閑話 程丹の悩み
宛城の戦いを終えてからというものの、程丹は気まずい日を過ごしていた。
曹昂が無事であった事を喜ぶべきなのではあるのだが、一つだけ問題があった。
それは、曹昂が戻ってきた時に泣きながら子供みたいに殴った事であった。
泣くのは問題ないのだが、子供みたいにポカポカ殴った事を恥ずかしいと思っていた。
程丹の方が歳上で普段から冷静に行動し、意見を求められたら状況に合わせて意見を述べ、誰が相手であろうと引けを取らない様に武芸を身に付けていた。
これが、程昱の娘だと振舞っていた自分が、子供みたいな振る舞いをしている事を恥じ入っている様であった。
その為か、その原因である曹昂ともあまり顔を合わせない様にしていた。
顔を合わせると、その時の事を思いだすからだ。
幸い最近の曹昂は忙しいので、夜伽にも呼ばれる事は無いのが救いであった。
もし、呼び出されれば、どんな顔をして会えば良いのか分からないからだ。
それはそれで良いと思う反面、このままでは寵愛を失うのではという思いもあった。
そう思いはするが、どうしたら良い物か悩んでいた。
(…………どうしたものかしら?)
どれだけ悩んでも答えが出ないので、程丹はどうしたら良いのか分からなくなっていた。
そんな所に、自分付きの侍女が部屋に入って来た。
「申し上げます。董白様が参りました」
「董白が? 通しなさい」
曹昂の妻妾達の中で馬が合い、何かと話す事が多い董白が訪ねて来たというので、何の用かしら?と思いつつ通すように命じる程丹。
少しすると、侍女が董白を部屋に連れて来た。
「何だ。思っていたよりも元気そうだな」
「何の用かしら?」
部屋に入って来るなり、董白は挨拶を抜きにそう言いだした。
駆け引きも社交辞令も無いやり取りは、程丹からしたら余計な事に気を回さずに済むので気楽に話す事が出来た。
「いや、何か。あたしらの旦那様が「最近、程丹と話す事が無いので、元気にしているかどうか見てくれ」と頼まれたんで、来たんだ」
董白は隠す事ないのか、部屋に訪ねた理由を述べた。
曹昂の名前が出て、程丹は身体を震わせる。
「そ、そう。旦那様が。気を遣わせて悪かったわね」
程丹がそう言うのを聞いた董白は首を傾げた。
「……お前、身体の調子悪いの?」
「どういう意味?」
「いや、普段なら『あらあら。会えない私に気を遣うなんて、旦那様の愛を感じるわ』とか言うお前がそんな事を言うからさ、調子悪いのかと思ってさ」
「私はそんな事は言いませんっ」
「でも、似たような事を言うだろう。それで、調子悪いのか?」
「……別に問題ないわ」
「そう見えないんだけど。何かあるのか?」
鋭いと思いつつ程丹はどうにかして誤魔化そうと考えていた。
「旦那様も宛城の戦いを終えて会うのを避けてる節があるとか言っていたし、何かあるんだろう。…………あれか、宛城の戦いの時に、子供みたいに喚き散らしていたって噂があったけど、本当か?」
「うぐっ」
「おいおい、当たりかよ。へぇ~、あんたでもそんな乙女みたいな感情があるんだな」
「……可愛くない子ね。貴方は」
図星を突かれた程丹は唇を突き出しながら目を細める。
「何だ。そういう事か。・・・ぷっ、っははははは」
程丹の反応で董白は堪える事が出来ず、笑い出した。
揶揄われていると思った程丹は顔を赤らめ悔しそうな顔をしながら、董白を睨んでいた。
董白も一頻り笑った後、悪いと思ったのか、その後は程丹と話し、彼女の愚痴を聞いていた。
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