第91話
翌日、いつものように巡視に出掛けた。私が部屋に戻った後、すぐに商会長はエサイアス様の所へ行って私の食事について話をしたようだ。
エサイアス様としてもその申し出は有難く受け取ったと聞いたので早ければ今日の午後からの治療で食事が出されると言っていた。
私は少し浮かれながらその日を過ごしたの。
初めて食べる魔獣の肉はどんな味がするのだろう?
やはり癖の強い味なのだろうか?
それともファラナ牛のような美味しい味なのだろうか?
浮かれた気分が自然と尻尾に出ているせいか他の人に伝わってしまったようでクスリと笑われてしまったのは仕方がない。
「エサイアス様、騎士団の皆様、今日もお疲れ様でした」
私は解散の合図と共に軽く皆に魔法を掛けてから神殿へと向かったわ。
今日も魔獣専門店の人は買い取りをしていたので騎士達はこの後、ホクホク顔で街に繰り出すと言っていた。
「ワット神官、今日も宜しくお願いします」
「ナーニョ様、宜しくお願いします」
今日、商会長は仕事で来れなかったようだ。
怪我人の二人が昨日と同じ部屋で同じように席に座っていたわ。
「ナーニョ様、商会長から預かっております」
怪我人の一人が小さな巾着袋を片手で差し出してくれた。
今日治療する怪我人二人も腕や指、足を欠損しているようだ。
私はお礼を言って小袋を受け取る。もちろん小袋の中身はお金じゃないわ。
「では治療を始めますね」
そう言ってから私は一人の肩に手を置いて治療をはじめる。
手と足の指を失くしているのと腹部が少し抉れたような感じ。
よく生きていたなと内心驚いた。
流石に失礼なので口にはしなかった。
淡い光はゆっくりと欠損している箇所を再生していく。昨日と同じように怪我人は生えてくる自分の指をみつめ声が出ない様子。
「治療が終わりました。指や足はすぐに再生出来ましたが、腹部はかなり損傷が酷かったようですね。二、三日安静にして様子をみてくださいね。では次の方の治療に入ります」
「よろしくお願いします!!」
彼は右腕の肘から下が無い。
他に怪我は無さそうに見える。魔法を掛けると、背中に大きな傷跡があった。
傷の影響で立つことが出来ないのではないかと思う。
魔力の出力を上げて一気に治療してく。
「……治療が終わりました。立つことが出来ますか?」
私はそう声を掛けながら先ほど貰った巾着に手を伸ばし、中身を口にする。
巾着の中身は魔獣の肉を塩漬けにして干した物だった。
パクリと口に入れた途端、身体中にビリビリと刺激が走った。
「!!!」
驚きのあまり小袋を手から落としてしまい、慌てて拾ったけれど、怪我人は私のことを気にする余裕も無かったようだ。
再生された手をぎゅっと握りしめ、そっと立ち上がった。
「立てるぞ! 力が入る!! 有難う御座います!!」
「二人とも良かったです。商会長に、小袋の中身、とても嬉しかったです。
明日も同じものを頂けると嬉しいですとお伝え下さい。神父様、申し訳ありません……部屋に戻ります」
「ナーニョ様、顔色が優れない。すぐに修道女が向かいますので部屋にお戻り下さい」
私は小袋を握りしめて軽く頭を下げた後、護衛騎士に支えられるように部屋を出た。
「ナーニョ様、大丈夫でしょうか?」
「……えぇ。大丈夫。いつもの小袋はありますか?」
「お口に合いませんでしたか?」
「味、は……少し癖がありましたが、この魔獣肉は……魔力を帯びているようなのです」
騎士はナーニョの言葉に驚きながらいつもの小袋を渡してくれる。
勢いよく小袋を開けて口に流し込むナーニョ。
ほっと一息ついた頃に部屋に着いた。
「上手く説明出来ないのだけれど、この魔獣の肉は魔力が少し残っていて食べるとほんの少しだけど魔獣の魔力を取り込む感じ、かな?
でも自分達の持つ魔力と少し違う感じだから変換するのにビリビリした感じがするの。でも木の実よりかは早くに魔力を補える気がする」
「それは大発見ですね!」
「一口食べた時はとても驚きました。これは絶対にローニャに送ろうと思って取っておいこうと思って」
「そうだったんですね。それだったら軽食後に魔獣専門店へ向かいますか?」
「いいですか? いくつか買って研究所に送った方がいいですよね」
「その方が良いと思いますね。あと、魔獣専門店が肉を卸している店があったはず。夕食はそこで食べてみますか?」
「是非、お願いします」
木の実を食べ終えてお茶を飲んでいると修道女が軽食を持ってきてくれた。
夕食は外で食べてくる事を告げると笑顔でいってらっしゃいと返ってきたわ。
素早く軽食を摂った後、私と護衛騎士三人と一緒に魔獣専門店へ行き、品物を見ていく。
店の裏では騎士団が狩った魔獣を処理仕切れず数人がかりで肉や皮の処理をしているようだ。
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