第13話【地下2階攻略と生えた特殊職】
広場でモンスターを一掃してモンスターコインを拾い集める。広場の中央には枯れた噴水らしき、古いオブジェがあった。
僕らはそのオブジェを覗き込んだのをちょっと後悔した。
その中には血溜まりが出来ていた。
たっぷりとではないが、かなりの量の血液が溜まっている。鉄サビと生臭さが鼻をつく。
「あんまり血に近づかない方がいいかもしれないです……」
雛実ちゃんが後ずさりながら、顔を蒼白にして言った。
「警報の罠が鳴った時、私見たんです……血溜まりからモンスターが湧き出るのを……」
後ずさる雛実ちゃんの背を支えて、宗次郎くんが口を開く。宗次郎くんも、顔色が悪い。
「俺も見た……血がスライムみたいに固まって、ゴブリンになったんだ。武器も持ってた。それでみんなやられたんだ」
2人が説明をする。有坂さんが2人を血の噴水オブジェから庇うように、視界を遮る位置で、微笑みながら頷く。
2人の緊張を解すように「大丈夫だよ」とそっと肩に手を置いて、安心させる。
「……その証言から考えられる設定としては、人間の血がモンスターの核となり形成される。あるいは死亡した人間に制限時間があるのは、モンスター化するまでの時間。血からモンスターが生成されるのであれば、この噴水は血が枯れるまで無限湧き、あたりかな」
ラノベ作家らしく武藤さんが指折り数えて、仮説を立てる。
このダンジョンは謎が多い。
結局パーティークエスト『ダンジョンの真実』は仮説を立ててもクエストに反応はない。
一定条件が満たされていないということだろうか。条件の内容が不明なので、確認のしようがない。
全ての謎が明かされることがあるのだろうか?
このダンジョンについて、この夢について。
僕ははっきりと自分が布団に入って眠った記憶がある。聞けばみんなそうだという。
あの白い部屋もこの夢もダンジョンも謎しかない。
「いずれにしても、先に進む上で背後も気にしなければいけないですね」
原国さんが、武藤さんの言葉に頷いて言う。
「後列側は宗次郎くんが気配察知をして、背後にモンスターが来たら知らせてください」
続けて原国さんが穏やかに、静かに言う。
「その場合は数が少なければ私が弓で打ちます」
有坂さんがそれを受けて、言った。
「挟撃じゃなきゃ、俺か原国さんが下がって迎撃、挟撃なら坊主と宗次郎で迎撃だな。雛実ちゃんはバフとデバフを頼む」
こうしてぱぱっと分担が決まる。
武藤さんは作家さんだけあって、ファンタジーにおける戦闘の作戦を立てるのも上手いのでとても助かっているし、頼もしい。
僕らは不吉な噴水オブジェから離れ、先へ進んだ。
一度、2体のモンスターを感知したらしく、原国さんが下がって、有坂さんが弓を打つことになった。
スキルを得て、きちんと使えるようになっておきたいという有坂さんの希望を武藤さんと原国さんが汲んでくれたのだ。
戦闘は難なく終了した。有坂さんの弓はゴブリンを貫き、武藤さんの刀はゴブリンの首を刎ねた。
鮮やかな戦闘だった。有坂さんも、これなら大丈夫そうです、と微笑む。
『レベルアップしました』
僕らはレベルが上がるが、宗次郎くんたちは上がらない。
同一パーティーではないので、戦闘における経験点が分配されないのだ。
「レベル上がったけど、とりあえず小部屋攻略してからだな」
刀を振ると武藤さんが言う。
「そっちの部屋にモンスター2、あっちは5で宝箱有だな」
「全て倒して進みましょう。2体は武藤くんと有坂さんで倒し、次に5体の部屋は私が範囲魔法で倒しますが、打ちもらした場合はお願いします」
その言葉通り、淡々と、さくさくと、合計7体のモンスターを片付けて、5体いた部屋に入り、宗次郎くんが宝箱の罠を感知して解除した。
宝箱の罠解除にハラハラはしたけれど、無事に解除出来てよかった。
宗次郎くんもみんなに褒められて嬉しそうでほっこりする。
きっと前のパーティーメンバーともこうして、攻略して来たのだろうか。それを思うと少し胸が痛む。
宝箱の中身は中級のHPとMPポーションだった。
苦戦しているパーティーならとてもありがたい中身だっただろう。
僕らは今のところ苦戦はないので、あまり使い道がない。
職業レベルを上げるとMPは回復するので、MPポーションも特にそれほど使用することがない。
雛実ちゃんのバフデバフが必要になるタイミングもまだないのだ。
「さて、割り振りどうする?」
「回復師のレベル上げは最重要なのでするとして、後はどうしますか?」
相変わらず僕に職業は生えない。
が、今のところそれで困ったことにはなっていないのも現状ではある。
モンスターコインをガチャに使うか、ツリーに使うか、さてどうしようか。
考えていると、視線を感じる。
顔を上げると有坂さんと目が合う。
有坂さんとは、何だかよく目が合うのだ。
有坂さんみたいな美少女に見られると照れるけど、嬉しい。思わずにこりと笑ってしまう。
