小さなお友達

鈴音

小さなお友達

ぽけぷち

 小さいころからそばにいた、小さなお友達。ひんやりすべすべなお肌の、お人形さん。

 深い青と優しい赤のがらすの眼に、ふわふわの白い髪の毛とドレス。無表情だけど、ずっといっしょだったから、何を考えているのか、すぐわかっちゃう。

 どこへ行っても、何をしても離れることはなくって、ほつれたドレスを治してあげるためにお裁縫も習った。

 でも、いつまでもいっしょには、いられなかった。

 どれだけ綺麗に治しても、継ぎ接ぎで補強してあげても、時間が経つほどにこの子はぼろぼろになっていって、いつしか部屋でほこりをかぶるようになっちゃった。

 昔は、光を吸い込んで宝石みたいに輝いていたがらすの眼も、少しくすんでしまって、髪の毛も白さを失っていった。

 何歳になっても手放せなくて、周りに嫌なことを言われることもあった。それでも、この子とずっといっしょにいたかった。

 大丈夫。きっと治せる。ずっと、そう信じていた。

 だけど、ある日、私の友達はどこかへ行ってしまった。

 お出かけして、帰ってきたら、煙のように消えていて、周りの誰も知らないって。嘘は、言ってなかった。

 私はあの子を必死に探したけど、見つからなくって。本当にもう、どうしようもないんだって、思ったその時、不思議なお店を見つけた。

 お店の名前は、「fée atelier」。読み方はわからないけど、不思議と、お店に招かれているような気がした。

 ふらふらと店内に入ると、人形用のたくさんの素敵なドレスや衣装が飾られていて、ショーケースの中には一対の宝石やがらす球……瞳や、アクセサリーが並んでいた。

 そのショーケースの奥、暗幕のかけられたその向こうを、そっと覗いてみると、お人形さんが動いて、ぼろぼろになったドレスを自分より大きな針で縫ったり、腕の取れてしまった人形を治すために、えっさほいさと作業をしていた。

 そのうちの一人が、ふぅと一息ついたとき、私に気づいて、ふわっと飛んでやってきた。

「ようこそ、妖精の工房「ふぇ・あとりえ」へ!

 あなたの大事なお友達は、今私たちのところでおやすみしています。もう少し、待っててね」

 ぽん。と、渡されたのは、見覚えのある髪留めのリボン。そう、あの子の付けていたものと、全くおんなじ。

 そこで私は気づきました。あの子はきっと、自分でか、ここの誰かに手伝ってもらってか、私のために綺麗に治してもらいにきたのです。

 お家からこの工房までは、結構な距離があります。その道のりは、きっと大変なものだったでしょう。

 それを思うと、とっても嬉しい気持ちと、頼って欲しいなぁって気持ちになって、やれやれとため息をつきました。

 いつの間にか用意された椅子に腰かけて、お人形たちの作業を見ていると、ごろごろごろと音を立てて、誰かが近づいてきました。

 振り返ると、そこには昔に戻ったような、いやそれ以上に綺麗になったあの子がいました。頭に包帯を巻いて、ちょっぴり申し訳なさそうな顔をしているのを見ると、この子も動けるんだって何だか不思議な気持ちななりました。

 まぁ、それはそれとして。私に何も言わず出ていったことを少しだけ怒ってから、私は手の中のリボンを結んであげました。やっぱり、どれだけ綺麗になっても、私のお友達には、リボンがないと締まらないものです。

 まだ完全に治ってはないけれど、残りは私がやってあげたいから、お友達を抱きかかえて、私は立ち上がりました。

「また、いっしょに遊ぼうね」

 そう言って、二人でお家までの帰り道を歩いたのでした。

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