11話【円卓乱舞と森の恵み】

「やはり宣戦布告は当家からだな」

「いやうちの者が」


 円卓につき、かれこれ1時間。


 お爺様やお父様、上級12貴族のお歴々に夜会での顛末と、王子の恋文について話し終われば皆一様に侮辱的な扱いに怒り、その後の恋文についての論争があり、最終的には「宣戦布告をどの家の者がするか」で揉め始めた。


 レストライアの上位貴族は12家、どの家も武力でのし上がってきた豪傑揃いである。


 ただの使者では書状を渡したその場で殺されてしまうこともあるのが宣戦布告。

 首と共に返事を送り付けることも割とよくある話である。


 なので他国ではそこそこの地位であって、殺されても惜しくはない者を行かせることが多い。


 しかしレストライアに置いては、宣戦布告に行く者はどのように扱われても帰還できるものを選ぶ。

 大抵は上級12貴族の中の青年から壮年の者が選ばれるのだ。


 ところが、これが揉めるのである。


 どこの家も、戦いを求め、栄誉を求める。

 通例では、こうなると円卓乱舞という上級12貴族の代表のお歴々が戦って決めようと乱闘を始める。


 それに勝利した家の者が赴くのことになるのである。


 故に、レストライアの円卓は大きく、中央にリングがある。リングには魔術が施してあり、中での負傷は身代わり石が受けることとなる。

 身代わり石が砕けた家から敗退し、最後までリングに立っていた者をの家を勝者とし、宣戦布告の書状を持たせるのがいつものやり方なのだ。


 そろそろリングに皆上がろうという段になり、地鳴りが響いた。


「おお、これは!」

「森の恵み!」


 レストライアの森から魔物が押し寄せてくる合図である。


「おお、よき福音よ。今期の森の恵みに感謝する」

「感謝する」


 お爺様が地鳴りの中、朗々と言う。森の恵みに対する、この地の長の礼。

 それに続くはレストライアの者たちの礼。


「今回は、森の恵みを一番得た者を勝者とする」


 お爺様の鶴の一声。

 そうして私達は城を出て、地鳴りの続く森近くの草原まで足を運んだのだった。


 レストライアに生息する魔物は通常の魔物生息域のものより強い。


 四方にはドラゴンの巣があり、四翼と呼ばれるドラゴンが治める森なのだ。

 そしてレストライアはこのドラゴンたちと約定を交わしている。


 互いに代替わりがあるたび挨拶代わりにドラゴンと戦うのが慣わしである。


 森の恵みについては、四翼から「次はこちらだ」という使いが来る。


 そのたびに四方の城、次の恵みの方角にある城へと王族は移動し、上級12貴族は王城側の陣地を得るため戦い順列を決め、円状都市の王城側から住居を決める。


 レストライアには個人資産という物がない。


 全てはレストライアの長であるお爺様に献上される所有物であり、それを貸借しているという形をとっている。

 そもそもレストライアの民は物品に対する所有欲が薄い。求めるは形なき武功と栄誉。


 だが森の恵みとなれば話は別である。

 強力な魔物ほど力を与える。新たなスキルすら授かることがあるのだ。


 そのため貴族位が入れ替わることすらある。


 レストライア王家はその中でも常に最強を保ち続けた一族でもある。

 魔物から得る恵みだけは、王家への献上を免除される。倒した者が得るのだ。


 故に森の恵みが起きた時、醜い足の引っ張りあいであったり、他者を貶め簒奪することは固く禁じられている。

 栄誉に反する行いであり、許されざる蛮行としてそしりを受ける。貴族位は剥奪され、処刑すらあり得るので基本的には起こらないことではあるが。


「西方よりきたる森の恵みだ。皆心してかかるがよい」


 お爺様が豪快に仰れば、皆声を上げ応える。


 無論今回は私も森の恵みを享受する。

 王子は私と戦うために戦の準備をしているだろう。


 なれば全身全霊でこちらも対応するのが淑女の務めである。



 森の奥から地響きと共に、多くの魔物が押し寄せてくる。

 喝采を持って我らレストライアが、迎え討つ。

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