成り行きに任せる事はしない

 まだ曹操が戻っていないので、代理として曹昂が陳登から話を聞いた。


 陳登曰く、袁術は呂布と婚姻を結ぶ使者として韓胤を送ったが、呂布はその話を断った上に、袁術が皇帝になるつもりだと断じて、朝廷への忠誠の為、陳登に韓胤を連れて行くように命じたと。


 その話を聞いた曹昂は父曹操が居ない間に韓胤を処分するべきではないと判断し、韓胤を牢に入れた。陳登の相手は荀彧に任せて、曹昂は騎兵を率いて劉吉達を迎えに行った。


 


 許昌へ向かう馬車の中で、劉吉と練師の二人は同乗している曹昂に声を掛けていた。


「本当に心臓が止まるかと思いました……」


「私もです」


 迎えに来た曹昂の姿に、劉吉達は見るなり悲鳴を上げて互いの身体を抱き締めていた。


 曹昂も二度目となると、慣れたのか冷静に話をして、二人を落ち着かせた。


 話を聞き終えた二人は今度は曹昂が無事であった事を歓び泣き出した。


 二人が泣き終える頃には、馬車の修理が終わり、許昌へと向かった。


 折角なので、曹昂も馬車に乗る事にした。乗って来た馬は部下に預けた。


「まぁ、こちらの不手際という事で、許して欲しいかな」 


 曹昂も生きているのに葬儀が行われていたと知った時は驚いていた。


 曹昂の隣に座る劉吉は、その手を取り握った。


「お願いですから、無理はしないで下さい。私よりも先に逝かないで下さいね」


「……善処します」


 戦場に出る以上、流れ矢に当たるという事も有り得る。


 そう思いはするが、劉吉達の気持ちを察した曹昂はそう答えるのであった。


 練師も同じ思いなのか、曹昂の腕にギュッと抱き付いて来た。


 二人の気持ちを嬉しく思い、曹昂は顔を綻ばせた。


 許昌に到着した曹昂は、曹操が戻って来るまで許昌に居る事にした。




 数十日後。




 曹操が丁薔を連れて戻って来た。


 二人が屋敷に戻ると、曹昂達が出迎えた。


 話もそこそこに、曹昂は曹操に話があると言って、部屋で話そうと促した。


 部屋に入ると、曹昂は陳登から聞いた話を曹操に話した。


「ふむ。袁術は呂布と同盟を結ぼうとしたが断られたか」


「義父上はどの様な手段に出て来るでしょうか?」


「私が知っているあいつであれば、これを恨みに思って、攻め込むであろうな」


 袁術とは長い付き合いであった曹操はそう断言した。


「では、我等は如何なさいますか?」


 曹昂は曹操がどんな方針を立てているのか気になり訊ねた。


 現在の状況では、袁術とは同盟関係を結んでいるので、援軍を送る事も出来た。


 呂布に対しても恩を売る為に、支援などする事も出来た。


「……今は動かん」


「それはつまり、どちらにも手を貸さないという事ですか?」


 曹操が動かないと言うのを聞いて、曹昂は中立になるつもりなのかと思い訊ねた。


「今回、どちらが勝ったとしても、相当な痛手を被るだろう。より弱った方を我等が叩くのだ」


「成程。戦っている最中に義父上が援軍を要請してきたらどうします?」


「その時は先の戦で多くの兵を失ったので、援軍は送れぬと言えばよい」


 先の負け戦も利用する曹操の強かさに、曹昂は内心で舌を巻いた。


「牢に入っている韓胤は如何なさいます?」


 一応袁術とは同盟を結んでいるので、曹昂はどうするのかと思い訊ねた。


「斬れ。斬った首は市で晒し首にしろ。呂布もそうして貰おうと思い送ったのであろうしな」


「承知しました。ですが、呂布が負ければ、袁術の勢力は拡大すると思います。ですので、此処は呂布に勝たせるのが良いと思います」


「確かにそうかも知れんが。何か策があるのか?」


「はい。此処は」


 曹昂は誰にも訊かれたくないのか、曹操に近付いて囁いた。


 話を聞いた曹操は目を剥いていた。


「いや、それはあまりに危険だと思うぞ?」


「ですが。現地に行かねば対応が難しくなります」


「それはそうだが、う~む」


 曹操は頭を悩ませた。


「大丈夫です。戻って来る方法はありますのでご安心を」


「…………まぁ、無理はするでないぞ」


「承知しました。では、準備がありますので。これで」


 曹昂は一礼した後、部屋を後にした。


 


 翌日。


 韓胤は市場に引き出され、斬首された。


 切り落とされた首は晒し首となった。


 季節が春から夏に切り替わろうとする頃。


 袁術は二十万の兵を徐州へ差し向けたという報告が曹操達の下に齎された。

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