第83話

 私は護衛と共にノダンの街の神殿へと急いで向かう。

 神殿に着いた時、私達は焦った。


 神官様も修道女達も皆病に倒れていたのだ。


 更に病人は教会の人だけでなく病室にも沢山の人が寝ており、皆咳をしている状態だった。


 私の指輪では根本的な解決にはならない。


 けれど、体力が落ちている人達には多少の効果はある。


「神官様、私の治療はあくまで怪我や少しの炎症を治すことしかできません。病気の根本的な治療ではありませんが、症状は楽になると思うので治療しますね」


 私は部屋の人達に一礼した後、指輪をつけて治療を開始する。


 体力が戻りますようにと願いながら魔法を掛ける。


 光はゆっくりと病人達を包みはじめる。やはり殆どの病人は肺や喉に炎症を起こしている。


 ばい菌が全身に回っているせいか身体中が痛い人もいるようだ。


 怪我とは違い魔力消費はいつもより少ない。


 ばい菌が身体中にいるのだから治療してもその人の体力にかかっている。身体が元気になれば病に勝つ人も増えてくるので信じるしかない。


「おぉ!! 楽になったぞ! ケホケホッ」

「本当だわっ」


 神官も修道女達も他の人達同様に驚きを隠せない。


「ナーニョ様、ありがとうございます!!!」

「神官様、身体の痛んでいる部分は少し回復しましたが、身体の中には病が残っています。数日は水を沢山飲み、ゆっくり休むようにしてください」

「わかりました!」


 私は今回も神殿に泊る予定だったが、神父や修道女がみな倒れているため駐屯所で泊ることになった。


「みなさん大丈夫でしょうか?」

「どう、だろう。今のところ騎士達に異常はないが街の人達の大半は病気に掛かっているようだ。このまま様子をみるしかない。ナーニョ様の方はどうでしたか?」


「一応神殿に行って軽い治療をしてきましたが、やはり病人で溢れかえっていました。

 身体は楽になったはずなのであとは自己治癒力を信じるだけです。

 明日も治療を行う予定です。ザイオン医務官に先ほど報告書を送ったのでもう少しすればローニャの方から手紙と薬が送られてくるかもしれません」


「それは良かった。こういう時に魔法が使えると助かる。俺達だけで巡視を行っていたらきっとこの街で全滅していたかもしれない」

「同行して良かったです」


 しばらくするとローニャから薬が送られてきた。


 小包を三回分に分けて。どういう病気か分からないが、対症療法の喉や咳、解熱剤を送ってくれたようだ。


 ローニャからの話ではこれは二十人の三日間分ほどしかないようだ。


 薬が足りない。


 ザイオン医務官からの話で井戸や害獣などから病気が持ち込まれることがあるらしい。


 その辺りも調査して欲しいと言われた。


 私のやることは明日から井戸を浄化させていくことね。



 翌日、護衛騎士が熱を出した。昨日老夫婦を担架で運んだ騎士達も。


 元気な騎士達は不安に陥っている様子。


 昨日ローニャから送られた薬を病に倒れた騎士に渡し、私は一人街へ出ることにしたの。


 もともとこの街は治安が良いと言われていたようだが、病が流行り誰一人街を歩く姿を見かけない。


 私は神殿に向かい今日も治療から入る。


 神官も修道女も体力が回復したおかげか病に勝ちつつあるようだ。


「皆様、おはようございます。本日も僅かですが、治療に来ました。どうか一日でも早く病気が治りますように『ヒエロストロ』」

「「ナーニョ様、有難う御座いますっ」」

「「ナーニョ様!!」」


 ワッと歓声が上がる。昨日に引き続き身体が軽くなった事で元気になったと勘違いする人がいるかもしれない。


「皆様、まだ身体の中にはばい菌が存在しています。私はただ傷や体力を回復させただけです。数日は安静にして水をよく飲み、ばい菌を身体から追い出すようにしてくださいね」

「わかりました!!!」


 私は神官達に挨拶をした後、井戸を探して歩くことにした。


 普通なら通行人に井戸を聞いて回ればすぐに向かえるのだけれど、誰もいない。失敗したわ。


 この街もロダンの街ほどの大きさはないので歩いていればそのうち見つかるだろう。


 そう思い、一人街を歩いていると、中央の広場の一角に井戸を見つけた。


 そこに小さな男の子が水を汲んでいたので声を掛けた。


「ちょっと聞きたい事があるんだけど、良いかな?」

「お姉ちゃんなあに? 僕、忙しいんだ。お母さんが病気になっちゃって死にそうなんだ。早くお水を持って行かないといけないんだ」

「一緒に行ってもいい?」

「……いいけど、移ってもしらないよ……」


 私は男の子が水を汲んでいる横で魔法を掛ける。魔法の入り方からして水自体は問題ないように思える。


 キラキラと光った水を見て男の子は興奮しながら家へと戻った。


「お母さん! 凄いんだよ! このお姉ちゃん、魔法が使えるんだって! お母さんもすぐ治して貰おうよ!」


 男の子の家は小さなアパートの一室で暮らしていて、こざっぱりとした部屋にベッドが一つ。テーブルと椅子が置いてある。


 母親と二人このベッドで寝ているのだろう。


 元気な男の子とは対照的に母親の顔色は土気色をしていてとても具合が悪そうだ。


 寝ることも難しいのだろう。


 座ったままゴホゴホと咳をしている。隣に寝ているのは妹だろうか? 同じように咳をしている。


「ごめんなさい、病気を治す事は出来ないの。でも、落ちた体力や怪我を治す事が出来るから少しは良くなるかもしれない」


 ナーニョはヒエロスの指輪をつけて魔法を唱える。


 母親は咳が酷いみたいで肺にダメージが大きく出ていて全身の血の巡りはあまり良くないようだ。


 肺の治療と体力を回復させるだけでかなり良くなるはずだ。


 魔法で治療したおかげで母親の顔色は赤みが差し、かなり楽になったようだ。


 妹の方も魔法を掛ける。熱が高いわ。


 私にはどうする事も出来ない。


 幾分楽にはなったようでスウスウと穏やかな寝息に変わった。

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