第82話

「エサイアス様、本日もありがとうございました。私、食いしん坊ですね。お休みに行くのがいつも美味しい食べ物のある食堂なんですもの」

「私はナーニョ様と一緒に食事すると日頃の疲れが飛びます。食いしん坊のナーニョ様も可愛いですよ? ではまた次も一緒に食事をしましょう」

「ふふっ。嬉しいです。今日は有難うございました。ではまた明日」


 私は護衛と共に部屋に戻り、湯浴みをする。


 その間に修道女は気を使って果実水と軽食を運んできてくれたようだ。



 夜になり、私はいつものようにローニャと連絡を取った。


『ローニャ、今日はどうだったかしら?』

『うーん、多分大丈夫、かな?』


 いつもより元気のない様子のローニャ。やはり心配になる。


『昨日もそうだったけれど、最近何かあったの?』

『うん、あのね。グレイス妃が地味に嫌がらせをしてくるんだよね。

 この間怒ってたのは折角、お茶会に呼んであげたのにその下品な服は何だって馬鹿にしてきたんだから!

 こっちだって研究所で研究している最中に無理やり呼び出されたんだから仕方がないんだよ? なんなのアイツ!』


 最初は困っているような気分が落ち込んでいるような話ぶりだったけれど、話をしていくうちにローニャはだんだんと自信を取り戻し、むしろグレイス様に怒りを向けはじめているようだった。


『辛かったらもっと周りに言うのよ? 私達は一応王女ではあるけれど、お茶会なんて参加する義務はないのだから行かなくてもいいんじゃない?』

『そうだよねー。こっちは仕事してるんだもん無視していいよねー』


 私はローニャの話を聞きながらマートス長官に手紙を書いた。


 グレイス妃からローニャへの地味な嫌がらせに困っていると。


 本来なら王女である私達をグレイス妃は命令出来ないと思うのだけれど、そこは間に入っている誰かがローニャに命令だと伝えているのかもしれない。


 ローニャも薄々は気づいているはず。


『じゃぁ、そろそろ寝るね。また明日ね』

『おやすみなさい、ローニャ』


 ローニャと話を終えた後、マートス長官へ手紙を送る。これで研究所にいる間はグレイス妃からの急な呼び出しは無くなるだろう。


 気を遣わせるけれど母にもちゃんと手紙を出すことにしたわ。


 グレイス妃の態度が目に余るようなら諫めて欲しいとやんわり書いて。


 父や母に心配をかけたくないし、告げ口をしたと言われるのも気分が悪い。


 けれど、大事な妹が嫌な思いをするのは許せない。遠く離れた私に出来ることはそれくらいしかない。


 少しでも嫌がらせが止むのを祈るばかりだ。




 翌朝からの三日間も順調に魔獣を討伐し、私は畑と井戸にも魔法を掛け終わった。


 特に問題なく過ごす事が出来たと思う、私は。


 エサイアス様はというと、連日街長の娘に突撃されうんざりしているようだった。


 街長もあわよくば娘のどちらかがエサイアス様と、なんて思っていたのかもしれない。


 だが、最後までエサイアス様は令嬢達と話もしなかった。


「では次の街に向かう。街長、世話になった。では出立!」


 街長は愛想笑いを浮かべ、娘達は不満顔で私達は見送られて街を後にする。


 この街の印象があまり良くなかったのは残念で仕方がない。



 気を取り直すように私達は街道をゆっくりと進みながら次の街へ向かう私達。


 所々休憩しながら峠も越えて野宿をし、ゆっくりと魔獣を討伐しながら進んでいく。


 道中、気になった事がある。数は少ないが、時折行商や他の街を行き来する馬車にあうのだけれど、馬車の往来が全くない。


 サイカの街では何かあったと聞いていないが、不安がよぎる。騎士達も薄々は感じているようだ。


 こうして数日の野宿を終えて到着した次の街ノダン。



 ノダンの街に一歩足を踏み入れて私達の不安は的中した。


 誰一人歩いていないのだ。


 王宮騎士団が到着する時には街長や神官など挨拶に出ているものなのだが、誰一人通りを歩く人もおらず、店も全て閉まっている。


「何が、あったのでしょうか……」


 私達は駐屯所までとりあえず向かうことにした。


「騎士団の皆様、ようこそおいで下さいました。本来なら街を上げて歓迎するのでしょうが、先月からこの街に病が流行り、誰もが病を恐れて家から出てこないのです」


 駐屯所を管理している老夫婦は咳をしながら話をしている。


「……そうでしたか。その流行っている病とはどういったものなのですか?」

「症状としては風邪とあまり変わらないのですが、高熱が続くのが特徴です。その高熱で亡くなる者も多いのです」


 コホッと咳をしているお婆さんの額に手を当ててみると熱があるように感じる。


「お婆さん、熱があるんじゃない? 休んだ方がいいわ!」


 数名の騎士がお婆さんを担架に乗せて管理人の部屋へと連れて行った。


「……不味いことになったな。この街で病が流行っているのか。

 今日はこのまま街の調査に出よう。急いで報告を上げて国に報告しなければならない。ナーニョ様、ザイオン医務官に連絡を取ってくれるかい? 薬が大量に必要だと思う」

「分かりました」

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