あの晩は、月のあかりが雲に隠れて。道中どうちゅうとても暗くって。それなのに、あのだけは。あの桜の樹だけが、ぼうっと光っているように見えて。

 だから、わたくしは その樹を目指したのですわ。


 ぼうっと、

 白い花びらが、

 わたくしを手招きしていましたの。


 男が、

 男がひとり、樹の下で。穴を掘っているのが見えました。

 男は、黙々もくもくと穴を掘っていました。


 わたくしが近づいても 男は気にするそぶりもなく、ただ黙々と、穴を掘っていましたの。


 どうして穴を掘っているの? なんて、質問は野暮やぼですわ。

 わたくしは、そんなことは尋ねませんでしたの。

 代わりに、

「誰が入るの?」と尋ねましたわ。













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