第105話
国は今まで子爵が魔法を使えるのは知らなかったのだろうか。ここから王都まではかなり遠い。人が行き来するにはかなり時間が掛かる。
どうするのだろうか?
疑問は浮かんでくるけれど、こればかりは父である陛下の判断を待つしかない。荒れているとはいえ街でテントを張るとどことなく気分も安心する。
私は疲れていたようでそのままあっさりと眠ってしまったようだ。
早朝、小鳥の声で目を覚ました私。
見張り番をしていた騎士に挨拶すると、私の事を心配していたようだ。晩御飯を呼びに来たが、出てこなかったらしい。全く気づいて居なかったわ。
「おはようございます!!」
私達が朝食を食べているとカシュール君が走ってきた。あれから彼は一晩中子爵に怒られたのだとか。
「ナーニョ様、昨日はごめんなさい。私は何も分かっていませんでした。ナーニョ様、もし、よければ、私を巡視に連れて行って欲しいです」
「駄目に決まっている。巡視は丸腰では危ないんだよ? 魔法を使えない君が巡視に参加するなんて有り得ない」
隣にいたエサイアス様が渋い顔で返答する。
「大丈夫です。私は剣も使えます。自分の身は自分で守れます。ナーニョ様の盾になる覚悟できました。もっと魔法の事を知りたいんです。お願いします」
必死に頼み込むカシュール君。エサイアス様や護衛騎士達は許しそうにない。
まぁ、こればかりは仕方がないわ。
「カシュール君、騎士達の巡視に付いていくのは危険だから許可は出来ないわ。でも、巡視が終わった後、街の人の治療に当たるのでその時でよければ荷物持ちとして参加してもいいですよ」
「ナーニョ様、本当ですか!? やったー!!! 俺、ナーニョ様の荷物持ちになります」
カシュール君の喜び具合にエサイアス様は更に渋い顔になったが、私が許可したので止めはしない様子。
街で治療する方がカシュール君も安全だし、この街の事を良く知っているから何かと助かると思う。そして気になる事を聞いてみた。
「カシュール君、魔力は封印されているけれど、気持ち悪くないの?」
「魔力がグルグルと身体を巡っているのを感じます。多少不快には感じますが、問題はありません」
人間にとって魔力は違うのだろうか?
私もローニャもグズグズ泣いてしまうほど気持ち悪い感覚だったのに。
少し羨ましいと思ってしまったのは内緒だ。人間のカシュール君の身体は徐々に成長しているし、まだ魔法を使えば使うほど魔力も増えるに違いない。
本当なら毎日枯渇するまで魔法を使わせた方が良いのだけれど、昨日のカシュール君の状態では悪い方向にしか向かない。
彼の反省が見えたら封印を解いてもいいと思っている。
「カシュール君、手を出して」
私はカシュール君の手を取り、魔力を確認する。
……やはり幼い頃から魔法を使っているため私達ほどではないけれど、魔力量はかなりある。
グリークス神官長よりも多い。上位魔法が一回は使えそうだ。毎日枯渇ギリギリまで魔力を使っていればもう少し使えるようになりそうだ。
「ナーニョ様、私の身体は大丈夫そうですか?」
心配そうにカシュール君は聞いてきた。
「え、っと、私が今見たのはカシュール君の魔力の量です。身体は元気そのものです」
「本当!? 俺の魔力は沢山ありますか?」
興奮して俺に戻っている事に気づいていない様子。
「ある方だと思うわ」
「嬉しい!」
「封印されているがな」
エサイアス様はカシュール君の手を私から引き離すとシッシッと手で払った。
「ナーニョ様、そろそろ時間ではありませんか?」
護衛の一人が私に声を掛けてきた。
「あぁ、本当だわ。では騎士の皆様、私に手紙を持ってきてください」
朝食を摂っていた騎士達は一斉にテントからしたためた手紙を持ちナーニョに渡していく。それを不思議そうに見ているカシュール。エサイアス様は報告書とロキアさん宛に手紙を書いたようだ。
「では送りますね。『ファッジ』」
私が抱えていた全ての手紙や報告書は呪文と共にふわふわと消えていった。その代わり、光と共にトサリと手紙が手の中に入ってきた。
「では配りますね」
「おぉぉ! 今のはなんだ?? すげぇ! 手紙が消えたと思ったら戻ってきた!」
興奮している横で冷静な騎士達は手紙を受け取っていく。
その中にマートス長官から私宛に手紙が入っていた。魔法を使える人間が見つかった事に王宮は歓喜に溢れているらしい。そして研究員をそちらに送りたいと書いてあり、誰が現地で調査を行うか選定中らしい。
きっと皆が行きたがっているのだと思う。魔法がどの程度使えるのかも調査して欲しいと書いてあった。
どう調査すべきか……。
考えている最中、また小包が届いた。
「エサイアス様、小包が届いています」
「あぁ、ありがとう。……剣か。今回の手紙に書いたばかりだったのに届くのが早いね。その場にいたのかな」
「それはきっと私が剣を駄目にした日の報告書を書いていた時についでにロキアさんに手紙を送っていたからだと思います」
「そうか。ナーニョ様、ありがとう。助かったよ。予備の剣は切れ味も違うから早めに武器屋で買おうと思っていたんだ。ロキアなら俺にあった剣が分かるからすぐに用意してくれたんだろう。しっくりくる」
エサイアス様は送られてきた剣を確認した後、すぐに腰に提げた。
「さぁ、あまりゆっくりしているわけにはいかない。準備するぞ」
エサイアス様の言葉で騎士達はテキパキと片づけをし、巡視に向かった。もちろん言いつけを守ってカシュール君は一旦街に戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます