返事は来たが

 徐州で反乱が起きたという情報は、直ぐに陳留に居る曹昂の耳に入った。


 事の経緯を知る為に密偵を徐州に送り込み、どういう事が起こったのか徹底的に調べ上げた。


 それにより、事の詳細を知る事が出来た。


「はぁ、義父上も内応で敵を攪乱させてきたか。考えたな」


 報告書に書かれている内容を呼んだ曹昂は袁術の謀略の巧みさに舌を巻いた。


 この件により、陳宮は呂布の信用を失ったも同然だ。


「近々、義父上も兵を挙げるかもな」


 その時の対処は、袁術の状況と周りの状況次第で変えるしかないと判断する曹昂。


 城内の一室で、報告を読んでいたところに使用人がやって来た。


「申し上げます。董白様がお会いしたいとの事です」


「董白が。通せ」


 使用人が一礼し部屋を出て行くと、董白が入って来た。


「ちょっと邪魔するぜ」


 董白が挨拶をしながら入って来た。


 手には、書簡を持っていた。


「今日はどうしたんだい?」


「実はよ。困った事が起きたんだ」


 董白は頭を掻き、困惑した顔をしていた。


「困った事?」


「ああ、 前に張済に文を送る様に頼まれただろう」


「言っていたね。返事が来たのかな?」


 良い返事を期待したが、董白の顔を見るに違った様であった。


「それが、張済の奴。流れ矢に当たって戦死したそうだぜ」


「えっ⁉」


 董白の報告を聞いた曹昂は驚いた。


(史実では来年だった筈だけどな……)


 曹昂の記憶の中にある史実では張済が戦死するのは来年の建安元年西暦百九十六年であった。


 まだ興平二年西暦百九十五年であった。


(ふむ。これは歴史が少し変わったという事か)


 前世の記憶を持つ曹昂が歴史に介入した事で、史実が改変されたのかも知れないと思った。


(……今更だな。もう色々と改変しているんだから)


 父曹操の覇業に貢献している時点で、かなり改変していたのだ。


 それで、史実に影響してもおかしくはなかった。


「…………」


「な、何だよ」


 今目の前に改変した事で助けられた存在が居ると思うと、悪いものではないなと思う曹昂。


 曹昂の視線を浴びた董白は、どうしてそんなに見られているのか分からず、首を傾げた。


「……君は幸せかな?」


「何言ってるんだ。お前?」


 曹昂の問い掛けに、董白はその言葉の意味が分からず困惑した。


 困惑している董白に曹昂は苦笑した。


 自分で言いながら、突拍子であったのだと分かったからだ。


「ごめんごめん。そうだな。特に意味は無いよ。ただ、君はどう思っているのかを聞きたかっただけさ」


「そうかよ。…………まぁ、幸せかな」


 董白は、少し顔を赤くしながら曹昂の問い掛けに答えた。


「そっか。良かった」


 董白の返事を聞いた曹昂は安堵の息を漏らした。


「? もう行っても良いか?」


「その前に、張済が死んだんなら、誰が軍勢を率いているのかな?」


「甥の張繡って奴が率いているそうだぜ。会った事が無いから、どんな奴なのか知らないけど」


「分かった。ありがとう」


 曹昂は董白に礼を述べると下がっても良いと手で合図を送る。


 部屋に誰も居なくなると、曹昂は考えた。


(……史実が変わっている以上、どんな事になっても備えるべきか)


 その為に必要な物が何なのか、曹昂は分かっていた。


(作ってみるか。敵に奪われる事も考えられるから、作らない様にしていたけど。作るしかないか)


 そうと決めた曹昂は直ぐに設計図を引いて作るべき物を書いた。


 その設計図にはこう書かれていた。「火槍」と。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る