サイドストーリー ローニャの危機4

「お帰り、ローニャ。心配したぞ。無事で良かった」


謁見の間には父と母、宰相、ケイルート兄様、グリークス神官長が立っていた。


「ただいま戻りました」

「ローニャ、お帰り。怖かっただろう」

「他の女の子達を見捨てて逃げてしまってごめんなさい」

「それは仕方がない。ジョー侯爵の目当てはローニャだったのだから。彼女達は全員無事だ。ローニャが脱出したおかげで相手は混乱し、その隙を突いて突入する事ができたんだ」


ケイルート兄様が笑顔でそう告げた。あの場にいた女の子達に何も無くてよかった。

兄様の話によると、異変に気づいたマルカスさんがすぐに他の護衛と共に侍女とマダム・レミアを取り押さえた。


店は神殿に近かったため、護衛の一人がグリークス神官長に協力を仰ぎ、すぐに聖騎士が街に出て、王宮にも知らせに行ったようだ。


聖騎士と王宮の騎士団が王都に出て捜索したが、見つからなかったらしい。


マルカスさんが捕まえたエリスとマダム・レミアはグルだったようだ。


エリスを侍女として王宮に送り込んだのがバリン・エイター・ジョー侯爵。ジョー様と言っていたのは仮名ではなかったようだ。


彼は青馬倶楽部の総元締めだった。ローニャとナーニョを自分の性奴隷にしたいと思っていたようだ。そこで彼は二人をどうやって奴隷にしようかと考えていたのかというと、グレイスの父、ハインツ・ヒル・フォード公爵を青馬俱楽部へ引き入れた。


青馬倶楽部とは表向きは紳士のための乗馬サロンという名目だが、裏では若くて美しい女性を誘拐し、性奴隷として人身売買をしていたようだ。


ジョー侯爵はフォード公爵の弱みを握り、娘のグレイス王太子妃にナーニョとローニャを連れてくるように命令していたそうだ。


元々フォード公爵は娘を政治の駒として利用するために王太子妃にさせていた。

元々家族の仲は殺伐としたものだったらしい。


公爵はすぐにグレイス妃にナーニョ達を連れてこいと命令していたようだ。


グレイス妃としては獣の姉妹が陛下に気に入られて養女になったのが気に食わなかった。それに仲がとてもいい姉妹に嫉妬していたようだ。


だが、二人を公爵邸に連れて行こうにも警護が厳しい。王宮から出ることがない二人に苛立ちを感じていたようだ。そうしている間にナーニョはエサイアスと巡視に王都から出てしまったため、ナーニョには手が出せなかった。


エリスという侍女が協力者だと父から聞かされていた。そこからはエリスと密に連絡を取り、マダム・レミアの店にローニャを誘いこんだのはグレイス妃の計画。

マダム・レミアは娘を人質にされ、ジョー侯爵に協力者となっていたようだ。


計画の当日。


ローニャを上手く店に誘い出し、睡眠薬で眠らせ、そのままドレスを仕舞う箱に押し込んで裏口からジョー侯爵の使いが邸の地下へ運んでいったようだ。


マダム・レミアはすぐにジョー侯爵に脅されている、人質がいると白状した。エリスは主であるジョー侯爵の名を出す事はなかったが、自白剤により知っている事を全て語った。


侍女の自白により騎士達は兄の指揮のもとジョー侯爵の邸を取り囲んだ。


門番と押し問答をしている最中、邸内で何かがあったようで騒がしくなったらしい。その隙を突いて騎士団はジョー侯爵の邸に乗り込んだ。邸の中は逃げ惑う人々で混乱していたようだ。


騎士達は一人一人取り押さえて庭に人々を集めた。逃げようとした中には何人もの貴族がいたらしい。捕まえた者達からの聴取で芋づる式に青馬俱楽部に出入りをしていた貴族達が捕まった。


もちろん人身売買に関わった者達は罰として鉱山での重労働が課された。


ジョー侯爵は死刑。グレイス妃の父、ハインツ・ヒル・フォード公爵は弱みを握られていたとはいえ、青馬俱楽部に出入りをしていたし、王女を攫うよう指示をしていたため死刑となった。


グレイス妃は王女の誘拐に関与したため、離縁した後、北の神殿への永預かりとなった。


実行犯であるエリスは平民のため死刑となった。マダム・レミアは人質を取られていた事と捜査に協力したため五年の懲役で済んだが、店は平民に荒らされ、家族も国外へ逃げたため刑期を終えても先は暗い。


平民達はどうして店を荒らしたのかといえば、やはりローニャが狙われた事に怒りを覚えた人が多かったためだ。


ナーニョとローニャには貴族の後ろ盾はないけれど、騎士や聖騎士、平民達が二人の後ろ盾になっているようだ。


そしてナーヴァル王太子は妻の影響を受け口は悪かったが、元々は王子。警備も厳重でグレイス妃の父がナーヴァルを取り込もうとしていたようだが失敗に終わった。


グレイス自身も後ろめたい気持ちはあったようでナーヴァルには不満を漏らしていたが、ナーニョ達の事をどうこうして欲しい等の話はしていなかった。

もし、罪に問われた時にナーヴァルは無罪だと言えるようにしていたのかもしれない。


……彼女なりの彼への愛情だったのかは分からない。


けれど、ナーヴァル王太子は妻のグレイス妃のおこないの責任を取り、王太子の地位をケイルートに譲った。ナーヴァルはただの王子となり、今後は文官としてケイルートを支える事になった。


元々自分でも王太子の器ではないと言っていたようで、ケイルートが立太子になった時、どこかホッとしているような少し寂しそうな顔をしていた。


兄のケイルートが王太子となった事で急いで王太子妃を選定する事になったのは言うまでもない。ただ、ケイルートはなんだかんだと逃げ回っているらしい。


私はというと、一連の事件が落ち着いた頃、カシュール君とフェゼットさんの三人で魔法の勉強をしている。


グリークス神官長の下で彼の封印を解いた。彼はとても喜んでいてこれから魔法使いの見習いとして頑張っていく神官長と話をしていたわ。



……早くお姉ちゃん、帰ってこないかな。

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