第64話
ケイルート兄様とその後、少し話をして早々に部屋を出ることにした。怪我が治ったとはいえ、まだ本調子ではないから無理をさせてはいけない。
私はローニャと部屋に戻り、考えていた事を話した。
「ねぇ、ローニャ。考えていたんだけれど、ローニャはこのままお城の研究員として働いていきたいのよね?」
「うん。魔法を使って植物を育てたり、怪我した騎士達を治療しながら自分に出来る事をもっと広げていこうと思っているわ。それがどうしたの?」
不思議そうに聞いてくるローニャ。
「あのね、ローニャも大きくなって自分でやりたい事が見つかったし、私はエサイアス様についていこうかなって思うの」
「え!? どうして? 危険じゃないの?」
「そうね。危険だと思うわ。
でも、私がついていってその場で治療出来れば、一緒に魔物を魔法で攻撃すれば、きっともっと安全になると思うの。
それにグリークス神官長は魔力を持つ人達を探している。
あれからずっと王都の人達の治療を続けていても魔力を持つ人は見つかっていないわ。
私が出向いていけば探し出せると思うの。魔力を持つ人達が増えれば私達の負担は減るし、ローニャは気づいているんでしょう?」
「何が?」
「グレイス様のこと」
「あぁ、あの人たちのことね。私達を道具としか見ていないから隙をみせればきっと私達はいいように使われるわね。
ナーヴァル兄様はグレイス様に合わせているだけみたいなんだけど、グレイス妃なんて私達がいないところで獣扱いしているんだからっ! あっちの方がよっぽど獣よ」
どうやらローニャは二人が話している所を立ち聞きしたようだ。
ローニャは私よりも断然耳が良いせいかしっかりと聞こえてしまったらしい。
「魔力を持つ人達が大勢見つかればまた変わってくるでしょう?
正直、私はこの世界の勉強を頑張っているけれど、まだまだ難しいわ。貴族達がやるような策略を巡らせて足を引っ張るなんて無理そう。
私はここから出て各領地を渡り、怪我人を治療しながら自分達の味方を増やそうと思う。私達の味方が増えればあの人達は無理やり私達を使うことも出来ないはずよ」
「そっか。分かった。私はおねえちゃんがやりたいと思うことに賛成する。
私は私で出来ることを頑張る。ふふっ。猫は可愛くて強かなんだよ?」
「……そうね。あまり無理はしないようにね」
「もちろん!」
ー夕食時。
私はいつもと変わらぬ素振りで父と母とローニャで食事する。
久しぶりに見た父や母は私を見てとても心を痛めているようだった。
兄のケイルートはさすがに部屋で食事をする事になっている。
「お父様、お母様。心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
「こんなにも痩せてしまって。心配したのよ。でも、よかった」
「マートス先生からも叱られてしまいました。もっと太るようにと。今日はケイルート兄様の治療もしたし、お腹が減りました。一杯食べたいです」
「うんうん。一杯食べるといい。ナーニョの好きな物も用意してある。沢山食べなさい。それに大怪我をしたケイルートを治療したと聞いた。二人とも有難う」
「知らせを受けた時に覚悟したわ。でも、ナーニョが治療してくれたと聞いて嬉しくて、嬉しくて。ローニャもお腹が減ったでしょう?」
「はい! お腹ペコペコですっ!」
「二人とも何か欲しい物はあるか?」
「ローニャはね、猫が飼いたい! この世界の猫って小さくて可愛いんでしょう? 私が猫種だからか鳥も兎も逃げてしまうの。
この間、研究所が所有する畑に行った時に動物を見たけど、とっても可愛かったの」
「そうかそうか。良いぞ。ナーニョは欲しいものはあるか?」
「お父様、欲しいものというか、やりたいことが見つかりました」
「うん、なんだい? とても悩んでいたと聞いたが、決まったのかな?」
父は気を使うように優しく聞いてきた。
「今度、エサイアス様は国中を巡視するのでしょう? 私もそれについていきたいと思っています。怪我した騎士をその場で治療出来ますし、各領地への影響は大きなものになると思うのです。
それに、グリークス神官長のように魔法が使える人達を探し出すのも私に課された重要な使命ではないかと思うのです」
私の言葉に父も母も食事をする手が止まった。
「……そうか。ナーニョのしようとしている事はとても危険なことなのだと分かっているのか?」
「はい。でも、私がしなければいけないと思うんです。お父様とお母様にお願いがあります」
「なに、かしら?」
「私がエサイアス様の巡視に同行している間、ローニャの事をお願いしたいのです。
ローニャはもうすぐ成長が終わり、私と同様に魔法も使えるようになってきました。
ですが、まだまだ考えが幼い部分があります。どうか妹を酷使させないで欲しいのです。そして危険が及ばないようにしていただきたいのです」
「そんな当たり前のことだわ。二人とも私達の娘ですもの」
「……ナーニョ。すまない。儂たちはナーニョに縋る事しか出来ない。ローニャのことは儂とグランディアが責任を持つことを誓おう」
「お父様、お母様、ありがとうございます」
「……明日から忙しくなるな。そうだ、グリークスにも知らせておかねばな」
しんみりした雰囲気を崩すようにローニャは美味しい、美味しいと嬉しそうに食事をしているのを見て父達も笑顔で食べ始めた。
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