有坂さんもにこりと微笑み返してくれるのでとても嬉しくなる。
「あの、いいですか。僕のスキル、もう2人に言っちゃっていいんじゃないかと思うんですけども」
割り振りの相談するにしても、2人を輪から外してするのは何か信頼性に欠けてイヤだし、やりにくい。
2人ともいい子たちだし、伝えても問題があるとも思えない。
「坊主がいいならいいぞ、言っても」
原国さんは頷き、有坂さんがにっこり微笑む。
僕はそれを見て、2人に僕のスキルについて話をした。
2人は目を輝かせて、最初の武藤さんのように「チートスキルだ!」ときゃっきゃっとはしゃいだ。
「それでモンスターコインとスキルポイントコイン、どう運用しましょうか。モンスターコインで10連の後、職業ツリー伸ばす感じで行きますか?」
「今のところ全然問題ないからそれでいいんじゃねえか? つーか戦法としてはこれ、かなりのチート的な最強戦法だと思うぜ。強化方法がツリーとガチャの組み合わせだ。相当楽に進めてる」
武藤さんがラノベのチートスキルモノみてえだなと笑う。
確かに武藤さんの看板作品のチートスキルモノのスキルはガチャで凄く楽しく僕も読んだ記憶がある。
宗次郎くんたちには武藤さんは職業を明かしてないから、僕はその感想を口には出来ない。
多分、僕らを慮ってと、原国さんへの信頼の証で明かしてくれたのだろうと思うから、僕が勝手に2人にバラすわけにはいかない。
モンスターコインでガチャを回す。
宗次郎くんと雛実ちゃんが画面をわくわくキラキラした表情で見ているのがとても愛らしい。その横の武藤さんも2人と同じ表情なのが面白かった。
共有ストレージにガチャアイテムを入れる。
皆でアイテムをチェックして、まずは防具を割り振る。宗次郎くんと雛実ちゃんが防御がまだ薄いので、防具は全て彼らへ。
武器は星5の短剣が出た。属性武器でスピードが上がる効果があるのでこれも宗次郎くんへ。宗次郎くんの装備していた星3短剣を雛実ちゃんが装備した。
武器はこれだけ。
後はスキル《防御結界/投擲攻撃》が出た。
レベル1で矢、2で投石、レベル3で魔法矢、レベル4で砲弾、レベル5で魔法弾が防げる有用スキルで、パーティー単位でかけられる。レベル6以降は範囲や防御力が上がって行き、最大レベルで全ての投擲系攻撃を防ぐ効果を持つ。
これは雛実ちゃんが得た。
バフデバフが今のところ必要のない僕らの中で保護されているだけでは萎縮してしまうだろうから、役割は何かしらあった方がいい、と説明をしたら反対する人は誰もいなかった。
後は全てアイテム。ポーション系と、経験点の碑石が2つ。
使用すると経験点が得られるアイテムで、これがあるのもあって僕はスキルを雛実ちゃんに渡したかったのもあった。
保護してこの階では、戦闘をしないように立ち回っている現状、2人の個体レベルが上がらない状況だったので、ほっとした。
2人のレベルが上がればスキルポイントコインが得られ、職業レベルが上げられる。そうすれば雛実ちゃんはMPも増えて、《防御結界》を気軽に使える。
アクティブスキルで、使用回数を増やすことでレベルがあるスキルなので、常に切れないようにかけ続けて貰うことにした。
そうすれば戦闘時の経験点もいくらか入るだろう。
ツリーへのポイント割り振りもスムーズに進み、前衛2人は何も上げず、有坂さんの回復師をレベル16まで上げたことで職業スキル《麻痺回復》を得た。僕は基礎ツリーから体力と運に割り振る。
10連ガチャで割と星5や星4が出るので、やはり運を上げるのが重要だと思う。
体力パラメーターが低いとダンジョン探索に支障をきたしそうなのでそこも上げておく。
宗次郎くんと雛実ちゃんは職業レベルを1つずつ上げた。
「これ、使って欲しい。貰ってばっかなのは……アレだし、その、装備代、みたいな感じで受け取って貰いたいんだ」
宗次郎くんが差し出したのは彼らが倒れていた部屋で拾ったモンスターコインだった。
彼らが命がけで戦った証でもあるそれを受け取っていいものか迷っていると、原国さんが「受け取ってあげなさい」と微笑んで言った。
「私達は保護者で同じパーティーではないが、仲間なのだから。その証に受け取るんだよ、真瀬くん」
僕らのパーティーのように、彼らも扱う。それなら、受け取るのがいい。
ストンと腑に落ちて、お礼を言って受け取ると、宗次郎くんが「お礼を言っても足りないのは、こっちだから……」と照れながら嬉しそうに言ってくれた。
その後も交流を深めながら、順調に2階を攻略し続け、大きいゴブリンのボスを討伐し、あっけなく2階をクリアした。
レベルが上がったので、いつものようにガチャとポイントコインで戦力を増強していると、アナウンスが聞こえた。
『真瀬敬命が
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