暗黒魔法使いの逆襲~四属性魔法に適正がなかった俺は暗黒魔法を極めて世界を救うことにしました~

@RyuAquaLooso

第1話 属性魔法

「お前、何の属性も持ってないの?」

「うそだろ……そんな人間いるのかよ」

「事実上魔法使えないじゃん。最弱すぎんだろ」

この世界の魔法は火・水・土・風の四系統に分類される。ほとんどの人間は生まれながらの1つ2つ程度の属性を持っており、髪色は本人の属性で決まる。

俺の名はフレネル、15歳だ。髪色は黒。即ち何の属性も持っていない。

ただのモブ村人Bだ。今は”いつもの”いじりを受けている。

「え? マジで黒髪の人間っているんだ!? 俺初めて見たんですけどー!」

嘘つけ。このやり取り1000回以上やってるだろ。

「うそだろ……可哀そうすぎ」

はいはい、そのリアクションももう見飽きたよ。

「お前将来どうするの?」

どうするもこうするも、魔法だけが全てじゃないだろ。俺は別に農家でも鍛冶屋でもやって、適当に生活するつもりなんだけど。

「俺の火の魔法見せてやろうか?」

そういって目つきの鋭い青年は天空に向けて腕を掲げた。

「ヘルゾーク!」

青年が呪文を唱えた後、一瞬遅れて火の柱が上空15m程の高さまで立ち昇った。

「さっすがオーロ君! かっくいー!」

今のは通常火炎魔法の3級術式ヘルゾークだ。射程的に不完全だが15歳でヘルゾークが使えるやつはそういない。どうして嫌な奴に限って妙に要領がいいんだ。

「まあお前も俺みたいに努力しろよ。あ、そもそも属性持ってないんだったか~~」

青年とその取り巻きは満足したのか、悠々と帰っていった。全く、今日は早めに解放されて助かった。

買い出しの途中だったんだ。早く帰らないと。


「ただいま~」

「フレネル、おかえり」

今出迎えてくれたのは父の弟、デンデおじさんだ。俺は小さいころ両親に先立たれて、今はおじさんと二人で暮らしている。デンデおじさんは鍛冶場で働いているから、家事は俺の担当だ。俺はさっき買ってきた食材で早速今晩の夕食を作ることにする。デンデおじさんはお金の使い方にとてもうるさいから、かなりやり繰りしなきゃいけない。ああ、たまには肉が食べたい。

「おじさん、もういい加減ブロッコリーやアスパラガスばかりじゃなくて、たまにはお肉食べたいよ」

「あのなぁフレネル、ブロッコリーにもアスパラガスにもたんぱく質が入っているんだぞ、実質肉じゃないか」

「そういう問題じゃないよ~」

「食べたら稽古つけるからな」

「ええ~、またやるの~?」

食事を終えた俺たちは、庭でいつものトレーニングを始めた。

「はい、縄跳び、3分2セット始め!」

うぇええええええ。食べたばかりなのに……。

おじさんは若い頃はモンクをやっていたらしい。その時の練習メニューは毎日の食後の日課になっている。

「次は膝蹴り、前蹴り、サイドキックだ」

うぅうううう。相変わらず超鬼畜だ。でもこの家に住まわせてもらう限りはおじさんの教育方針に従う他ない。

「よし次はシャドー、最後にミット打ちだ! 頑張れ若人!」

「はあ……はあ……なんとか今日のメニューも終わった……」


その日の夜、俺はおじさんのベッドの隣に雑魚寝しながら質問をする。

「ねえおじさん」

「……なんだ?」

「なんで身体を鍛えるの? 俺はそんなに筋肉質じゃないし、第一身体なんか鍛えたって、同級生の魔法には適わないよ」

「そうだな、お前がどれほど身体を鍛えても、あのガキンチョには適わんだろう。」

「……見てたのかよ」

「だがなフレネル、男ってのはいざという時に戦える方がいいんだ。時代錯誤な考えかもしれねぇ。だがよ、あの太宰治だって男子の軟弱な理由は、武道を修めないことにあるって言ってんだぜ。あれ? 芥川だっけ?」

「誰だよ……」

「ガハハ、まあいいじゃねえか。男の喧嘩は拳って相場が決まってんだ」

おじさんの言っていることはよくわからない。まあでも、身体を動かすのは好きだし。今の暮らしもそんなに悪いもんじゃないけどね。明日はおじさんの友人のお店で手伝いがあるし、頑張ろう。


