第二話 ダンジョンって何だ?

まず、ダンジョンそのものは、大地を縦横に流れる地脈に含まれる霊子エネルギーで生成されるのだという。その切っ掛けは地脈に混じった瘴気にある。ダンジョンはその瘴気を地脈から吸い上げ、瘴石に変換する。この瘴石が魔素を吸収すると魔石になり、周囲に瘴気が蓄積されてモンスターが発生する、とチュートリアル先生が教えてくれている。


ただ、モンスターは瘴石に蓄積する段階でこの世界の物質も取り込んでしまうため、瘴気は別の物質となって無害化されるんだって。魔石は単純な魔素蓄積の物体になってしまう。

だから冒険者がモンスターを倒すのは、瘴気を浄化するのと同じになる。


ところで、この世界には霊子は存在しない。それは霊子が存在するのはこの世界の裏側の空間にあり、自由に行き来が出来ない。両方の世界に存在できるのは魔素だけということらしい。

ダンジョンは霊子と魔素が結合した魔霊素という物質で出来ていて、特有の亜空間を形成する。

そしてこの世界と裏世界(霊子の存在する世界)の両方を繋ぐ存在なんだそうだ。


まあ、ざっくり言ってしまえば瘴気の濾過フィルターみたいな。

誰がどうやってそんな仕組みを作ったのかは、チュートリアル先生は教えてくれなかった。


重要なのは、そうして発生したモンスターを何とかしないと、表世界が危機に陥るって事だ。

それを防ぐためにモンスターを討伐すると、何らかの利益を得るようにインセンティヴを用意した。それが有用な素材ドロップであり、経験値による能力向上、スキルの付加、魔素蓄積の魔石、というダンジョン固有の恵みなんだ。


ただ、自然に任せておくと色々不都合が出る。

瘴気に飲み込まれ、モンスタースタンピードが起きたり、ダンジョンが消滅したりする。

それを調節するのがダンジョンマスターだ。


誰だよ、そんな事考えたのは!

まるでゲームプロデューサーじゃないか。


ただ、ダンジョンマスターは裏世界、表世界、ダンジョン内の亜空間に関わるため、どうしても時空制御のスキルが必要になる。

時空制御はとてもレアなスキルだ。

だから僕が取り込まれたのか。


でも正直、裏世界がどうとか、表世界がどうとかはどうでも良い。

僕にとって、そして一緒に暮らしている仲間にとってどう役に立つかだ。


少なくともダンジョンの中ではダンジョンマスターは万能らしい。

絶対に死なないんだって。少なくともダンジョンの中では。

おおふ、それはそれで……

ゲームだったらブーイングの嵐だろうな。


まあ、ダンジョン内での出来事は全てコントロールルームで制御できる。

あ、一部の機能はダンジョン領域内では意識するだけで実行できるらしい。


どんなモンスターを生成するか、その数、レベルなど。階層別に。

そしてどんな階層にするかも自由に出来る。

さすがにコントロールルームの機材が必要だけどね。あのモニター群が無ければ何がどうなってるか把握するのが難しいから、何をすれば良いかを判断出来ないだろうな。

それにコントロールパネルが無いと何のアクションも取れないだろう。


ほんとに誰だろう、こんな仕組みを作ったのは。

第一、僕の記憶を詳細に読み取って、馴染みのある環境を用意出来るんだ。

僕に何かをさせようとしているのか、ちょっと薄気味悪い。

でもまあ、利用できるなら出来るだけ利用させて貰おう。


それにしても、そんな事が出来るには膨大なエネルギーが必要だろう。

チュートリアル先生に聞いてみた。


地脈のエネルギー、つまり霊子の持つエネルギーだそうだ。う、うん、ま、そうか。

良く分からんが。

ダンジョンコアは、そのエネルギーを地脈との接続ポイント――パス――から受け取って仕事をする。

ダンジョンが何がどこまで出来るかは、どんな地脈にパスを通せるかが大きく影響する。


今、僕が取り込まれたダンジョンは、なかなか貧弱な地脈に繋がっているらしい。

使えねえっ!


でも、豊かな地脈にダンジョンコアを繋げるのは、ダンジョンマスターの仕事?

僕なの?僕の責任なの?勘弁してよ。

取りあえずは僕と僕の仲間達に役立てれば十分だ。欲はかかない。

それと僕を始末したがっているだろう奴らから身を隠せれば。


取り敢えずは現状把握。


このダンジョンはマスター不在時と同じ十階層。

モンスターは下層へ行くほど強くなる。地脈に近い下層の方が瘴気が多くなるから当然だ。

この傾向は変える必要は無い。


モンスターを倒したときの素材の扱い:ダンジョン吸収一日/消滅&素材ドロップ

二択かよ!初期値はダンジョン吸収一日のようだ。これはそのままで良いだろう。

だが、どう見てもゲーム設定の選択肢だよな、これ。


同じように階層ごとの出現モンスターの種類とか、階層の環境とか、階層間移動の種類とか。

出来る設定は本当に細かい。でも良く分からないから弄らない事にした。

僕らにどう関わって来るかで決めれば良い。

悪く関わって来るなら、ぶっ壊してやるだけだから。


――おお、怖い。

何かが頭の中に声を掛けてきた。誰だ?

――あなたのチュートリアルです。

チュートリアル先生は直接僕にコンタクトできるのか。

――はい、あなたがダンジョンマスターですから。

じゃあ、コントロールルームなんて、要らないじゃ無いか。

――対話だけでは膨大な情報を管理できませんよね?

うぐっ。それはそうだ。

――緊急時の警告や、コントロールルームから離れている時の対応に用意されています。

本当に誰がこんな仕組み作ったんだい?

チュートリアル先生の答えは無かった。


ただ、このダンジョンの居住区間はすぐに使えそうだ。

少なくとも橋の下のねぐらより快適で安全だ。


途中でお腹が空いたので、亜空間から食べ物と飲み物を取り出す。

そういえば、食べ物は六人が十日持つだけの量があった。持ち帰って仲間の子供達に分けてやれば喜ぶ。

一旦切り上げてまた来よう。


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