運命の時が来た
月日は瞬く間に流れ、年が変わった。
献帝は年が変わった記念として、年号を興平から建安へと変えた。
曹操は南陽郡にいる張繍の勢力を警戒し、討伐を決定。
動員兵力は十五万という大軍であった。
各地から徴兵の命が下る中、陳留にいる曹昂の下にも参陣せよとの命が下った。
使者より、命令書を受け取った曹昂は受諾し、兵を集めた。
曹昂も鎧を纏い、出陣の準備を整えていた。
(……別段初陣という訳ではないけど、何か緊張するな)
手が震え、落ち着きがない曹昂。
史実ではこの戦場で自分が死ぬ事になっているのだから、不安になっても仕方がなかった。
そんな落ち着かない曹昂の元に、劉吉を含めた妻達がやって来た。
「旦那様。挨拶に参りました」
「ああ、来てくれたか」
曹昂は、まず第一夫人の劉吉の側に行く。
「どうか、御無事で」
劉吉が頭を下げてそう言うと、曹昂は劉吉の手を取り握った。
「皇女様。どうか、ご心配なさらずに。無事に帰って参りますので」
「はい。お早い御帰りをお待ちしております。それと」
劉吉は曹昂の手を握った。
「どうか、私よりも先に逝かないで下さい」
「……善処します」
そう言葉を交わし、曹昂は隣の袁玉に近付く。
「武運長久をお祈りいたします」
「ありがとう」
袁玉と言葉を交わした曹昂は蔡琰、董白に言葉を交わした後、程丹と言葉を交わそうとしたが、姿が無かった。
何故居ないのか気になり、貂蝉を見た。
「程丹さんであれば、外でお待ちです」
貂蝉の言葉で、程丹が付いて来る気なのだと分かった曹昂は呆れた顔をしていた。
「別に付いて来なくても良いだろうに」
「別に良いだろう。じゃなかったら、あたしが付いて行くつもりだったし」
曹昂の呟きに答えるように董白が答えた。
それを聞き、溜め息を吐いた。
「付いて来なくても良いのに……」
「いやぁ、張繍の叔父の張済の奥さんは美人だから、その色香に負けて、お前が手を出しそうだから」
「お目付け役か。私よりも、父上の方が先に手を出すとは思わないのかい?」
人妻好きである曹操が未亡人の張済の妻に手を出さない筈がないと言う。
曹昂の言葉に、劉吉達は微苦笑して何も言わなかった。
(そんなに接していないのに、父上の人妻好きが知れ渡っているとは、凄いと取るべきか。父上の人妻好きが劉吉達の耳に聞こえる程に轟いているという事か。どちらだろうか?)
曹昂は劉吉達の反応を見て、そう思った。
「おほん。まぁ、そこら辺は大丈夫だと思うけど、無事に帰って来る事を祈っておいてくれ」
変な空気になったので、曹昂は咳払いをして空気を変えて部屋を後にした。
部屋を出た曹昂は軍が待つ庭へと向かう為、廊下を歩いていた。
前方に左慈の姿を見つけると、足を止めて一礼する。
「これは先生。見送りに来てくれたのですか?」
「うむ。それと、そろそろお主に掛けた枷を解こうと思ってな」
「はい?」
枷と言われても、曹昂は何の事なのか分からなかった。
そんな曹昂に構わず、左慈は近付き、ピンと伸びた人差し指が胸を突いた。
その瞬間、呼吸が先程よりも深く息を吸う事が出来た。
「これはっ」
「経穴を突いて、呼吸を以前と同じ状態とした。これで、早々に息が切れる事はなかろう」
成程。あの時、経穴を突いたのは、こういう時の為かと思う曹昂。
「お主の身分であれば、身体を動かすのが難しいと思い処置したが、思っていたよりも効果があった様じゃな」
そう呟く左慈。
曹昂は言われるまで、自分がされた事を忘れていた。
(でも、これでそう簡単に息切れする事は無いか)
左慈に礼を述べ、曹昂は離れて行った。
そして、軍の待つ庭に辿り着いた。
騎兵、歩兵合わせて五千。
本来の陳留であれば、この数倍を集める事も出来たが、蝗害と反乱による人口の低下が尾を引いていた。
とは言え、その内の千人には新兵器を装備した兵がいた。
それだけでも、十分に頼もしいと思う曹昂。
居並ぶ兵と部将達の列を見ていると、横から程丹が馬の手綱を持って近付いて来た。
「どうぞ」
「ありがとう。それにしても、別に付いてこなくても良いのに」
「ふふふ、妾になったのですから、このくらいは」
程丹は何と言われても付いて行くという、決意の固まった顔をしていた。
もう、何を言っても無駄だと悟った曹昂は黙って手綱を受け取り、馬に跨った。
「これより、我が軍は許昌に向かう、皆、奮起せよっ!」
「「「おおおおおおおっっっっ‼‼‼」」」
曹昂の号令に将兵達は喚声を挙げた。
そして、五千の兵を持って許昌へ向かった。
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