望んだものは
猫崎ルナ
それは何でしょうね
わたくしには愛するあなたしかいないのです。
わたくしがこの世界に生まれ落ちた日、お兄様は天使が天から降りてきたのだと思ったそうです。
幼いわたくしをお兄様は優しく抱き上げ、頬擦りをしたと言います。
わたくしが初めてハイハイをした日にお兄様は両親以上に喜び、歩き出した日からはいつも手を繋いで歩いたそう。
そして、わたくしが初めて話した言葉は『にーに』だったらしいのです。
お兄様はわたくしを溺愛し、わたくしもお兄様を愛しておりました。
愛していたのです。
それが変わってしまったのは、あの女がこの家に来てからでした。
『初めまして、アリシェ様。私のことは姉と思ってくださいね?』
お兄様の婚約者と名乗る女です。
憎らしい。憎らしい。憎らしい。
お兄様は私のことを愛しているのに、わたくしもお兄様のことを愛しているのに、お父様は何を考えているのでしょうか?
お兄様が段々とわたくしよりもあの女と何かすることを優先し出しました。
なぜ?…あぁ、そうなのですね。何か弱みを握られていますのね。
『我が物顔で屋敷に足を踏み入れないで頂戴』
『なんですの?センスのないこと』
『まぁ、そんな貧相な贈り物なんて…正気を疑いますわ』
『話しかけないでいただけます?耳がおかしくなりそう』
『わたくしお前が嫌いなんですの』
『早くお兄様の目の前から消えなさい』
『わたくしとお兄様は愛し合っていますのよ』
『この泥棒猫、立場を弁えなさい』
『お前が消えれば皆が喜びますわ』
「…ごめんなさい。」
「アリー!お前はなんてことをしてくれたんだ!」
「あら?どうしましたのお父様」
「お前が…お、お前が恐ろしい。正気じゃないわ…本当になんてことを…」
「あら?顔色が悪くってよ?お母様」
「アリー。」
「お兄様!どうしましたのっ?アリーと、アリーと何かしますか?」
「俺はお前が憎い」
「えっ…お兄様?」
「もう二度と俺のことを兄と呼ぶことも、近くに寄ることも許さない」
「そ、そんな…冗談ですわよね!?お兄様!お兄様ぁ!何でですの!?何がありましたの!?」
「近寄るな!」
「いや…いやぁああああああああああああああぁぁぁぁ!」
お兄様、お兄様。お兄様、お兄様。お兄様お兄様お兄様お兄様おにいさまおにいさまおにいさまおにいさま…。
どうしてですの?
わたくしの事だけを愛していると言ったではありませんの…。
だからわたくしが、お兄様の為に、あの女の馬車に、細工をしましたのに…。
何がいけなかったのでしょう?
お兄様、許してくださいまし…わたくしが間違っていました。
お兄様は自身の力で排除したかったんですよね?
気がつかない愚妹で申し訳ありません…
お兄様、お兄様。お兄様、お兄様。
愛してますわお兄様。また一緒に寝ましょう。
お兄様、いついらっしゃるのですか?
わたくしはずっとお兄様を待っていますわ。
あぁ、嬉しい!お兄様がきてくださった!お兄様、お兄様、お兄様、お兄様!
「うぇっ!なんだこれは!!!」
「ここには幽閉されたお嬢様が居たはずじゃなかったのか?」
「つまりこれがお嬢様って言うのかよ??」
「どうしたらこうなるんだよ…」
男達の目の前にはベットの上で横になっている死体があった。
その死体は自分の肉を削ぎ落として人の形にしていたのだろう。
お嬢様らしき死体の横には、腐っている肉の塊が大量に並べてありそれが刺繍糸で繋げられていた。
「ん?」
その時男の耳に何か聞こえた気がした。
周りを見回してみると、暗闇の中で何かが光った気がした。
光った場所を開けてみると、そこには黒髪を床まで伸ばし血の様に赤い瞳をした、とても、美しい、男の子が、い、た。
望んだものは 猫崎ルナ @honohono07
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