「いや~フレネル君が来てくれて本当に助かるよ。重たい物もガンガン運んでくれるし。若いっていいねぇ!」

「いえいえ、こちらこそいつも呼んでくれてありがとうございます。家計も芳しくないので助かります」

この人は商人のジレンさん。いつも馬車から荷卸しの時に俺を呼んでくれる人だ。おじさんの知り合いってことで、相場の倍の駄賃をくれる。とてもいい人だ。

「デンデおじさんにしごかれてるだけあるね~現役から引退したのは随分前だけど、元気そうかい?」

「ええ、おかげ様で、今晩はお肉が食べれそうです。」

「うんうん、よかったよかった」


「ありがとうございました~!」

「は~い、こちらこそありがとね~!」

俺は久しぶりに手に持った金貨を懐にしまって買い物に向かった。

まさか家ではあんなことが起こっているとも知らずに……


「嘘……だろ……なんだよこれ……」

俺は買い物袋を両手に下げ、家路についた。しかしおじさんの様子がおかしい。

「フレネルか……」

「おじさん! どうしたのその傷!」

「ああ、大したことではない。ちょっと鍋を噴きこぼしただけだ」

どう見てもちょっとした火傷どころではない。右手から腹部にかけて黒煙をあげている。

「今水持ってくるから!!」

火傷の時は確か水がいいはず、氷だと逆に冷えすぎてしまう。

俺はすぐに裏路地の貯水タンクから水樽を持ってきた。

「おじさん!」

そしておじさんを担ぎ、樽の中に入れた。

「すぐお医者さん呼んでくるから!」

俺は今しがた行ってきた町へ全速力で引き返した。


「もう大丈夫です。手も直に動くようになります」

「よかった……大事に至らなくて……」

「応急処置と、すぐに呼んでくれたのが功を奏しましたね。」

「本当にありがとうございました。」

「いえいえ、しかし妙ですね。この火傷は自然現象で引き起こされたものではなく、なく、魔法によるものです。」

「デンデさんは土属性ですから、鍋の噴きこぼしでこうなるとは思えません」


まさか……嫌な予感がした。

「あの、魔法の種類って分かりますか?」

「うーん、火傷のあとが円状なのから見て、通常火炎魔法のヘルゾークでしょうね。ちょっと威力は弱めですけど……」

「……そうですか、お教え頂きありがとうございました。」

「あ、ちょっと、どこ行くんですか!? もう遅いですよ!」

「行ってこい、今日のメニューは山ごもりだ」

バタン。俺はドアを閉めた。

恐らくおじさんをやったのはあいつだろう。口では強がっているが、おじさんももう現役を引退して長い。

「強けりゃ何してもいいのかよ……!」

「俺はいい。だが俺が弱いから、おじさんまで傷つけられなきゃいけねえのか!?」

「おかしいだろ! ふざけんなよ! たかが魔法の一つ二つ得意なだけで!」

俺は走った。走ることでしか、今の俺の感情を鎮めることはできなかった。

無心になって走り続け、足が動かなくなったら腕立てを始めた。

「クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!」

「すぅー」

「はぁー」

「ハッ!」

それでも怒りが収まらず、思いっきり地面を殴りつけた。

ガチン!

「痛ってえ! ああクソッ! なんでこんなに痛えんだ!」

「最近の土はどうなってんだ!」

俺は怒りの余り土を掘り始めた。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「はあ、はあ、はあ、はあ」

