第62話【人の求めし悠久の夢】

 ぞわり、と背筋が冷たくなる。



 最後に得たスキルカードは『不老不死』



 人が、人でなくなるスキル。レベル設定自体がない、特殊中の、特殊スキルだ。


 使用すれば特異点となるスキル。

 人どころか、生物としての、シンギュラリィポイントを明らかに超える、能力。


 こんなものまで、スキルには存在するのか。


 スキルとして在る、ということは、これを取得できてしまうスキルツリーも存在する、ということなのではないだろうか。


 そして、思考する僕の耳に届いたのは


『ガチャスキルがレベルアップしました。ガチャ項目が選択可能になり、スキルカード排出残り枚数を表示できようになりました』


 レベルアップのアナウンス。


 僕は、不老不死のカードを見る。

 残り、0枚。


 たった1枚きりの、スキルカード。

 それを誰に使うかで、世界の運命すら変わってしまうであろう、力。


「真瀬くん、大丈夫?」

 蘇生を終えた有坂さんと、武藤さんが愕然としている僕を見て心配そうな顔をしている。


「ガチャで、とんでもないカードを引いてしまって……」


 僕はそれを、2人に見せる。共有ストレージはいっぱいになってしまっていて、僕の個人ストレージにそれは格納されている。


「こいつは、また厄介な」

 武藤さんは唸り、有坂さんは絶句している。


 ダンジョンを出て、まずは車両に移動してから話合おう、ということになり僕らはダンジョンを出る。

 ひどく、喉が渇く。


 今までも強力なスキルを引いてきた。

 だけどここまで、逸脱したスキルは初めて見る。


 ストレージから水のペットボトルを取り出し、飲み下す。

 原国さんへの連絡もしなくてはならない。


 これを誰に、使うべきか。

 それとも存在を秘匿しておくべきなのか。



 不老不死は、人類の夢見てきた最たるものの1つだ。

 魔法が現実化してしまったとはいえ、あまりに、法外すぎる。


 そして、絶対に、悪人に渡してはならないもの。


 僕らは車両へと向かう。既に蘇生した人たちはバスに乗せられて出発した後のようで、公園内には他に誰も居ない。

 太陽は既に頂点を過ぎ、時刻は午後となっていた。


「おかしい」

 ぽつりと武藤さんが言う。


「どうして迎えがいない? 原国さんは部下を呼んで俺たちを車両に案内させると言っていた。誰もいない、ってのは」


 武藤さんの言葉を遮るように、光線が武藤さんのいた位置を貫く。

 間一髪で、武藤さんがそれを避け、剣を抜く。


 光線の放たれた方向以外からも、斬撃と矢が射掛けられる。


 襲撃だ。


 こんな、タイミングで。


 いや、こんなタイミングだからかもしれない。情報系スキルもまた、無数にあるはずだ。

 伏見という男が言ったような、未知を既知にする、力が。


 僕たちは攻撃をかろうじて、避けきる。

 職業の共有者、そしてダンジョンを踏破してきたことで上がった個体レベルで、なんとかしのげた。


 気配察知が効かない。妨害系スキルだ。


 僕たちもそれは既に、ガチャで得て使用している。それを気配察知無効スキルを攻撃してきた相手も、持っている。


 僕らのいる公園内の歩道はそれほど広くはない。隠れるのにも限界がある。

 気配遮断、透明化、どのスキルかはわからない。


 だけど、打開策は、ある。


 包囲攻撃だけど、僕たちはバラけず、それぞれの背を護るように死角を作らずに固まる。

 武藤さんが剣聖のスキル、そしてガチャで得たスキルを発動する。


 1つは広範囲全方位剣撃、そしてもう1つは守護スキル。あらゆる物理攻撃の最もダメージ値の高いものを無効化するスキルだ。


 疾風の如く斬撃が四方八方に飛び、木々を抜けて襲撃者の悲鳴が上がる。


 スキル封印を返される可能性がある。

 それを知った僕らは、ガチャで出たスキル、そしてショップでの購入スキルをいくつか得て、常時使用できるものはレベルを上げるために常に使用をしてきた。


「出て来いよ。面見せな」


 武藤さんの言葉に、がさりと木の上から人が落ちてくる。

 と、同時に有坂さんが捕縛スキルを使用。これも、ダンジョン内でモンスター相手にレベルを上げてある。


 木の上から落ちた男は負傷に呻くが、体をチェーンで巻かれて動かせない。


「あと4人、いるだろう。余り手間取らせると、うっかり殺しそうだが……それでいいなら隠れていても構わない。こっちは元人間を散々切り伏せてきている。今更殺せない、なんて言い訳はしない。警告をしているうちに出てこい」


 低く冷たい声音で武藤さんが警告をする。

 僕たちが捕縛した男に近づくと、負傷した男女があちこちから姿を見せる。

 その全てに、有坂さんが捕縛スキルを使用する。


 カウンタースキルはない、と頷く彼女に僕は頷き返して、捕縛した全員にスキル封印を使う。


 それを確認した武藤さんが「それで、何故襲撃をしたのか、話してもらおうか。うちの職員をどうしたのかも、な」と武藤さんが切っ先を向ける。

 僕は戦闘行為の合間に、原国さんへ通話を繋いでいた。襲撃の合図を既に送っている。


 すぐにでも、応援が来る。

 原国さんは僕らの重要度を「一切の代えがきかない」と言い、対策をしていた。


 少ない人員の中で、尚。

 それ程僕のガチャスキルと共有者、有坂さんの血の蘇生術、武藤さんの剣聖は不可欠だという判断をしている。


 そしてギルド。


 僕が殺されれば、僕のスキルが奪われる。

 コインさえあれば、いかようにも強化できてしまう力。


 僕のスキルは、残りカード0枚。


 つまり、カードやスクロールでは他の誰もガチャスキルは取得が出来ない。

 そしてスキルが発覚すれば、それを狙う人間は、必ず出てくる。


 夢現ダンジョンでの会話を思い出す。最初にそれを警告したのは、原国さんだった。

 彼は正しかった。誰彼構わず、力を与えるべきではないのも。知られるべきでもないのも。


 そう言った、原国さんは正しかったのだ。



 チェーンに捕縛された男女が口を開こうとした瞬間、彼らの、首が落ちた。

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