数時間早く生まれてきた位でオネーさんぶるなよ

dede

お隣りのお姉さん


お隣りに住んでるツトム君が、私の誕生日を知ってからやたらと突っかかってくる。

夜中に産まれたと知ってからは更に当たりが激しくなった。

「1日早く生まれたからって、大人ぶるなよ」

「してませーんー。というか、私だってあと数時間遅く生まれてきたかったぐらいだよ」

「……そうすりゃ良かったのに」

そんな、拗ねた口調でいうものだから思わず苦笑いを浮かべて答える。

「できるか」



まあ、でもなかなかしんどいんだよ。

周りに比べて体は小さいし、オツムの方もねー、頑張って置いてかれないようにしてるけど。

小学校の頃は、私の帰りが遅いのをいつも羨ましがってたっけ。

いやいや、君も来年は同じぐらいの時間になっちゃうんだよって言ってみても、ズルいと言って不貞腐れてた。

そういえば、私の部屋に遊びに来た時はよく私の教科書を読んでたっけ。

「分かるの?」

「それなりに」

「むむむ」

「来年やるんだから、今分かんなくていいんだよ?」

そう諭しても、不服そうにしている。

そんなツトム君は、当然成績上位だ。羨ましい。



私のセーラー服姿を見て愕然としていた。

「え?そんな似合わないかな?」

「……」

何も言わずに何故だか悔しそうにして私の家から出て行った。

「……チェ。ちょっとは褒めてくれてもいいじゃん」

それから一年、ツトム君のいない学校生活。

学校帰りにたまに家の前で顔を合わせるぐらい。

そのたびに、ツトム君は何とも言えない寂しそうな表情を浮かべるのだった。



「だろー?まあ、俺だからな、似合うに決まってるって」

「うんうん、悔しいけど似合ってるよ。いいねぇ、かっこいいよ」

「だろ?だろ?」

そう言って得意げにポーズを取るツトム君。

まあ、実際似合ってるから何にも言えないや。

「こりゃ中学校じゃモテモテ間違いないね。いやー羨ましい」

そう言うと、なぜか急に調子を落として釈然としない顔をしてた。

「……褒めてるんだよな?」

「もちろん。あ、私の知ってる範囲でアレコレ学校の事教えてあげるね。

もちろん、過去問もいるよね?」

「……うん、ありがとう」

言葉とは裏腹にどこか苦しげだった。解せぬ。



いやーモテたね。

成績いいし、運動もできるし、言動が大人びてるしで。

ほら、同年代の男子なんておこちゃまっぽいじゃない?仕方ないなぁとは思ってるけど。

そこでツトム君は優良物件な訳なのですよ。

同学年からのみならず、上級生からも頼られたりして。

来年はきっとたくさんの後輩からも憧れの的になるんでしょうな。

まあ、昔から知ってるから私からしたらやっぱり男子っぽいんだけどね?

うん、たまに大人びたことを言ってる現場に出くわすと、

思わず吹き出しそうになる。



「先輩は先輩だから。ちゃんと学校では先輩って言ってくれない?」

「……わかりましたよ、先輩」

とても、とても不服そうだけども先輩と呼んだ。

うん、そういうトコだぞ、子供っぽいのって。他所ではしてないみたいだから、身内に対する甘えみたいなもんだと思うけど。

「でも、学校の外では今まで通り……」

「いや、呼び捨ててでもいいけど。そんなイヤか、私を先輩扱いするの」

「いや。それもイヤだけど。それよりも名前で呼びたいんだよ」

そう言って甘く微笑む。

「……そんなイヤか、先輩扱い」

「いや、そっちじゃなくて……ああ、もう」

悔しそうにぼやいた。



「違う。そこは過去分詞」

「ええ?そっち使うの?

……いや、なんで1年のツトム君が普通に2年の私に英語教えてるの?」

「予習してるからな」

「……すごいね、成績上位組は」

「そういう事じゃ、ないんだけどな?ま、キリキリ覚えようか?」

そう、嗜虐的な笑みを浮かべる。

「……お手柔らかに」



私が気にしてなかった訳ないじゃない。

交友関係の違い。修学旅行が一緒じゃなかったり、常に年上として接しなくちゃいけなかったり。

私に追いつこうと、頑張っているのは知ってる。

大人らしく振舞おうとしているのを知ってる。


ただ、知ってる?


それは一つ上のパッとしない先輩との溝を拡げているという事実を。

私と同等の事が出来るって事はそれだけ優秀で、その分だけ私を貶めているという事を。

あなたが私と同等になろうと、頑張れば頑張るほどあなたを身近に感じられなくなっている事を。

まったく。ズルい。

あなたこそ、数時間早く生まれてくれば良かったと思うよ。

そうすれば同じステージで、何の憂いもなく、何の引っ掛かりもなく、素直な気持ちのやり取りが出来ていたのに。


なんて、ね。


だいたい世の中、初期値次第でガラリと変わるモノ。

彼がお隣さんで良かったと思うべきなのかもしれない。

彼が同世代で良かったとありがたがるべきなのかもしれない。

それでもグチぐらい言いたい。もうちょっとさー、ね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

数時間早く生まれてきた位でオネーさんぶるなよ dede @dede2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る