何やってんだ俺、土を掘りながらふと我に返った時、手の感触が変わった。

「なんだこれ、土じゃねぇぞ」

地面から僅かだが、銀色の光が見える。俺は無我夢中で掘り起こした。

手のひらサイズの銀色の玉が出土した。

「宝箱にしてはやけに楕円形だな」

待てよ、おじさんが言っていた。これはタイムカプセルだ。昔の人は鉄で作った玉の中に自分の宝物を入れて埋葬して、数十年後に掘り出して楽しむんだ。

「なるほど、つまり誰かさんのお宝が入っている訳ね。」

俺はにやけが止まらなかった。正直人の物を覗き見るのは気が引けるが、今日くらい悪に染まってもバチは当たらないだろう。見終わったら戻せばいいし。

「黒歴史ノートとか入ってるかな?」

パカッ。意外とすんなり開いた。

中には1冊の黒いノートが入っていた。

「なにこれ……”暗黒魔法とその研究について”……」

「なんだこれ、マジで黒歴史ノートなのか? 暗黒魔法とか聞いたことないぞ」


──暗黒魔法とは、通常の属性体系から外れた魔法の総称である。

その多くはアマチュアの魔法研究者によって理論体系のみ構築されたものの、適正を持った人間がおらず、再現性がなく学会で認められていない魔法のことである。


尚、暗黒魔法を使用するためには黒い髪の形質が発現する必要がある。


「おおー、設定凝ってんなぁ」

「俺も小さい頃、新しい魔法とか属性の妄想よくしてたなー」

「しかも黒い髪の形質って、まんま俺のことじゃねぇか、なんかシンパシー感じるな」

「どれどれ、最初の魔法は……?」


──通常暗黒魔法 6級術式 グラビティリング

対象と自身をグラビティリングの中に幽閉する。このリングの中では自身が設定した重力係数Gが適用される。


「へぇ、重力を操る魔法か、すげぇいいじゃん! ……あ、でも自分にも適用されるのね……なんか暗黒魔法って感じ」


──発動するには、暗黒魔法の適正のあるものが、ディ・シュフィーナ・グラドと発音し、闇魔界の物理法則を引き出すイメージをする。


「ふむふむ、ここまで読んだんだから、流石に1ページ位は乗ってあげないとね!」

「ディ・シュフィーナ・グラド!」


呪文を詠唱した瞬間、俺の足元から魔法陣が広がりだした。やがて7m前後の円に拡大し、気が付けば俺は魔法陣の端に立っていた。


「え、なにこれ」

そう口に呟いた瞬間、全身に負荷を感じた。

「まさか……本当に魔法が発動したのか……?」


──重力係数の変更はチェンジザグラビティ:2Gと唱える。


「チェンジザグラビティ:2G!」

「うぉ!」

俺は全身で自分の体重を受け止めた。

「まさか、本当に魔法が使える……!」

「チェンジザグラビティ:3G!」

ぐおぉおおお、すごい衝撃だ。無理もない。自分の体重の3倍の負荷を受けているんだから。

「これは、やるしかない!」


その日俺はグラビティリングの中で一晩中筋トレを続けた。気がつけば朝になっていた。


次の日、街中にて

「よう、無属性」

「……一応確認なんだけどさ」

「何?」

「おじさんにヘルゾーク撃った?」

「ん? ああ撃ったよ。うざかったから」

うざかったから?

「おじさんさ、お前のこといじめるなって怒るんだよね。うざったいたらありゃしない」

「……」

「強いやつが弱いやつをいじめるのは当然だろ、第一お前、努力してないじゃん」

「もっと頑張って魔法使えるようになれよ! あ、無属性だから無理か~」

「……あやまれ」

「は?」

「あやまれ。おじさんに謝れ」

「謝る訳ないじゃん、弱いのが悪いんだろ。もう年なのに若者に絡むなっての」

俺は、もう怒りを抑えられそうにない。

「弱いやつは強いやつの言うこと聞くんだよな?」

「は? 当たり前だろ。やんのかよ」

「やる。構えろ」

(こいつバカか、魔法も使えないのに俺様に勝てる訳ないだろ。俺様のヘルゾークで消し炭にしてやるわ)

「んじゃ死ぬってことでいいんだなぁ? 喰らえ! ヘルゾーク!」

「グラド」

呪文を唱えた瞬間。昨日ずっと見続けた禍々しい魔法陣が出現し。ヘルゾークは瞬く間に地面に叩きつけられた。既存の魔法体系に存在しないにも関わらず、省略術式にも対応しているらしい。いい属性だ。

「な、なんだ、身体が重い」

「お前! 魔法が使えたのか!」

「俺は運がよくて、この魔法だけ使えるようになったんだ」

「なんだこれ、足が動かねぇ!」

「俺とお前の重力が3倍になっているんだ」

「ふざけんな、ヘルゾーク!」

火柱は目つきの悪い青年の手を離れてすぐに地面に落ちてしまう。

「ヘルゾーク!ヘルゾーク!ヘルゾーク!」

「オーロ、男の喧嘩ってのはな」

俺は走り出した。

「拳でやるもんなんだよッ!」

俺はオーロの顎を思いっきり殴りつけた。

「ぐはぁ……」

オーロは気絶した。足を椅子に引っ掛けといたからその内回復するだろう。


その日を境にオーロは俺に絡まなくなった。

俺は暗黒魔法のノートをもっと読み進めることにした。

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