相性最悪

 兵の報告を聞いた曹操は、直ぐに孔融と別室で会う事にした。


 別室に通された孔融は、曹操に会うなり袁紹の息子の袁譚が攻め込んで来た事で、領地を失い逃げ出した事を怒り混じりで告げた。


 一族の者達もどうしているか分からず、行く宛ても無いので朝廷に仕えさせてほしいと懇願した。


 曹操も方針の一環で青州を袁紹に渡した事を悪いと思ったのか、それとも聖人と言われる孔子の子孫を仕えさせる事で、名士が仕えるようになると思ったのか、孔融を迎え入れて、即日将作大匠という官職を与えた。


 孔融は感謝して頭を垂れた。


 孔融が朝廷から官職を与えられ、朝議に出席する様になったという話は直ぐに国中に広まった。


 孔子の子孫が仕えているという事で、名士と言われる者達が朝廷に仕官を求めて来た。


 早速効果が出た事に、曹操は喜んでいた。


 また、話を聞いた親族達が許昌に参り、孔融は親族が無事である事を喜んでいた。



 それから、数日が経った。


 曹昂は自分の領地に戻っていたが、青州についての情報収集を行っていた。


 その報告書が届いたので目を通す曹昂。


「袁紹は袁譚に青州の統治を任せ、自分は幽州攻略に専念する模様。まぁ、黄巾賊が暴れ回った事で荒廃している土地を開拓するぐらいなら、誰かに任せても問題ないしな。それで肝心の袁譚の統治は…………これはまた」


 報告書の続きを読んだ曹昂は呆れていた。


 其処に書かれていたのは、袁譚は賓客達に対し良い待遇を与え名士を尊重しはしているが、統治自体は郭図に任せきりであった。郭図は禄に開拓を行っていないのだが、郭図は言葉巧みに袁譚から金を引き出して、自分の懐に入れていると書かれていた。


「開拓もしてないのなら、租税も碌に入らないだろうに。郭図って馬鹿なのか?」


 袁紹の配下の謀臣であるのに、此処まで先を見通せない人であったのかと思う曹昂。


「・・・・・・とりあえず続きを読むか。尚、青州は孔融が統治していた頃から、上手く統治されていなかった為、混乱が助長している模様。孔子の子孫とは言え、政治は得意ではないか」


 腐れ儒者とは、こういう事を言うのかと思う曹昂。


「そう言えば、孔融は許昌ではどうしているのかな?」


 ふと、そんな事を思う曹昂。


 気になったので、劉巴を遣りどんな事をしているのか調べさせた。




 数日後。




 許昌に送った劉巴が戻って来たので、曹昂は部屋に通した。


「ただいま戻りました」


「ご苦労。それで、孔融殿はどうされているのかな?」


「はぁ、それが……」


 劉巴は口籠もらせた。


「……何となく分かるけど、一応報告を」


「はぁ、実は」


 劉巴は自分なりに調べ人伝に聞いた話を語りだした。


 曹操の施政の中で納得いかないことがあると、古例に喩えて厳しく詰った。


 朝議の質疑応答では、いつも中心になって発言しているが、当てつけがましい屁理屈が多いので、曹操だけではなく、荀彧、郭嘉と言った文官達にも受けが良くない。


 特に曹操とは折り合いが悪く、嫌悪をしているという噂まである。


 極稀に正論を述べる事に加えて、士人(儒家としての人文的教養を身につけ、支配的・指導的な立場にある者)達から厚く支持されているので、質が悪いと言われている。


「成程。父上も今頃、迎え入れた事を後悔しているかもね」


「さぁ、其処までは。ただ、話を聞いているだけでも、何時首を刎ねるか分からないという噂が流れておりました」


「ははは、相性が悪い様だ」


 まぁ、そう遠くない内に刎ねる事になるのだけどなと思う曹昂。


「屁理屈をこねるか。……理屈倒れの孔文挙なんて、ピッタリだな」


 理屈に傾倒し儒教に忠実な孔融の話を聞いた曹昂は、ふと思いついた渾名が口に出た。


「何です? それは?」


「いや、孔融殿の話を聞いていて思ったんだけど、知識は豊富だけど、発言しても現実の道理に合わず実現性に欠けた屁理屈ばかり言うから、理屈倒れだなと思って」


「成程。そう訊くと何だか面白いですね」


 曹昂の評が面白いのか笑う劉巴。


「ともかく、ご苦労だったね。劉巴」


「いえ、大した苦労ではありませんので」


 労う曹昂に劉巴は笑顔で応えた。


「今日はもう休んで良いから」


「承知しました。では」


 劉巴は一礼し、部屋から出て行った。


 劉巴が部屋を出て行くと、曹昂は他の報告書に目を通した。

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