第32話
「この部屋の患者は終わりました。ナーニョ殿の魔力はどれくらい残っているのでしょうか?」
「半分を切ったところかなぁと思っています。あと、二、三人は治療出来そうな気はします」
「分かりました。今日はこれで終わりにしましょう。何かあるといけないので底を突くまでの魔力は使わない方がいいですね」
「わかりました」
こうして医務室へと戻った私。ローニャの方はまだ戻ってきていないみたい。
「ナーニョさん、お疲れ様でした。軽食を用意してあるのでお食べ下さい」
「ありがとうございます」
お腹が減っているので遠慮なく食べることにした。
ローニャは大丈夫かな。
少し心配になる。
「ゼロを治療した時にも凄いと思ったけれど、魔法はとても凄い。第二の君はあれをどう見た?」
「いやぁ、言葉も出なかったですね。欠損も治せる指輪。今後の我々の頑張り次第だという事ですね。ナーニョさんを見ていると、言い伝えの通りになっていますね」
「あぁ、そうだな。そんな言い伝えがあったな」
言い伝え?
ザイオン医務官も研究所の人達も頷いている。ナーニョは不思議に思い、聞いてみた。
「言い伝えとは何の話ですか?」
「あぁ、言い伝えは『魔物がこの世界を闊歩する時、空から聖女が落ちてくる』となっている。
大昔は落ち人もたまに落ちてきていたようだからその中で治療が出来る人間か獣人がいたのだろう。聖女と呼ばれる人間は過去に何人かはいたようだ」
「私達はナーニョさんとローニャさんを見て言い伝えの通り、聖女なのだと思いました」
私の世界には聖女という言葉は無いので不思議な感覚だが、何かとても神様のような神聖な人なのだろうというのは分かった。
私はみんなが思うほど偉くも素晴らしくもないのに。
そう思って口に出そうとした時、廊下からドッと大勢の声が聞こえてきた。
私はもちろん医務室に居た人達は一斉に廊下の方に視線を向ける。
「……何か騒がしいですね。様子を見てきましょうか」
私はローニャの事が心配になり、軽食を置いてローニャのいる部屋へと向かった。
怪我の軽い人達が入院している部屋は大勢の人達が一つの部屋にベッドが沢山置かれている部屋だった。
ざわざわとしていたのは元気になった騎士と治療を待っている騎士達の声。
どうやらローニャが魔法を使う度に声が上がっているようだ。
「ローニャちゃん! 有難う。俺の骨、くっついてる!」
「治って良かった。次の人は、どこが痛いのかな?」
「俺は腕の怪我と見てわかる通り両足の骨折だ。治せるのかい?」
「うん! ローニャに任せてっ!『ヒエロス』」
ローニャが唱えた魔法は柔らかい光に包まれて治療をしているようだが、途中でその光が消えた。
「……ごめんなさぁぃ。魔力が尽きちゃったみたい。明日、続きをするからね」
「有難う、完治していなくても痛みは大分軽くなった」
ローニャはしょんぼりしているが、怪我の途中で中止となった騎士は微笑んでいる。
「ローニャ、治療は終わりそう?」
「お姉ちゃん! あのね、途中で魔力が尽きちゃったの。この騎士さんの怪我が途中になってしまったの」
「そう、中途半端は良くないわね。騎士様、お手をお借りしますね」
「あ、あぁ」
私はそっと手を両手で包みヒエロスを唱えた。
ローニャの魔法は日にひに丁寧になっている気がする。
私よりも上手になるのは時間の問題かもしれないわね。
そう思いながらローニャの残した傷を治癒していく。
「終わりました。騎士様、右腕に古傷があり、いつも庇っていたようですね。左を中心に細かな古傷がありました。全ての傷は治しましたが、あまり無理はしないようにして下さいね」
「!! そ、そうだ。特に雨の日には痛んでいた。傷が全て治っている。有難う。これからは無理をしないようにする」
「さぁローニャ、帰るよ。では騎士様方、明日また治療させて下さい」
私はローニャの手を取り一礼して部屋を出た。
「さすがお姉ちゃん。ローニャも早く古傷まで治せるようにしたいな。お腹ぺこぺこ!」
「ローニャはとても上手に魔法を使えているわ。すぐに私以上の治療が出来るようになるわ。医務室で軽食が用意されているから食べましょう」
「はぁい!」
私はローニャから騎士の治療の話を聞きながら一緒に軽食のロティを食べた。
研究所の人達は皆で記録した事を確認しながらあれやこれやと難しい話をしていたわ。
「ローニャ、一杯働いて、ご飯を食べたから眠くなっちゃった」
「ローニャさん、私がエサイアス様の邸までお連れしましょう」
ローニャは護衛のマルカスさんに抱っこされる形でウトウトし始めている。
「ザイオン先生、途中で申し訳ないのですが、今日はこのまま帰宅しても良いでしょうか?」
「あぁ、もちろんだ。ローニャ殿には無理をさせてしまったな。申し訳ない」
「いえ、この子は皆の役に立ちたいを自分の体力も考えずに動いたせいです。
マルカスさん、このままエサイアス様のところに寄った後、邸に向かってもらってもいいですか?」
「えぇ、もちろん。通り道ですし、お二人の警護のためエサイアス様も一緒に帰宅されると思います」
英雄に警護してもらえるなんて世の女性を敵に回しそうだ、と思ってしまう。
「では、皆様。お先に失礼します」
「ナーニョ殿、気を付けて帰るように」
「ナーニョさん、また明日ね」
私はローニャを抱えたマルカスさんとフェルナンドさんで医務室を後にした。
騎士団の詰所に寄る途中、ローニャが治した騎士達にすれ違うと皆会釈し、治療のお礼を言われたわ。
それに元気を貰ったと。
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