事実等関係無い。

花園眠莉

事実等関係無い。

 社会人生活が染み付いて人混みに飲まれる日々を繰り返しているうちに暫く実家に帰っていなかったから久し振りに実家に帰ろうと思った。車で帰っても良かったけれどなんとなく電車に乗った。そんなに遠いわけでもないし本当にどっちで帰っても変わらない。席がまばらに空いた電車に揺られている時僕は思い出した。十二年前に初めて会ったあの子を。


 僕がまだ社会など知らずに学生を謳歌していた頃クラスメイトの一人が消息を絶った。理由も居場所も何もわからない状態で警察沙汰になったのを覚えている。当時の僕達に先生は分かり易く、心配させないように説明してくれた。消息を絶ったのは幼なじみのなーちゃん。僕となーちゃんは幼稚園の頃からずっと仲が良かった。そんななーちゃんが急に消えたのに僕は余り驚かなかった。いや、悲しんでいなかったの方が正しいかも。なんで居なくなったのかをちゃんと理解していなかったからだと思うけど。もしくは元々なーちゃんは突拍子もないことをする人だからあぁ、またいつものねって流していたのかもしれない。僕は漠然となーちゃんはすぐに見つかると思っていた。けれど、どこを探してもなーちゃんは見つからなかった。なーちゃんのことを忘れた訳ではないし、どうでもいいとかは思っていないけれどいつの間にかなーちゃんの居ない生活に馴染んでしまった。


 それから二年が経った頃、自分の隣にふとなーちゃんが居ない事実に寂しさが溢れた。なんで気づくのがそんなに遅いのだろうとは僕だって思った。なーちゃんは何してるのかな、生きているのかな、元気にしているのかな、幸せなのかなってなーちゃんのことで頭が一杯になった。でも考えたって事実が分かるわけじゃないから意味なんてなかったけど。


 それから更に三年が経った頃、急になーちゃんが現れた。平日の夜に僕の家を訪ねてきた。なーちゃんはあの頃と変わらないままの自信に溢れた笑顔を浮かべていた。服装も髪型もあの頃のなーちゃんのままでそこに立っていた。なんでなーちゃんが家に来たのかわからなかった。急に来た理由をなーちゃんに聞いても「来ちゃった。」って言って笑うだけ。なんで急に居なくなったのか聞いたけどなーちゃんは神様に会いに行ったとしか言ってくれなかった。そもそも神様に会えるのかなんて知らなかったけどでもなーちゃんが会ったって言うから、だから僕はなーちゃんのことを信じた。なっちゃんはこのまま暫く僕の家にいるみたい。


 久し振りの再会から半年経った頃、またなーちゃんは消えた。今回は行き先も理由も居場所も全部書いてくれていた。僕の部屋の机の上にぽつんと白い封筒を一つだけ置いてくれていた。


内容は…。


内容は、なーちゃんは海に行ったって事。

僕をまたおいてってごめんって事。

もうここには戻って来ない事。

なーちゃんの思う神様は、そもそも神様なんて居なかった事。

神様と会ったって嘘を吐いた事。

天国か地獄か分からないけど次が楽しみな事。

この世界はもう飽きちゃったっていう嘘が書かれていた。

全部読んで僕は近くにある海までなーちゃんを追いかけた。でもどこにもなーちゃんは居なくて。服が水を含んで重たくなっても進み続けた。

息が苦しくて。

痛くて、痛くて、辛かった。

僕が様子が可笑しかったから親が追いかけてきて助けてくれた。助けてくれたって思ってしまった。家に帰ってから僕の海に入った理由を聞いて両親はなーちゃんを探してくれたけど見つからなかった。今度はすぐに悲しい感情が芽生えた。二度目の別れが余りにも辛くて今日までなーちゃんの事は思い出さなかった。


 思い出したく無かった。考え事をしているといつの間にか電車の外には僕が昔入った海が見える。ただ、揺ら揺らと夕焼けを映している。その海を見ると僕の中があの日からずっと伽藍堂な事を自覚する。

なーちゃん。

今どこにいるの?

なーちゃんが会った神様は誰?

神様はいるの?いないの?

なーちゃんに会いたい。

あの眩しい目が眩む様な笑顔を見たい。


 最寄りの駅につくと懐かしい気分になった。幼い自分が駆け回っていた思い出が目に浮かぶ。


ふと誰かに呼ばれた気がした。










その声はきっとなーちゃんの声だ。

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事実等関係無い。 花園眠莉 @0726

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