の授業時間に充てたが足りない。

食堂閉店後も、寝る前までお勉強と言うか、特訓というか、厳しいお教えが続いた。

歩き方から表情の作り方、カトラリーの使い方、エトセトラエトセトラ……

夜の特訓は年少組が船をこぎ出すまで続いた。


服を九人分、新調した。古着じゃ無く、あつらえだよ。この世界、既製服は無い。

一着金貨五枚もした。たっかー!前世換算で五十万円だぞ。

金貨四十五枚が飛んでった。

でも、フォーマルな集まりではそれがマナーなんだそうだ。

ファミリアって、そんなに稼いでるの?


店は順調に売り上げが続いている。

テーブル席とカウンター席は昼と夕方に客が集中し、どうしても回転が悪く、期待した程じゃなかった。健闘しているのが串焼き。

ほぼ一日、均等に売れている。串焼き半分、店内半分で屋台の売り上げを上回った。

僕とターニャは効率的な狩りに努めた。ターニャはソロでやりたがったが、夜の特訓に遅れるわけにはいかないからさ。



とにかく超忙しい毎日が続き、三ヶ月はあっという間に過ぎていく。

アルシオもたまに店をのぞきに来るが、ちょっかいを出す事も無く帰って行った。

さすがに浮浪児達は来なくなった。大きな襲撃も無い。

こそ泥が三回ほど来て反対側に放り出され、首を傾げて帰って行った。

皆でディスプレーを見て大笑い。

新拠点、大成功だ。


新調の服が届いた時、女性陣から黄色い叫び声が上がった。うるせーな。

包みを開け、隅々まで改めたり、服を胸に当てたり、興奮で顔が真っ赤だ。

うーん、そこまで嬉しいもんか。

ま、ちょっと前まではオンボロ貫頭衣、その後も安物の古着だったからな。


さて当日。

アルシオの館に行くと、控え室に案内された。

女性陣は嬌声を上げて着替えに走る。何だ、このテンションは。

教師を務めてくれた紳士が苦笑い。

「まあ、もう少しちょうきょ……ごほん、躾ければ淑やかになるでしょう」

今、調教と言おうとしたな?


男性陣は大人しく着替え。何となく落ち着かない。

服に着られてる感、半端ない。

控え室で女性陣を待つ。女性の着替えは長いと前世から決まっている。


一人の女性がドアを開けて、あたりを見回しながらそっと出てきた。

ハーフアップにした栗色の髪から覗くうなじが美しい。

スレンダーだけどはっきり主張している胸。整った顔立ち。白いドレスが清楚感を際立たせる。

誰だ、これは?

「あ、あんまり見ないでよ。面映ゆい」ターニャか!化けた。


「こんなの着ると上がるわね。ふふ、久しぶり」

次に現れたのはアリーシェ。これはすぐ分かった。

ターニャとひとつ違いのくせに妖艶な魅力を振りまく。

オレンジのドレスに大きく開いたデコルテ。覗く谷間。

目線をどこにやって良いか分からない。眼福だけど。


ミルカがカティの手を引いて出てきた。

そうか、擬態を解いて化粧をしてきたな。前に見たから分かる。

ミルカは大きなリボンを背中に結んだ薄青色のドレス。

胸のフリルに大きく膨らんだスカート。可愛らしさを極限まで強調している。

カティはピンクのドレス。揺れるドレープ。色をまとめたのか。良い。

淡いピンクの髪とマッチして、白い肌を際立たせている。人形のような美少女。


最後にヤンニシャリラ。息を飲んだ。

ゆったりしたギリシャ風の淡い緑のドレス。まるで小さな女神が現れたようだ。

ちょっとはにかんだような微笑が現実に戻してくれる。

……これはやばい!


「カティ、擬態を解いたのか?」ちょっと語気がきつくなる。

「うん。皆がそうしたいって……」カティがモジモジして下を向く。

「だからと言って――」

「あのね、アッシュ。あなた女の子の事知らなさすぎ。誰でも美しく可愛くなりたいのよ」

アリーシャに指を突きつけられた。

「わたしもこれが良い!アッシュの唐変木!」ミルカになじられた。

どこでそんな台詞覚えたんだ?


「あー、アッシュ、警戒しすぎだ。これから会うファミリアの連中は敵じゃないだろ?」

ターニャにたしなめられた。

「わたしもこの姿でいたい。駄目ですか?」と、ヤンニシャリラに縋られる。

「カティもそうか」

「うん。アッシュに綺麗って思われたい」

思ってるよ!だから心配なのに。


結局、押し切られた。

男性陣にまで唐変木のヘタレの言われた。裏切り者め。

結局、僕だけが擬態のまま、他の皆の擬態を解いた。


会場は広い庭園で、いわゆる園遊会形式。

僕達がそこへ出ると、既に百人ほどが集まっていた。

料理や飲み物が美しく配置されたテーブル。きらびやかな衣装を纏った人達の談笑。

静かに流れる音楽。あちこちに配置される花々。ゆったりと流れる穏やかな時間。

足を踏み入れた途端、初めて見る光景に僕達は息を飲んだ。


これはどんな楽園なのか。アンザックで本当にあり得る光景なのか。

一体、僕達はどんな世界に入り込んだのか。

そして、ぴたりと音が止まった。視線が僕達に集まる。

一斉に息を飲む音が会場を満たした。


アルシオが会場端の壇上に立ち声を上げた。

「さあ、新しいファミリアをご紹介します。この美しい少年少女たちだけで結成されたアースブリーズファミリア!年齢は若いが、困難な環境にも負けず、つい三ヶ月前食堂を立ち上げた新進気鋭!皆さんは既にオーク、鎧猪のステーキや串焼きを召し上がって驚嘆されたのではありませんか?」そして少し間を置く。


「まず、その台所を預かる料理長、オルト・アースブリースをご紹介します。因みに、オルト料理長はファミリア・リーダーでもあります!」

オルトが照れくさそうに前に出てお辞儀する。


「そして若干九歳にして天才的な調理技術と感覚の冴えを見せるダイン・アースブリーズ。レシピの大半は彼の閃きと考案によって生み出されました!」

「んだよ」後ろからオルトに押し出されたダインがぺこんと頭を下げる。

なぜか女性陣から上がる謎の歓声。


「この年若い二人を支える厨房の女神アリーシェ・アースブリーズ。何とダインと同じく料理スキルLV2の持ち主です」

「言い過ぎです」小さくアルシオに抗議した彼女は、綺麗なカーテシーを見せる。


「さあ、その食堂で皆様をおもてなしするのはこの少年少女達。ヤンニシャリラ・アースブリーズ、カテイ・アースブリーズ、クエンタ・アースブリーズ、ミルカ・アースブリーズ」

呼ばれるたび、少女達は完璧なカーテシーをお披露目し、クエンタは頭を下げる。


「ここで、食堂の素材を一手に引き受ける、縁の下の力持ち。冒険者ランクCのターニャ・アースブリーズ。なんと店に出るオークや鎧猪は彼女が毎日狩ってくるんです」

ターニャは頭をかきながらお辞儀した。おい、カーテシー忘れてるぞ。


「そのターニャを支えているのがアンザック一のポーター、アッシュ・アースブリーズ。ま、そのせいで私のポーター、なかなか受けてくれないんですけどね」

軽い笑いが会場にさざめく。


うわー、さすが演説慣れしてる。でも僕の紹介、ちょっと雑じゃない?

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