Let's challenge movie.

坂中祐介

第1話

2024年4月1日。

 今日から新年度が始まった。

 ここは、東京都東区青戸。

 サヤカは、都営地下鉄ブルーシティ線青戸駅から地上に出た。

 サヤカは、34歳の歌手だが、2020年以降の新型肺炎コロナウイルス感染症で、仕事は減った。それまで、少しは、ケーブルテレビの音楽番組に出ていたが、殆ど、知られることはなく、サヤカも、「私は、もう世間に知られることはない」と諦めていた。

 いや、と思う。

 学生時代、大学の授業と音楽事務所で頑張って、また、サヤカの両親も、サヤカのために、音楽事務所の社長に会って、頑張っていたが、最近では、精魂尽き果てた感じがしてきた。

 サヤカは、言われてみたら、声優の内田真礼さんに少しは似ていた。

 ケーブルテレビの音楽番組も、どんどん、終了になっている。

 サヤカは、もう34歳になっている。

 最近では、yosobiとか96猫なんて出てきているが、サヤカは、自分が、到頭、若くなくなり、また、ジェネレーションギャップも感じるようになった。

 しかし、一方で、ケーブルテレビの音楽番組に出たいと思っても、努力がそこまでできない彼女が、これから先も売れる見込みはなく、もうこれから消えていくのかとも思った。

 いや、サヤカは、元々、いきものがかりとかMr.Childrenなどが好きで、それで、音楽のレッスンをしていたが、最近では、この不況、ケーブルテレビの音楽番組にスポンサーがつかず、テレビの音楽番組に出ても、世代交代が進み、サヤカのような無名に近い彼女は、これからどうしたら良いのか分からなかった。

 ある時だった。

 これから、ケーブルテレビの番組収録をする前だった。

 サヤカは、退屈なあまり、いきものがかり『SAKURA』を歌っていた。

ー桜ひらひら舞い落ちる

 と大声で、楽屋で歌っていた。

「そうだ」

 とそこにいたマネージャーのキヨシが、言った。

 キヨシは、サヤカより一回り年上だった。

「はい」

「今日、そこのテレビ局前の公園に桜が咲いているじゃない」

「うん」

「そこで、いきものがかり『SAKURA』を歌ったら?」

「え、やだ、恥ずかしいよ」

「いや、だって、そんなに、みんな、観ていないし」

 それからしばらくして、公園で、サヤカは、いきものがかり『SAKURA』を歌った。

 キヨシは、サヤカの歌っている姿を、動画で撮った。

 キヨシは、「いいじゃん!サヤカ」と言った。

 久しぶりにサヤカは、楽しそうにいきものがかり『SAKURA』を歌っていた。

 無名の歌手だったサヤカは、いきものがかり『SAKURA』を歌って、少しは、動画再生回数が、アップした。

 それから暫くして、サヤカは、youtuberになった。

 キヨシも、サヤカの動画をいつも撮っていた。サヤカは、時々、東京だけではなく、駅前の広場や地方の公民館でも歌っていたらしい。

 マネージャーのキヨシは、いつしか亭主になっていたようだった。

 彼らは、稼ぎは少なく、無名だけど、日本中で、サヤカの歌声を披露していた、時には、YouTubeでも。<完>

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Let's challenge movie. 坂中祐介 @simichi0505

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