第2話 息継せのび、就職します!
さてさて皆様こんにちは、息継せのびと申します。本日は此処、〇〇〇派遣会社というところにお医者様と来ました。朝6時です。
朝6時って、わたくしの常識の中ではこれから寝に入る時間帯だと思うのですが……会社の人は出勤なされているのでしょうか?
オフィスらしい場所の、自動ドアの前に立つと小さな機械音と共に開け放たれた内部がわたくし達を出迎えます。わぁお、開きました。そのまま数歩進むと受付に女性と男性が一人ずつ、お医者様に向かって「いらっしゃいませ」「おはようございます」と声をかけたので、お知り合いかな?とお医者様の顔を横から見上げます。
「おはよう。社長いる?」
「いらっしゃいますよ。社長室にどうぞ」
お医者様が二人にそう声をかけると、男性の方が左手にあるエレベーターを手で指し示してそう答えました。女性はうんうんと頷いております。あれ?この二人、なんか何処となく雰囲気というか、顔が似ていらっしゃる……双子さんなのでしょうか。
「わかった、行ってくるんだが、こいつちょっと見ててやってくんねーかな」
「わかりましたー!で、この子誰?先生の隠し子?」
今度は女性さんが手をあげて了解を意を示します。
「愛人かもよ」
「はいダウト、愛妻家がなんか言ってますね」
「奥さんらぶだもんね!いよっ熱いねひゅーひゅー!」
お医者様の冗談に、双子さんはノリよく突っ込みます。かなり親しい間柄なことが窺えてほほえましい光景に、わたくしはくすりと笑ってしまいました。
「わ!笑うとかーわいー!ねぇねぇお姉さんと一緒におしゃべりしてよっか!」
「……ということで面倒は見ているんで。行ってらっしゃい先生」
双子さんにそう促され、お医者様はエレベーターに乗り上階に登っていきました。わたくしは一週間ぶりに出す声が震えないように、がんばります。
「初めまして、息継せのびと申します」
「いきつぎせのび?せのびちゃんね!わー!礼儀正しくてかわいいなぁ!ね、そう思うでしょ囃!」
「少なくともお前よりかは礼儀正しいよ、嵐」
男性ははやしと呼ばれ、女性はあらしと呼ばれました。やはり血縁関係にはありそうです。
「せのびちゃんは今日はどうしてここに?先生がここにくるの超久し振りなのー!なんか社長に用事あったみたいだけど!」
「あ、えっと、多分、就職先を斡旋してくれているんだと思います。職場を紹介してほしいと頼んだので!」
「は?」
「え?」
わたくしの返答に、囃さんと嵐さんがばっと此方を向き、呆気に取られたかのような声をあげました。あれ?わたくし変なことを言ってしまったでしょうか?」
「……息継せのび、だっけ。きみ何歳?」
「わたくしですか?今年で22になります!」
「……マジか」
「……マジかー」
あー、とかうー、とか、お二人が顔を押さえて何やら呻いております。
「……囃、私この子の年齢に驚いたんだけどさ、それだけじゃなくて……」
「言うな解ってる黙れ嵐。なんで選りにも選ってここを……」
「先生ひどくない……?」
お二人は、受付台の後ろのオフィスチェアーにぐったりと座り、ため息を吐きました。息ぴったりです。
「……おい、息継せのび」
「はい」
「いいか、俺が合図したらダッシュでそこの自動扉から出て右に曲がれ。500メートル程走ったら駅がある。そうしたら適当な電車に乗って何処か遠くへ逃げろ。いいな?」
「私、持ち合わせあんまないけどこれ持ってって。いい?帰ってきちゃだめだよ?」
お二人がわたくしに近付きぎゅっと手を握ってきます。そして何枚かの千円札を渡されました。………。
え、いやいやいやいやいや。
「あ、あの!受け取れません!そしてここから逃げ出すこともしません!」
「なんでだよ!」
「こんなところで人生棒に振っちゃ駄目だよせのびちゃん!きみは生きるべきなの!」
「いやそれなんですけど、実は!私!」
「はいそこまで。三人とも落ち着き給えよ、愛らしいけどね」
囃さんと嵐さんと押し問答を繰り広げていると、後ろから声がかかりました。
振り返ると、頭を押さえて苦々しい顔をしたお医者様と、お医者様と同じくらいの背格好の男性が歩いてくるところでした。この方が社長さん、でしょうか。
「事情は叶から聞いたよ。大変だね、息継くん。そしてこれからもっと大変になる。
───きみの入社を認めよう、愛しい我が子よ。死ぬまで働いてね!」
社長のその言葉に。
オフィス内に囃さんと嵐さんの悲鳴が響き渡りました。わぁお、ハモリ完璧。
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