第二十四話 ファミリア新拠点

ダンジョンを出ると、そのままアルシオの館へ全員で向かう。

僕はミスリルや機材なんかを引き渡さなければいけない。

倉庫らしい場所に他のポーター達と一緒に入る。

冒険者や騎士さん達は宴会だそうだ。

ターニャは宴会には参加しないという事で僕に付いてきた。


引き渡しが済んで、僕達はねぐらに戻る。

ぼろ布の手前でカティが待っていた。ディスプレーで見ていたのだろう。

僕の顔を見ると、すぐに抱きついてきた。

「ただいま」そう声を掛けて頭を撫でる。

「お帰りなさい」カティがペタペタ僕の体をなで回した。

「いや、怪我はないよ、大丈夫だ。中へ入ろう」


居住区へ行くと、アリーシェとダインが食事の支度を済ませ、待っていた。

ミルカとヤンニシャリラは難しい顔をして魔導書を読んでいた。ヤンニシャリラはこちらの文字が読めないらしい。ミルカがたどたどしく読み上げるとその部分に指を当てている。

オルトは書類らしい紙を眺めていて、クエンタがそれを覗き込んでいた。

「ああ、お帰り」オルトが気がついてそう言うと、皆もお帰りを繰り返す。


「ただいま。こちらは特に問題なかったようだね」

「うん、二,三襲撃はあったけど、ガンマが追い散らかしたからね。それより新しい拠点、三日後には入居できそうだよ」オルトが手に持った紙をひらひらさせる。

「思ったより早いな」

「ちょっと鼻薬を嗅がせたからね」オルトがニヤリとする。

ほう、その手法の仕入れ先はアリーシェか。やるな。


「それでね、それでね、ヤンニが【アポーツ】使えるようになったの」

ミルカが目を輝かせる。おいおい、ライバルだぞ。

それでいつの間にヤンニなんて愛称になってんだ?

「ミルカのおかげよ」ヤンニシャリラがふわりとミルカを抱く。

うん、仲良き事は美しきかな。

「俺、負けねえから!」クエンタが吠えた。

ああ、スライム狩りか。ふふ、ライバルは必要だよね。


「あの、なんか気がつかない?」カティがおずおずと言う。

「馬鹿だね。擬態掛かったまんまじゃないか」ダインが生意気。

「あっ、そうか」カティがコンソールに立って操作する。


何だこれは!カティとミルカ、ヤンニシャリラの姿が一変した。

綺麗だ。何て綺麗だ。何が起こった?

「あの、ちょっとお化粧を教えただけなんだけど。まずかった?」

アリーシェが不安げに僕を見る。

ちょっと固まってしまったからな。

「いや、こんなに変わるなんて思いもしなかったからな。皆、綺麗だ」


もう浮浪児の面影はない。あのガリガリだったカティはふっくら肉付きが良くなって、どう見ても良家の子女。それも美少女だ。ミルカも可愛さ倍増、愛くるしい美幼女。

ヤンニシャリラはハイエルフだけあって、その美貌は光り輝く。神秘的と言って良い。

お兄ちゃんは心配だよ。また誘拐団みたいなのに狙われるんじゃないかって。

うん、擬態は続行だ。



三日後、拠点の建物が入居可能になったので総出で下見に行った。

元は商家だったらしく、割と大きめの二階建て地下室付き。

二階が六室、一階が大きな広間と二室、広い厨房。風呂は無い。

オルトは広間部分を食堂にする計画で、厨房と広間の間にカウンターを設けてあった。

テーブルは六脚。厨房の外に面した部分は持ち帰り用の窓になっている。

この辺はオルトに任せていたので異存は無い。


ここからがダンジョンマスターの出番だ。

二階の二室を男女別々の寝室にし、そこからゲートルームに繋がるようにする。

もちろん、ダミーの二段ベッドをそれぞれ三台ずつ置いてある。

正面出入り口以外にまるっと罠を貼る。

窓から忍び込もうとすると、家の反対側に放り出すよう転移陣をセット。

壁を壊そうとすると、その穴はダンジョンに通じるようになる。屋根も同じ。

もちろん、実際の家には傷も付かない。

正面出入り口の番はガンマの役目だ。

もう橋の下のねぐらに戻る事は無い。どこかの浮浪児グループが住み着くだろう。


引っ越しと言っても荷物は全部ダンジョンの居住区にある。ゲートルームへの入り口が変わるだけ。一日で食堂の準備を終わらせる。

オルト、ダイン、アリーシェは厨房、残りメンバーは給仕役とする。

近くの食堂から人を出して貰って、接客の手ほどきに十日程かけた。

僕とターニャは食材調達でダンジョンに潜る。

オーク肉と鎧猪のステーキが看板メニューだ。角兎よりずっと旨いからね。


オルトとダインが屋台で宣伝していたおかげか、食堂の滑り出しは好調。

持ち帰り用の窓で、串焼きの匂いが流れるのも客を呼び込む。

子供ばかりの接客で大丈夫かと心配していたが、これが案外受けているらしい。

チップの稼ぎ頭がなんとミルカ。時々、ご相伴に預かっているとか。

擬態しててもこれか。まあ、店にいる間は大丈夫だろう。

頼りになる護衛もいる事だし。


開店祝いとか言ってアルシオがやって来た。

「オークと鎧猪の専門店か。ターニャが狩ってくるの?」

おい。いつの間に呼び捨て?嬢が抜けてるぞ。

「そうです。この前C級になりましたから」

「凄いな。ソロで安定してオークを狩れるなんて。まだ十七だよね」

なんでターニャの年、知ってるの?


「実は今日来たのはミスリル採取の結果報告も兼ねてだ。無事、アンザックの領主になる事が決まった。来年の叙爵の儀が済んでからだけどね」

「それはおめでとうございます。って、叙爵?」

「ミスリルを大量に献上したからねえ。子爵位を賜ることになった」

「凄いじゃないですか。じゃあ、これからはアルシオ様と……」

「あはは、良いよ今まで通りで。私は何よりまず冒険者だから」


「じゃあ、アンザックは今までより良くなる」ターニャが呟いた。

「約束するよ。今回、ミスリル売却でしこたま儲けた。資金は潤沢だ。まずは今度の代官との引き継ぎの時にでも衛兵を増やして巡回を強化させよう」

「あの、子供達は、浮浪児達はどうなります?追い出すんですか?」

ターニャが真剣な眼差しで問いかけた。

「いや、孤児院の設立を考えている。場所、建物、面倒を見る人達。そういった物を見積もって準備しなくちゃいけない。だから少し待ってて欲しい」


ターニャがもの凄く嬉しそうに笑った。花が咲くように。

「ありがとうございます」

そして深々とお辞儀をした。

「い、いや、その、これも領主の仕事だから、あは」

アルシオがデレた!うわー、初めて見たぞ。


やっぱりターニャには勝てないな。

僕は仲間達さえ良ければ、って頭しか無かった。

ターニャは町に溢れる浮浪児達の事も考えてたんだ。


僕もターニャにあんな笑顔させられるよう、頑張らなくっちゃ。

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