それはそうだな

 司馬懿達が準備に取り掛かる中、曹昂は部屋で哮天と遊んでいると、其処に劉巴が参ったと、部屋の外に控えている趙雲が伝えて来た。


 曹昂が部屋に通す様に命じると、直ぐに劉巴を連れて来た。


「御寛ぎの中に失礼致します」


「良い。それで、何用で来たのだ?」


 曹昂が話しを促すと、劉巴は頷いた後に答えた。


「此度の長安に向かう援軍の編成について、御話が」


 劉巴が言葉を続けようとした所で、曹昂は手で止めた。


「龐徳を先鋒にした事が問題か?」


 曹昂に言われて、劉巴は目を剥いた。


 まるで、言おうとした事を先に言われて驚いている様であった。


「な、何故お分かりに?」


「なに、長安に向かう援軍の編成と言うのを聞けば、馬超の父親に仕えていた龐徳しか問題はないだろうと思っただけだ」


「そうでしたか。正にその通りです。昔、父親の部下であったのです。その縁で馬超が寝返りを打診してくるかもしれません」 


 劉巴が疑問を抱いているのを見て、曹昂は顎を撫でた。


「疑う気持ちは分かるが、その様な事を気にしていれば、誰も用いる事が出来なくなるぞ」


「ですが、少しでも疑いがあるのであれば、警戒すべきです。兵の士気にも関わります」


「お主の気持ちは分かった。そうだな、とりあえず司馬懿達の意見を聞いてから、どうするか決めようか」


 劉巴が不安に思っているので、曹昂は司馬懿達がどう思っているのか聞く事にした。


 人を呼び、司馬懿達を部屋に来る様に伝える様に命じた。




 少しして、司馬懿達が部屋に参った。


「お呼びとの事で参りました」


「何か、話があると聞きましたが」


 司馬懿達が一礼した後、顔を上げるなり訊ねて来た。


「・・・此度の軍の編成について、何か疑問はないかと思い呼んだのだ」


 曹昂の問いに、司馬懿達は何が言いたいのか分からず、互いの顔を見た。


「殿、お言葉の意味をはかりかねます」


「兵数も将も特に問題ないと思うのですが?」


 司馬懿達は何を聞きたいのか分からず、訊ねて来た。


「道案内を龐徳に任せたが、二人は不安に思う事はないか?」


「・・・・・・ああ、そういう事ですか」


「確か、龐徳殿は馬超の父に仕えていましたね。成程、寝返りを打診される事を警戒しているのですね」


 司馬懿達は、ようやく何か言いたいのか分かり頷いた。


「まぁ、その通りだ。二人は不安ではないのか。少しでもそう思うのであれば、龐徳には悪いが。道案内は別の者に変えるが」


 曹昂は司馬懿達に尋ねると、意外な事に二人は問題ないと首を振った。


「いえ、特に問題ありません」


「話していて、龐徳殿は忠義に厚い御方だと分かりましたので、道案内も先鋒の役も立派に勤めてくれると思います」


 司馬懿達は変えなくても良いと言うのを聞き、劉巴は気になり口を挟んできた。


「しかし、龐徳殿は馬騰に仕えていたのだ。不安とは思わないのか?」


「全くないとは言えぬが、馬騰が死んだのは、馬超の行いで死んだのだ。それについて怒っているかも知れんからな」


「うむ。むしろ、そちらの方で恨みに思っているかもしれん。だが、それよりも」


 劉巴の問いに、司馬懿達は答えた後、互いの顔を見て頷いた。


「「呂布を連れて行く事に比べたら、遥かに良いだろう」」


 司馬懿達が口を揃えて言うと、劉巴はぐうの音が出ない顔をしたが、曹昂は苦笑いしていた。


「幾ら、今は殿に対して忠節を貫いているとは言え、馬欲しさに義父を殺した男ですぞ。連れて行けば、条件次第で敵に寝返りそうで不安です」


「殿の前でこう言うのもなんですが。丞相があの者を破った時、処刑したかった気持ちは分かりますぞ。何時、どんな条件で敵に寝返るか分かりませんからな」


「そうか? 妻と娘と一族も既に陳留に居るのだから、軽々しく寝返る事はしないと思うが?」


「馬超を見て下され。あの者は、自分の欲望の為に反乱を起こしましたが、その結果反乱は失敗し逃亡した上に、父親を含めた殆どの一族の者達は処刑されたのです。呂布も同じ事をしないとは言い切れないでしょう」


「ははは、それは考え過ぎだろう」


 曹昂が笑うが、劉巴達は何故笑うのか分からない顔をしていた。


「まぁ、とりあえず二人は龐徳を連れて行く事に、不安はないのだろう」


「はい。問題ありません」


「気になるのであれば、龐徳殿に何か与えれば良いのでは。あの者は義理堅い性格の様ですから、恩賞を与えれば叛く事はしませんよ」


 法正がそう言うのを聞き、曹昂はその助言を聞く事にした。



 数日後。



 遠征の準備が整いだした頃。


 曹昂は、龐徳を中庭に呼んだ。


 龐徳が中庭に着くと、其処には曹昂の他に、人に手綱を取られている一頭の馬が居た。


 全身が雪の様に白い毛と桃色の肌を持ち、青い目を持っていた。


「殿。お呼びとの事で参りました」


「ああ、良く来てくれた。此度の遠征に際して、恩賞を渡す」


 曹昂はそう言って、手綱を持っている者に合図を送る。


「この馬は一日で九百里を駆ける事が出来る名馬だ。これを其方に与えるので、見事武功を立てて参れ」


「ははぁっ!この龐令明。必ずや、功を立てて参ります」


 馬の手綱を受け取った龐徳は跪いて、武功を立てると誓った。


 これ以降、龐徳は賜った白毛の馬を跨り戦場に赴く事から『白馬将軍』と言われる事となった。

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